第4幕
あの後、僕は助けた少女と共に戦駒学園へと向かっていた。助ける前は気付かなかったのだが、この少女も僕と同じ戦駒学園の生徒だったみたいなのである。うちの高校の制服は男子が学生服、そして女子がセーラー服と当たり障りのない制服なんだけれども、戦駒学園を見分ける特徴として胸ポケットに将棋の駒型のバッチを付ける事が義務付けられている。男は黒い文字、女は赤い文字で、1年生ならば『一』、2年生ならば『ニ』、3年生ならば『三』の文字が刻まれている。ちなみに先生ならば『先』、事務員ならば『事』の文字が刻まれているのだが、教頭と校長だけ特別扱いで校長は『王』、教頭は『玉』の文字の駒を付けているのが戦駒学園の特徴である。
ちなみに僕は黒い文字で『一』、彼女は赤い文字で『一』の文字が刻まれた駒を付けていた。つまりは同学年と言う事だ。
何故、助けに入る時に分からなかったかと言えば、近くにうちと良く似た制服の学校があり、そこと駒以外では区別が出来ないからである。その時は駒が襲い掛かろうとしている男の背が邪魔で見えなかったのだ。
「1年の霞ヶ丘いちかって言います。こ、この度は助けてくれてありがとうございます」
「同じく1年の天霧日暈です。大丈夫だよ。僕が助けなくても、ヒーローが助けてくれたさ。もしくは悪の組織の奴が、さ」
「……? ヒーローは分かりますが、悪の組織さんも助けてくれるのですか?」
きょとんとした顔の霞ヶ丘さん。まぁ、普通は人に迷惑をかけたり、悪事を行っている悪の組織が助けてくれると知ったらびっくりしても仕方がないのかも知れない。けれども……僕の友達が言うには、悪事ばかりやっていると言う事ではないのだ。
「悪の組織って言うのは、悪事をやっているが、その分他人の悪事に対して敏感なんだよ。悪の組織にも彼らの理念があって、その理念に沿わない悪事は見過ごせないって言う事らしい。要するに、悪の敵は絶対正義と言う訳ではないと言う事だ」
まぁ、悪の総帥をやっている友達からの完全な受け売りだけれども。それでも彼女から言わせれば、それが普通なのだそうだ。悪の組織はどれも、そんな風にしているらしいのだ。
「そうなんですか……。悪の組織も大変なんですね」
「まぁ、それが能力者にとっては普通みたいだから何とも言えないんだけれども。ともかくそんな事よりも、学校に着いたみたいですよ?」
そう言って、僕は指を指す。そこには能力者のための、学園。戦駒学園があった。多くの生徒が、いや多くの能力者が通う学園と言い換えても良いかもしれないが、ともかく僕達は自分の学園に辿り着いていた。今日も白く輝く校舎の真正面にある、駒の形をした大きな時計が印象的である。
「クラスは別だし、この辺りでお別れにしておこうか?」
ここに来るまでの間にどのクラスに所属しているのかを聞いておいたんだけれども、僕は1組で、彼女は3組とクラスが別だった。けれどクラスが別だとしても、こんなに可愛い子だったら少しは情報が来てても可笑しくないとは思う。思うんだけれども……。
(まぁ、たまたまか。そう言う感じなのだろう)
可愛い、とは言っても、それだけで確実に情報が広まっていると言う法則にはならないしな。
「じゃあ、またね。天霧くん」
ゾクリ、と何故か寒気がするような声だった。何故かは分からないけれども、とにかくおぞましさを感じるような声だった。自分でも言うのも変だけれども、彼女の声からそんな風な気持ちになった。
でもまぁ、あんな可愛い子の声を聞いて、寒気が来るのって可笑しいよな。うん、絶対に可笑しい。
「ただの気のせい。そうに違いないんだ」
僕はそう思い直して、教室へと向かった。
教室へ向かうと、既にそこは戦場が出来上がっていた。




