家に帰ったらそれはそれでまた面倒なことが待っている
「ただいまー!」
片原萩香、帰宅。ああ、なんかすごく長い間家に帰ってなかったような気がするよ! それはまあ、いじめというものがあったからなんだけど……。私、こんなのに負けないんだからねっ!
「お姉ちゃん、おかえり」
姉妹共同で使っている部屋に入ると、純香がそう言った。あーもう、なんで妹ってこんなに可愛いの!? 萌えちゃう、お姉ちゃん萌えちゃうよ! ……おい、私、しっかりしろ。
「ただいま。あれ、純香、宿題?」
「うん。ねえ、お姉ちゃんは歴史の人物で誰が好き?」
「は?」
突然何を聞き出すんだこの子は……。歴史の人物? 私、歴史とか嫌いだから分かんないよ。坂本竜馬と織田信長しか知らないし。顔で選ぶの? それとも、その人がしたことでよかったなーってのを選ぶの?
そう聞こうとしたけど、結構純香は真面目な顔をしていたから、多分イケメンなのを選んだりしたらバレるな。そしてキレられる。それはやだ! この子、可愛い顔して乱暴なんだからな……。
耳の下でツインテールにした量の多い剛毛な髪の毛をいじりながら考える。歴史の人物って言われても……お姉ちゃん困ります。勉強嫌いなんだよ、私。
「坂本竜馬?」
「うん、お姉ちゃんの事だから頭に残ってる人物を選んだね」
バレバレだった! ってか、分かってるなら聞かないでよ!
「いや、一応選択肢はあったんだよ?」
私、慌てて弁解。妹にバカにされてるようじゃ、高校に入れるか不安だよ……。
「選択肢って?」
「坂本竜馬と織田信長」
「それだけ!?」
真剣な顔で答える私に、目をまんまるにして驚く純香。え、それだけ、ですけど……。やっぱり、ヤバいのかな。そろそろ真面目に勉強しないと、マジでヤバいかも。授業中に小説書いてる暇なんてないね。高校に入ってからゆっくり書けばいいや。大学に行くつもりはないし。
とゆーか……私、大学に行かないということは働くってことだよね? まず、歴史の人物二人しか思い浮かばないような私を雇ってくれる会社なんてあるのかな? もしかして、私ってニート人生歩んじゃう感じ!? それはやだ!
「純香、勉強教えて……」
「やだ、お姉ちゃん。そういうのやめてよ。私だって頭よくないもん。ってか、小学生の私に勉強を教えてもらうのはさすがに無理があるでしょ」
純香は呆れたようにため息をつく。そっか。こう見えても、純香はまだ小学六年生。中学生の姉の勉強を見るなんて、嫌だよね……。そして私も恥ずかしい。これは、本気でヤバいっ!!
ため息をついた。私、こんなので生きていけるのかな……。何か分からないけどいじめられるし、勉強はできないし、小学生の妹にバカにされるし、おまけに可愛くもないし性格も別によくない……。うおっと、なんかネガティブ思考に走って行ってしまった。危ない危ない。落ち着こう。……喉渇いたな。お茶でも飲むか。
一階に下りてお茶を冷蔵庫から取り出してコップに注ぐ。うちは麦茶。ほうじ茶はちょっと苦いから苦手なんだよね。
「あら、萩香、帰ってたの」
コップのお茶を飲みほしてまた部屋に戻ろうとしたとき、お母さんが帰ってきた。と言っても、この人はお父さんの再婚相手。だから、本当のお母さんじゃないんだよね。義理のお母さん、まあ、お義母さんってとこかな? 私はいいんだけど、純香の事が気に入らないみたいで。まあ、愛想悪いからかな。目つきも悪い方だし。私からしたら、可愛いと思うんだけどなあ……。