わたしの
しばらくお待たせいたしました。
エラーエラーエラー
ーー・ーー
彼はそう言って笑った。
手を広げて、まるで迎え入れるかのように、笑った。
「じゃあ。ボクの番おしまい。いいよ?何でも聞いて?全身全霊誠意込めて応えてあげる」
なんだか、可笑しな感じがした。
目の前にいるのはどうも小さながきにしか見えないのに。なのに対峙しているのは何百もの時を経たナニカみたい。
こういうのの相手はありすの方が得意なんだよね、と、もうとっくに空になってたカップを覗き込んで思う。
無い物ねだりだってわかっているけれど。
……よく、考えなくては。一つの質問で、幾重にも意味を重ねて、一つで二度美味しいあの感じを目指さなくては。
……それに、無駄に簡単なのを繰り返すわけにも行かないでしょうし。あちらの質問に応えないと此方の質問に答えてもらうことは叶わないんだから。……質問によっては自分について大っぴらに語ることと何も変わらないだろうし。
「なぁに、ありす。質問ないの?」
彼はニコニコと、けれど何処か馬鹿にするようにニヤニヤと、笑って見せた。
……何故だ、見た目だけで言えば天使なのに。なのにどうしてもそんなふうには見えないなんて……。
もったいなさすぎるよ、あたし。
一人、何処か敗北感を覚えながら、気を取り直して質問しようと思う。
とりあえず糖分を補給しよう。
角砂糖、一つつまんでそのまま口に放りこむ。
相変わらず此方のものは砂糖も不味い。
彼は一瞬目を見開いた。少し意趣返し出来たような気がしてスッ、と胸のすく思いがする。
あたしは甘党じゃないんだけどね。
ちょっと落ち着いたあたしはにこりと笑って、ゆっくりと口を開く。
無駄に考える必要なんてなかったんだよね、よく考えてみれば、何をこんなに悩んでいたのか。
「なんであたしの名前、知ってたのか、教えてよ」
彼は笑う。それでいいのか、と。
あたしも笑った。
彼はゆっくりと口を開いた。
「此方にも、話は伝わってるんだよ?隠し事なんて、できるわけないんだ」
此方?
「人間の方のどっかの馬鹿な王が魔王を倒すために勇者を召喚して、それの名前が“ありす”ってことも。それが二人いたってことも」
……あれ、なんか凄く……身に覚えがある、気が。
「ちょっとした、賭でもあったんだ。前にみたのと同じ顔から、多分そうだろうとは思ったんだけど、ね?」
……みた、と。……何をだろう。
「服装全然違ったからさ、もしかしたら違うかも、とは思ったんだけど」
「……うん、まぁあれだよ。この服あっちのこのだし」
「あっちのこっていうと、もう一人の勇者?」
あたしは頷く。
今あたしが着てるのはありすの服。つまりゴスロリ。
理由は……あいつがゴスロリが好きで常に数着持ち歩いてるから他ならない。
別に私の趣味じゃない。断じてそんなのじゃない。ていうか一着で何万円もするような服を当たり前のように着てるなんて無理だっての。
もう一つ、と角砂糖に手を伸ばしかけてやめる。どうせ美味しくないなら別に食べたいものじゃないな、なんて。
あたしは頬杖をついた。
そしてにたり、と嗤いかけて見せる。
質問の終わりとでも思ったのかしら。
彼がほんの少しまた微笑んで口を開こうとした。
「じゃあ、次の質問をするわね?」
けど、遮って叩きつけた言葉。
出鼻を挫かれたみたいな顔するのが可笑しくて今度は笑う。
「だって、君はあたしに聞いたじゃない。あっちのこっていうと、もう一人の勇者?……ってさ」
うっかり零れたのかな?それとも、質問だってあたしが気づかないとでも思ったのか。
まぁ、どちらでも構わない。
「ねぇ?君は、なぁに?」
ジワリと滲むように、彼は笑った。してやられた、とでも言うように、笑った。
そして彼は、ゆっくりと口を開いた。
ーー・ーー
彼は答えてくれた。
そして内緒だよ?とでも言うように唇に人差し指を当てて、席を立って、くるりと回った。
くるりと回った彼は、まるで元々居なかったみたいに消えていた。……転移の術かな、と思う。
まぁ、そんなのもありかなも思うと同時に、ちょっと複雑な気持ちが浮かばないこともない。
お手本にしたいくらいだ、とあたしの魔術を絶賛してたくせにあちらの方が何倍も凄いなんて。巫山戯るなよ、と言いたくなる。無詠唱でまさかの転移。どんな化け物だよ。
ちょっと不貞腐れてみたくもなる。
……あ、でも不貞腐れたところで意味なんてないか。張り合うのはちょっとお門違いだしね。
空になって随分たつカップの中をまた、覗き込んだ。いくら見つめてたってお代わりが注がれるようなことはない。
ちょっと溜息を吐いて、これからのこととか色々と考えてみる。
取り敢えずありすと落ち合って、彼のこととか話そう。どうやって家に帰るか、話し合わなきゃ。
カップのふちを軽くなぞる。
覗き込めば透き通ってゆらゆらと揺れる美しい茶色の水面があたしの顔を映していた。
ちょっと遅れてふわりと香る甘くて優しくて懐かしい、紅茶の香り。
ーーーあたしだって、詠唱無しだってこのくらいは出来るもの。
何に対抗してるんだか。
自分で思って自分で突っ込む。
まぁ、これからのことなんて考えたって実行しなくちゃ意味なんてない。
実行するためにはありすと会わなくちゃ。
探しに行くのは面倒だし、あちらが見つけるのを待ってみようかな。
椅子に深く座り直して、紅茶を啜る。
うん、こうでなくっちゃ。
……そういえば彼はどうして最後、あんなこと言ったのかな?