狐を飼うことになりました
僕の名前は山坂 通だ。
大学二年生でアパートに一人暮らしをしている。
大学では動物の研究をしている。
大学が終わった後最寄りの駅から自転車に乗って家に帰る。
それが僕の楽しみだ。
家の近くは緑に囲まれていてすがすがしい。
自転車で一気に坂を下るのがとてつもなく楽しいのである。
今日も坂のてっぺんから一気に自転車で駆けおりた。
自転車が止まる。
普通ならば坂を下った勢いで漕がずとも家に着く。
今日はブレーキをかけた。
公園の近くで止まった。
公園の金網に引っかかっているものがあった。
自転車を道の端において近くへ寄った。
ごそごそとそれは動いている。
-それは狐だった。
狐を丁寧に金網から救い出してやった。
狐はどこかへ逃げていった。
自転車のサドルにまたがりペダルをこぐ。
いつもなら漕がずとも通り抜けられる道。
家までが意外と遠く感じられた。
家に帰った。
荷物を置き床に寝転ぶ。
今日もつかれた。
夕飯でも作ろうかと思った時インターホンがなった。
「はい。 山坂です。 ご用件は何でしょうか。」
「一晩泊めていただけませんか?」
インターホンの映像には和服を着た長髪の二十歳ぐらいの女性が映っていた。
「なんでわざわざここへ?」
女性がインターホンの方を向いた。
均整な顔立ちをしている。
「どうしてもあなたに会いたくて・・・」
「え・・・あ・・・そ・・・その・・・」
こんな綺麗な女性に会いたがられている。
動揺せざるを得なかった。
「ひ・・・一晩だけならいいですよ・・・」
泊めてあげることにした。
女性が家に入ってきた。
まっさきにここへ来た理由を尋ねた。
「なぜ僕に会いたがっているんですか?」
「私仲間を探しているんです。」
「仲間ですか?」
「えぇ、私は仲間を探すのをあなたに手伝ってもらえないかと思いましてここへ訪ねたのであります。」
急に仲間探しを手伝えと言われた。
「それってどれくらいかかるものなのでしょうか?」
「わかりません。 もし手伝っていただけるのであればこの巻物を・・・」
「ちょっと待ってください。 話が理解できません。 誰を探そうとしているのですか?」
「今は申し上げられません。 この契約書を読んでこの巻物にあなたの血でサインをしてもらえませんか?」
そういって巻物と分厚い本が渡された。
「家に上がってきてすぐこんなよくわからないものを渡されても・・・ お断りします。」
「どうしてもっていうの?」
色っぽい声で急に口調を変えてきた。
「え・・・そのですね・・・知らない人についていくというのはですね・・・」
「知らない人? こうしてしゃべりかけてるじゃない?」
「もういいです。 帰ってください。」
すると女性は自分の首元に手をやって首を絞める真似をした。
「ならここで死にます。」
「やめてください。 さっさと帰ってくださいよ。 警察呼びますよ。」
すると女性は僕の首元に手をやった。
「ならお前を殺す。」
「あなたはなんなんですか・・・ 仕方ないです。命は惜しいです。 サインします。」
少し腹が立っていたため契約書を読まなかった。
そして縫い針で人差し指を傷つけて血でサインを書いた。
「これでどう?」
「ありがとうございます。 契約完了です。」
女性からボワンと煙が出た。
煙が引くとそこには
-さっきの狐がいた。
狐がしゃべりだした。
「契約完了したからもうこの姿でいいか。 おいお前早速仲間探しに行くぞ。」
「し・・・喋った! 狐が・・・喋った!」
「当たり前だろ。 俺は九尾だ。 それくらいのこと簡単だ。」
「でも動物学的に狐は人の言葉を話すのは無理なはず・・・」
「俺は九尾だ。 そのへんの狐と一緒にするな!」
「でも九尾ってしっぽが九本あるから九尾なんでしょ? 君しっぽ一本しかないよ。」
「俺はまだ子供だ。 成長したらしっぽが生えてくるんだ。 それに俺は<君>じゃない。 名前がある。 九尾の権兵衛だ。」
「権兵衛か。 いい名前だね。 ゴンでいいかな?」
「省略するな! 俺のことは権兵衛と呼べ!」
気持ちの整理ができなかった。
急に九尾と名乗る狐が現れたのだ。
これは夢だ。
ほっぺたをたたいた。
-痛い。
どうやら現実のようだ。
「ところで君なんで女性になってたの?」
「あれは九尾の力の一つである変化だ。 お前みたいなやつにぴったりの奴に化けてやった。」
「確かにいい人だった。」
「また化けてやろうか?」
「本当に?」
「ただし仲間が見つかってからな。」
「そうか・・・ ところで仲間って何だい?」
「東には青竜 南には朱雀 西には白虎 北には玄武だ。」
「それ四神じゃないか。 って権兵衛も九尾だったね。」
「あぁ須佐之男命様から仲間を集めるようにと言われたんだ。」
「須佐之男命? もう驚くのに疲れたよ。」
「ってことで探しに行くぞ。」
「でもそんなの嫌だ。 悪いがお断りさせてもらうよ。」
「それはできない。 なぜなら・・・」
そういって権兵衛は契約書を指さした。
「契約書一頁の第一項を読め。」
そこには[契約をしたものは九尾が四神を探すのに従わなければならない]と書かれていた。
「そして最後の頁の第九百九十九項を読め。」
[これらの契約に反したものは死罪とする。]
「以前これを反したものは何人となく殺してきた。 お前もそうならないように気をつけろよ。」
「死罪・・・」
「四神を探すうえで命を落としたものもいた。 覚悟はしておけよ。」
「なんで人間と契約をするんですか?」
「俺は人間界のことがよくわからない。 そのためだ。」
「でもなんで僕が・・・」
「俺を金網から救ってくれただろ。 恩返しだ。」
「恩返し? むしろ恩を仇で返されているような気持ちだよ。」
「四神を集めたとき須佐之男命様から協力者にすばらしい贈り物をしていただける。」
「贈り物?」
「一つだけ願いをかなえてもらえるのだ!」
地獄なのか天国なのかわからない。
でもやらなければ目の前の狐に殺される。
何人も殺されたそうだ。
自分はそうなりたくはない。
「ところで今まで何人も僕みたいに契約をしたんですよね? いつから四神集めをしているんですか?」
「50年だ。」
「僕の年より長いじゃないですか。 なのに権兵衛はまだ子供なの?」
「九尾は1000年以上生きる。 50年など短いものだ。 それより腹が減った。 飯を持ってこい!」
仕方なく権兵衛におにぎりをあげた。
「おにぎりはいらない。 俺は稲荷しか食べない。 稲荷を持ってこい!」
「今家に稲荷がないよ。」
「じゃあ近所のスーパーで買ってこい。 今日は稲荷が特売だぞ!」
「人間界詳しいね。」
「これくらいは常識だ! さっさと行け!」
家を出た。
九尾?
この世に存在するはずがない。
きっと疲れてるんだ。
稲荷なんて買いに行かずに家で寝てよう。
家に戻った。
玄関を開けた。
狐はまだいた。
「おかえり・・・稲荷はまだか。 死ね。」
めちゃくちゃにひっかかれた。
痛い。
夢じゃないようだ。
奇妙な生活がこれから始まるんだな・・・