エントの相談
第八話です。
前回の次回予告は忘れてください。
すみません。
全く違う話になってしまったあげく
長くなりました。
彼女はまさに華のようだった。よく笑い、よく泣き、よく怒る。喜怒哀楽が激しい人。誰よりも優しい彼女。決して王には向かない。誰もがそれはわかっていたはずだ。なのに彼女が気丈だったからか、気づけなかった。彼女が死んでから気づくなんてなんと愚かなんだろう。
くるくるくるくる。綺麗に円を描いて踊っているのは玻優とジークリヒトだ。ジークリヒトのリードがうまいのもあるだろうが、玻優の踊りは初心者の域を超えている。エントは部屋に戻って二人の踊りを見てそう感じた。
エントは踊り終わった二人に近づく。
「お疲れ様です。...殿下は今まで舞踊をやったことがおありなんですか?」
「...学校の授業であったの。舞踊がね。舞踊っていうか学校では社交ダンスって呼んでたけど。」
エントに聞かれて、玻優は顔をしかめながら答える。社交ダンスの授業はかなりの苦痛だった。足は痛いし、踊り続けて体力も限界だというのに笑顔で談笑しながらでないと鬼の教師に怒られる。思い出してもつらい。
「へー。あちらでは一般人でも舞踊が必須なんですか。」
エントは感心したように言う。玻優は一般人という単語が引っかかったが、まあ私の家は一般庶民の分類だろうと考えた。玻優の通っていた学校は幼稚園から大学まで一貫校で、いわゆるお金持ち学校である。なぜ一般庶民の玻優がそんな学校に通っていたかといえば、それは祖父の方針だった。
「うん。まあそうね。」
玻優は適当に相槌を打って話を終わらせる。
「あ、そうだ。殿下。明日会っていただきたい方がいるのですよ。」
「会っていただきたい方?」
エントの言葉を玻優は聞き返す。聞いていたジークリヒトは怪訝そうにエントを見つめた。
「はい。アリアス・サシエラ・イリアフィード伯爵令嬢です。とても美しい人ですよ。父君のイリアフィード伯爵は宮廷の重鎮ですしね。」
エントはにこにこと笑みを浮かべながら言うがそれに対してジークリヒトの顔は険しくなっていく。
「とりあえずアリアス嬢には嫌われないようにして下さい。大丈夫ですよ。アリアス嬢と殿下はうまくいく気がしますからね。」
エントは玻優を元気づけるように言った。そしてエントとジークリヒトは部屋を出た。
部屋を出た二人。ジークリヒトはエントをにらんだ。
「まさか、アリィを殿下付きの女官にするつもりか?」
ジークリヒトはエントをにらみ続けて聞いた。二人は歩きながら喋っている。止まっていて話しては中にいる玻優に聞こえるかもしれないからだ。
「ああ。中立であるイリアフィード伯爵家が後ろにつくことで、きっと姫の地位は安寧なものになるだろう。」
「俺はアリィが殿下に付くとは思えない。あいつはー...」
「ユフィ様にしか仕えない?俺はもう聞き飽きたんだ。俺はね、アルシェラーサ様は見所のあるお方だと思う。それじゃあ、俺は寄るとこがあるから、行くよ。」
エントは言うだけ言ってジークリヒトを置いていくように歩くスピードを早めた。
「今日はアリアス嬢にお会いになるのですよね?姫様。」
朝、また着替え部屋に連れていかれた玻優はミシェラに聞かれた。
「うん。よくご存知ですね。ミシェラさん。」
「姫様。私のことは女官長かミシェラとお呼びくださいませ。あと、私に敬語はいりません。」
「え、でも。」
「いりません。それと姫様の礼儀作法の教師が今日から参られます。...今日は薄紅のドレスにいたしましょう。」
ミシェラはそれだけ言うと繊細なレースなどがついた薄紅のドレスを玻優に着せた。するとノックする音がした。
「まあ、誰かしら。姫様が着替えてらっしゃるというのに。」
ミシェラはドアを開けて驚いた。立っていたのはエントだったからだ。
「シュライツ卿?まだお迎えには早いですわ。姫様はまだお支度の途中です。」
「ドレスは着ているんでしょう?もうアリアス嬢が待っているので、つれていっても?」
「アリアス嬢にはもっと待ってもらってください!姫の支度が終わるまではね!」
ミシェラは怒ったように言った。
「あとは俺がやりますよ。アリアス嬢に会わせる前に姫に言いたいことがあるんです。そんなに心配なら、女官長も部屋で見張っていてください。」
いつになく真面目そうなエントに女官長は渋々納得した。女官長も部屋には残るようだ。ドレッサーの前に座っていた玻優に近づく。
「いやあ、すみません。殿下。こう見えても私女性を飾り立てるのは得意なのでお任せください。」
「私は構わないわ。話って?」
「殿下。私とジーク、アリアス嬢と...ユフィエンヌ様は幼馴染みだったんです。ユフィエンヌ様というのは殿下の前に王女で次の女王になることが決まっていた姫君です。」
エントは髪を結いながら言った。玻優は驚いた顔になる。
「その方はもういないのね。いたらわざわざ私をここに呼ぶわけないものね。」
「はい。立太子式の直前に亡くなられました。アリアス嬢はユフィエンヌ様付きの女官だったんです。...アリアス嬢もジークも未だにユフィエンヌ様に囚われている。私は貴女にあの二人を解放していただきたいんです。殿下ならそれが出来るでしょうと私は思っています。」
エントは玻優を飾り立てながら言う。玻優は難しい顔をした。
「あのね。貴方はそうやって言うけど、二人は望まれて囚われてるんじゃないの?しかもユフィエンヌ様に会ったことない部外者の私がどうにかするのはあんまり良くないのではないかしら。」
玻優は言い聞かせるように言う。だが、エントはなおも、言い募る。
「殿下。貴女は不思議な方です。あの気難しい国王陛下でさえ貴女は気に入られた。...これは私の身勝手な願いです。どうか、聞き届けてくださいませんか?」
エントの言葉にため息をついた。
「私は何をしたらいいの。」
玻優はほだされやすいのだ。
「殿下にはアリアス嬢を自分付きの女官となるようにしていただきたいのです。アリアス嬢はユフィエンヌ以外には仕えないと言っていますが、なんとか心変わりするようにしていただきたい。殿下は普通にアリアス嬢に接してください。それだけで十分ですから。」
エントはそう言った。玻優はその言葉に頷く。そしてエントは、玻優を飾り立てて部屋から出て行った。女官長は、複雑そうに玻優を見つめている。
第八話いかがでしたか?
次回こそアリィの決断のはずです!
次回も早く投稿できるように頑張ります^ ^