それでは 終わってしまった話を始めましょう
さて、いよいよ有子ちゃん召喚のお話です。
生きてることに価値なんてないよ、ねぇそう思わない? "ありす"
ーー・ーー
ーーーじりりりりりりりりッ!
耳をつんざくような大音量。
電話がなった音。
基本的にうちに電話をかけてくる人なんていないから失念していた。
そうだ。電話いいかげん変えようと思ってたんだよね。いまどき黒電話とか。
受話器に手を伸ばして、そしてちょっと思い出す。変えるのを忘れてたんじゃなくて変えられなくて、変えてないんだ。
受話器を手に取る。
「はい」
『有子ちゃん?』
息が止まるかと思った。
『有朱と有守くんは仲良くしてるかい?』
ここ何年か、顔を見てないどころか声だって聞いてなかった。
「……うん。元気すぎてちょっと困るくらいだよ。ていうかいいかげん有守にぃのことくん付けするのやめたら?他人行儀だよ、父さん」
『そうだねぇ、でも有守くんのこと呼び捨てにしたら有朱と混ざるんだよ』
ああ、こいつは間違いなく私の父だ。こんなふざけたこと笑いながら真剣に言えるのはあの人だけだ。
なんだか不思議な気分。ていうかなんで電話なんてかけてきたんだろう。いつぶりかな。
「……うん。ねぇ、なんで電話?」
『そうそう、それね。久しぶりに電話通じるところにこれたのと……それと、もうひとつ、連絡があったんだ』
連絡?見当もつかない。ここ何年か会うどころか話だってしてないのに、わかるわけもないでしょうに。
……うん、でもなぁ。きっとろくでもないことなんだろうなぁ。
『近いうちにそっちに帰るよ』
「……は?」
はい?何言ってんのこいつ。
結婚してラブラブしたいけど子供たちが邪魔だからちょっくら新婚旅行ってくるね、生活費は……まぁお前らももういい年だし、そのくらい自分でなんとかしてね★野垂れ死んでも知らないよ。
……とか言ってた奴が、帰ってくる?
え、なにこれ。天地一変の前触れ?何が起きるの?やめて、今やっと落ち着いてきたところなのに。
「……ごめん、父さん。えっと……もう一回言ってくれるかな……?」
『だから、近いうちにそっちに帰るよ。多分ー、こっちでいうところの三日後?』
……は?三日後?何言ってんのこいつ。ていうか父さんと義母さんの部屋は……義兄さんのガラクタ置き場になって……。げふんげふっ……。
片付けなきゃな。
「な、なんでいきなり……?」
『あーうん。優子にそろそろ無理させるのも、ね』
優子……優子?……ああ、義母さんのことか。
で、その義母さんに……無理?
こいつなに言ってんだ?
『子供がねぇ、出来たんだよ。だからその世話とか任せようと思って』
誰に、とは聞かない。帰ってくるって言ったことでわかるよ。どうせ私たちに押し付ける気なんでしょ?
……で、どうせあにたちは世話なんてできるものですか。つまり私がやる、と。そして父さんたちはまた旅行、か?
「……名前は?それと性別」
『名前は有子ちゃんが決めてよ。性別は女の子』
「特徴」
『黒髪なのに青いんだよね、目が。なんでだろ?』
「……いつ産まれたのが聞いても?」
『三ヶ月前』
もっと早く連絡しろよ‼︎
ああもう頭痛くなってきた。
シワの寄ったひたいを揉みほぐしながらこの後の予定を考える。
『あ、そうそう有子ちゃん』
「何」
まだ何かあるのか。
……なんて、思ってたら、父さんは
『有子ちゃんが今みたいな性格になったのは三年くらい前だったかな?』
そんなこと言ってきた。
「……さぁ、ね」
けれど、私は。それだけいうのが精一杯だった。
三年前、もちろん父さんたちはいなかったし、連絡だってとってないはずなのに。
なんで知ってる?
ぐるぐると、渦巻くように。
後悔ばっかり、回ってる。
最悪だ。
あたしは……。
ほんの少し訂正。12月25日現在