あなたの
食べ方ってそれぞれくせが出ますよね。
そろそろ、いかなきゃね。
ーー・ーー
はい。かれこれお城を飛び出して数週間ほど経ちます。あたしの感覚では、ね。こっちでの日にちとか週の数え方とか知らないし。
まぁ多分ありすに聞けばわかるだろうけど。
さて、あたしたちは普通に城下町にいます。治めてる王様はあのハゲ。
つまり国から出てないどころか町からも出れてないんだよね。
だって出入りするのになんか許可証が必要らしいんだもん。持ってないよそんなの。
勝手に飛び出そうとしたところで壁が町を囲ってるし。
けどハゲのとこに戻るなんて選択肢はなくて。
いやぁ、ぶっちゃけありすの背中におぶさってあいつが壁登ればいいんじゃね?って思うし。
それでもここにまだいるのはひとえに情報収集のため。いくら知識を蓄えたやつでも今現在どういう状況なのか。それを知らなくちゃどうも出来ない。宝の持ち腐れ。正しく必要な場所に必要なだけ。
情報の使い方を考えたりすることはあたしの専門。
ありすには到底できないこと。
人には得意不得意とあるからねぇ。
というわけでなんだが素敵にお洒落な喫茶店にいます。酒場に入る勇気はないよ、流石にね。……あ、でも賭け事なら得意なんだよねぇ。今度行こうかな。……未成年だし駄目か。
正面にはもう何皿目になるのかケーキを貪るありす。ケーキを全種類制覇すれば無料になると聞いちゃ黙ってられない!と、次々と皿が空になる。
食べたものがどこに行ってるのか気になるなぁ。ていうか匂いだけでも甘ったるすぎて胸焼けしそうになる。どうしてそんなに食べれるのか不思議だ。
紅茶をすする。
……………………………………まずい。
なんだこれは。絶対にカップあっためてないな。ついでにお湯の温度も間違いなく低いでしょう。間違いなく八十度以下。器具も温めてないだろうからもっと温度は下がるし……。
それにちゃんとむらしたのか?ティーコゼーは?
……何より……かき混ぜすぎだよ、渋い……。
じぃ、とカップを覗き込んでしまう。
「そんなに眉寄せてどうしたよ」
フォーク片手にありすがきいてきた。
……そんなに酷い顔してたのかな。
「……別に、なんでもないわ」
「ならいいよ。ところでありす、情報収集は?」
忙しく手を動かしながらケーキを次々と細切れにして腹の中に収めていくありすはなんでもないように聞いてきた。
ならばあたしもなんでもないように答えよう。
「順調、よ。どうやら魔王が実際に悪いわけじゃなさそうだし」
「どういうこと?」
「魔王が魔族がって話じゃないわけ。人を襲うのはそこらにいる害獣と同じような魔獣で、魔族やら魔王やらは人間にわざわざちょっかいかけてるわけじゃないらしいわ」
これは聞いた話。
けれどそんなこと城では一言も言っていなかった。魔王が魔族を率いて人間の平和を脅かしていると声高らかに言われたくらい。
ところがどっこい。町までおりてみれば町の人は別に魔族がどうのこうのなんて別に言ってなかった。
確かに町を出れば魔獣に襲われることはあるけど、としか言っていなかった。
誰に聞いても同じことを言った。
つまり
「領土拡大、労働力確保、ってとこかしらあたしたちが呼ばれた理由は。あたしたちを使って魔王様の首を取れればよし。取れなくて殺されたって特に損はないとでも思ったんじゃない?どうせこの国の国民じゃないんだし」
ありすは黙って聞いていた。
黙々とケーキを片付けながら目だけはしっかりこちらに向けて。
あたしはぬるい紅茶で喉を潤す。
相変わらずまずい。
こっちは紅茶だけじゃなくて食事もまずい。
かちゃり、とカップを戻した。
「だから、あながち間違いでもなさそうよ。魔王サイドに帰り方を尋ねるっていうのは。
……で、そっちはどうなの?」
「どうなのって何が?」
とぼけたように言われた。けどあたしは知ってる。こいつが夜な夜な宿を飛び出してどっか行ってること。面倒だからつけたりはしないけど。朝には戻ってるし、いいかなぁって。
ありすははぁっと溜息ひとつ吐いた。ケーキを細切れにしてかき混ぜていた手は動きを止めた。
ありすはすっ、と目を細める。
「とりあえず、私たちをあのハゲどもは探してる。そりゃもう必死になってね。3日くらいで帰ってくると思ってたらしい。でも帰って来ない、そして見つからない。とりあえず今日くらいまでで行ける距離についてはあらかた探したらしい。だから」
こうなったありすほど頼りになるやつをあたしは知らない。
「そろそろこの町でよっか」
「りょうかいー」
ならここからはあたしの仕事だよね。ありすが一番力を発揮できる場を整えなくちゃ。
「じゃあ、準備しなくちゃ。まず宿をチェックアウト、それから必要なものを買い揃えて、足跡が残らないようにあたしがこの辺一体の人たちの記憶消去しとけばいいのよね?」
にぃ、と笑ったのはあたしかありすかどちらが先か。顔を見合わせて笑う。
それはこれ以上ない了承の合図。
「じゃあまずそのケーキの山、さっさと片付けなさい」
いつの間にかありすの手元に残ってるのは一皿のみ。
フォーク一本で細切れにされ、原型も残らないほどにぐちゃぐちゃにされたケーキの残骸。
相変わらず汚い食べ方。けどこれ以上ないほどに見慣れたありすの食事。
なんでこんな食べ方するんだっけ?
思い出せないあたしの前でありすは。
そのケーキの残骸を、欠片たりとも美味しいなんて思ってなさそうな顔で食べた。
ありす(語り手)のほうは紅茶が大好きな人。