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三日目の昼間

 次の日の朝、目が覚めた時には11時を過ぎていた。

 昨日は、元の自分の部屋で寝たのだが3時過ぎまで起きていたもんで、ガッツリ寝坊しちまったぜ。見つけたエロ本のせいだ。ハハハ……


 シャワーを浴びで歯を磨いてから冷蔵庫を覗くと、卵が2つと冷飯が一膳分程度残っている。

 ああ、一昨日の晩に炊いた残りがあったの忘れてた。炒飯にしようか。でも、チャーハンの元があるとは思えんな。それでも台所を探すと、お茶漬けの元が出てきた。似てるだろ……きっと。


 小さなフライパンーーー卵焼きを作る時に使う四角いフライパンで目玉焼きを作りながら、丸いデッカいフライパンで冷飯を炒め、卵を絡めながら更に炒める。

 固まった冷飯を炒める時は箸使うと上手く出来ると知った。以前、これだろと思って使ったヘラで混ぜながら炒めたら、なぜか米がパラパラにならずにくっ付いてしまったのだ。きっと、ヘラで潰れた米同士がくっ付いたのだろう。それからヘラは使わん。


「よし、いくぜ」


 お茶漬けの元を入れた。頼むぞ、美味しくできてくれよな。

 ちょいと摘まんでみた。


「お……けっこう食えるわ。ん……あっあああああああ!」


 目玉焼きの火が強過ぎた。白身の端っこがパリパリどころじゃねぇぇ。



 俺は今日も歩いてコンビニに向かっている。香典袋を買いにだ。昨日のタバコとおでんの代金も払いたかったし。

 一晩寝て冷静に考えると、あいつならマジで取りに来るんじゃないかと思えてきた。冗談じゃねぇぇ。家に上がり込んで来そうだし、また「しとりでしたんだ」なんて、ふざけた事を言ってきそうでもある。……エロ本見られたら言い逃れ出来ねぇぇ。


「はぁぁあああ?? 俺はバカか? あれをオカズにしようが、想像だけでシコろうが俺の勝手だ! だいたい、見せなきゃいいんだよ、見せなきゃ」


 歩きながら思わず声に出していた。慌てて辺りを窺っちまったじゃねぇぇかよ。確かに昨日はやっちまったけどよ。1回だけだ1回。何べんもやってない。



 コンビニのウィンドから中を覗くと、今日も客は誰も居ない。レジの中にも人影は見えなかった。ガラスの扉を押し開けて中に入る。


 どうでもいい事だが、コンビニの扉はどうして自動ドアじゃないんだ? 俺が行った事のあるコンビニがたまたまそうだったのか? どのコンビニも押しても引いても開く観音開きのタイプだったが、必ず片方には「押す」、もう片方には「引く」と表示されていて、ちょっと迷ったりする。



 店員の居ないコンビニで香典袋は直ぐに見つかった。


「すいませーーーん」


 まるで昔の個人商店のようだ。どこかに居るだろう店員を呼ぶ事なんてあっていいものなのか。


「あっ、お待たせーーーーー!!」


 トイレから慌てて駆け出して来た茶髪の元気のいい女性店員。お尻も太もももパンパンに張った、肉々しい身体をしたお姉ちゃんだ。昨日のアフリカ難民とは違い、心底ホッとする。


「え……もしかしたら……シグマさん?」

「そう……だけど……」

「私、高校で1つ後輩の佐藤佳奈。分かりますぅ?」


 ダメだ。全然知らない。


「いつ戻って来たんですーーー? 結婚したんですよねぇ? 大学出てこっちで働いてんですかぁ? なんでメグミ先輩と別れちゃったんですぅ? めっちゃラブラブだったじゃないですか。ちょー有名でしたよね〜、シグマさんと〜メグミ先輩って〜。あれ〜〜めっちゃイメージ変わってるぅぅ。なんか〜、優しくなったみたいだし〜」

「いや……」


 どの問いに答えたらいい? だが、どれも面倒だ。


「悪い、どれも話せば長くなりそうで………、これとセブンスターの8mm1つ。ハッカのやつ」


 俺が1000札を出すと、チャチャっと後ろからメンソールのセブンスター8mmを取り出し、1000円札をレジに入れるお姉ちゃん。無茶苦茶に素早い。タバコ選びのプロフェッショナルかよ。だけど喋り捲ってるよ。釣りも出さんし。


「え? あ〜〜、今度でいいですよ〜マジで。今バイト中だしぃ、喋ってたらやべーし。メンソールの8mm吸ってんだ。シグマさんハッカって言って、メッチャうけた〜。初めて聞いたかもぉ。でも速攻で分かったし。マジ凄くない? でもぉ、シグマさんてぇ、ショッポの方が似合うって。変えた方がいいし。そういえば〜、高校ん時ぃ、シグマさんカッコ良かった〜。ガチでビビってた女いっぱいいたけどぉ、なんかぁ、渋くてぇ、クールでぇ、何度も話しかけようって思ってた〜〜。でもぉ、メグミ先輩とぉ、デキてたしぃ。切れるんなら言って欲しかったぁ、マジ告ったのにぃ。後から聞いてぇ、ちょー後悔しまくりぃ。嫁いるんすよね? 早過ぎーー」


 よっぽど暇を持て余していたのか、いや、これは元々だな。変な口調でいっぱい喋る女だ。おまけに、いろんな質問の回答は今度でいいとか言ってる。また、会わんきゃならんのか?


「ちょっといいか?」


 俺は、どうでもいい事を延々と喋っている目の前のお姉ちゃんを遮った。手で口を塞いでやろうかと思ったが、動いてる口の中に手を突っ込んでしまいそうで止めた。


「え? ナニナニナーーーーニ?」

「いや……昨日の夕方も来たんだけど、金忘れちゃって、ツケてもらったんだよな」

「ツケ? ツケってなんだっけ?」


 どうやらツケの意味が分からんらしい。そこからの説明が必要なのか? 聞き方がバカっぽいが、ほんとに高校の後輩か?


「あら……あれだ。今日払いに来るって……後払いだ、後払い」

「えーー! うける〜、そんなのコンビニじゃ、ちょー無理、ガチで無理」

「いや、でもほら……昨日の店員さん休みか?」

「マジ〜〜? 昨日もアタシだし。夕方? うん、アタシ一人。イヤだな〜、シグマさんボケちゃった〜?一昨日だったらぁ、アタシ休みだったしぃ。きっと一昨日だってぇ。どんな店員だったぁ? あーーーー分かったーーー!! めっちゃエロいオバさんだったでしょ! きっと、ひとみさんだ! スケベな目でシグマさんば見てたはず。絶対にそうだ。ひとみさんだわ。ひとみさんって旦那もいるオバさんのクセして、セックスばんばんやってんだよね。マジで。シグマさんカッコいいから狙われたんだ。……もしかして熟女好き?」


 こいつは何を言ってんだ? おまけに、その手の話になったら間延びした喋り方じゃなくなってるよ。

 だいたい、俺は一昨日の夜遅くにこっちに着いたんだ。それに、こいつが言ってるエロいオバさんじゃ、昨日のアフリカ難民とイメージが重ならんわ。絶対別人だろ。それに、どんな物好きな男だろうと、あいつ相手じゃ下半身が役に立たん。バンバン出来るかよ。


「赤毛の女だった。随分と頬紅がドギツかったな。それとエライ痩せてた」

「うそ……」

「いや、うそじゃなくて……それに間違いなく昨日だよ」


 明らかに目が泳ぎ始めたお姉ちゃん。そして店の奥に駆け出して行く。


「おい、ちょっと……」



 1000円を出してお釣りをまだ貰ってない。昨日の事もあるし、まぁいいか。

 俺はコンビニを後にする。奥に走って行ったお姉ちゃんの怒鳴り声が聞こえる。


「ーーーちょっとーーーーーー!! 来てーーーーーー!! 今! 今だって今!! もうダメ! この店チョーーー無理。ガチで無理、メッチャ無理」


 なんだ?

 どうでもいいか。

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