王の頼み事
第十一話です。
今回は結構コメディ回なはず...!
アリアスが女官となって数日後、玻優は国王と向かい合わせでお茶を飲んでいた。国王はかなり上機嫌で、にこにこと玻優にお菓子を勧めてくる。
「どうだ?おいしいか?」
「はい。おいしいです。とっても。...あの、お祖父様?私を呼んだ理由は?」
玻優が聞くと国王は眉間にシワを寄せる。ちょっと不機嫌になったようだ。
「理由がなければ孫と茶も飲んではいかんのか。...私には三人の子供がいた。一人はお前の母親、リフェミア。もう二人はお前も知ってるとは思うが、オスカーとゼノだ。全く三人が三人ともそれぞれ優秀だったにも関わらず、王位を剥奪する羽目になるとは思わなかった。リフェミアは異界の男と一緒になるために出奔するし、オスカーは魔法の研究のために生きたいからとか言って王位の指輪を抹消する、ゼノは敵国の貴族の娘を嫁にするし、何故どいつもこいつも私の跡を継ごうとせぬのか!まあ、そのおかげでそなたという後継を得たのだから良しとするが...」
国王はため息混じりに言う。玻優は苦笑いを浮かべている。
「お祖父様。じゃあ私を呼んだのは、ただお茶をするためなんですね?妙な頼み事とか、ないんですよね?」
玻優は念をおして聞いた。国王はそれには難しい顔をする。
「ないといえばない。来週、そなたに行ってもらいたい場所がある。...ハノーサ離宮といって王宮から近い場所にある離宮だ。ハノーサ離宮には我が正妃がいる。」
「正妃ってお祖父様の奥方様ってことだから、お祖母様ですか?」
玻優が聞くと、国王は頷く。
「そうだ。そなたの実の祖母であり、この国の王妃マルグリット。そなたに会いたがっておるだろう。だが、マルグリットは王宮には来たがらない。だからそなたが会いに行ってやりなさい。できれば王宮に来るように頼むように。」
国王はいつもより早口で述べる。玻優は顔を引きつって笑った。それを頼み事と言わなくてなにを頼み事って言うんだよ、という言葉を飲み込んだだけ玻優は偉かったであろう。
「わかりました。お祖父様。喜んでお受けいたします。話は済んだようなので、失礼いたします。」
玻優はそう言って国王を後にし、自室に戻ると部屋にはアリアスがいて、玻優の帰りを待っているようだった。
「殿下。陛下とのお茶会は終わりましたの?」
「ええ。アリィはえーと、お祖母様、マルグリット王妃様を知ってる?」
玻優がマルグリットの名前を出すとアリアスは顔を曇らせた。背後にいた二人の騎士も顔を曇らせている。
「えーと、みんなどうしたの?」
「王妃様は中々魅力的な方なんですよ。昔趣味はなんですか?と聞かれたら悪巧みよ。ふふふ。と答えたそうです。」
エントがそう言うのを聞いて、玻優は頭を押さえた。この国に来てから私はまともな人間に会っただろうか、否会ってない気がする。基本変人奇人ばかりではないか。そんな事を考えているとジークリヒトが口を開いた。
「王妃様は確かに変わった方かもしれませんが、子煩悩で有名ですし、リフェミア殿下のことも溺愛なさっておいでだったので、きっと孫であらせられるアルシェラーサ様のことも、大切にしてくださいます。だから心配なさることはありませんよ。」
ジークリヒトは相変わらず無愛想に言ったが、その内容は驚くようなものだ。現に玻優だけでなくエントもアリアスも目を丸くしている。
「ジーク。貴方元気づけてくれているの?」
玻優は驚いたように聞いた。ジークリヒトはそう指摘されて玻優を冷めたように見た。
「私はただ、事実から推測されることを指摘しただけです。あとはエントに任せて今日はこれで失礼いたします。今日は家の用事がありますので。構いませんか?」
「え、ええ。構わないわ。お疲れ様。今日もありがとう。」
ジークリヒトは一礼すると部屋から出た。
「珍しいこともあるものだ。あのジークが殿下を励まされるとは。」
エントはまだ驚いていた。幼なじみで親友のジークリヒト。ジークリヒトは昔から堅物で人に滅多に気を許さない、変に人を励ましたりすることをしない奴だ。そんな奴がアルシェラーサを元気づけるようなことを言う。彼もアルシェラーサを認めつつあるのかもしれなかった。希望的観測ではあるが。ユフィエンヌに囚われいるという点ではジークリヒトが一番厄介だとエントは考えている。
「そうね。でも、殿下はを不思議な魅力がある方ですからね。ジークがほだされたとしても不思議な話じゃない気がするわ。」
アリアスは頷きながら言う。玻優はそれを聞いて複雑な表情を浮かべる。
「不思議な魅力って」
「あら、本当ですよ?私今でもわかりませんから。何故あの時、殿下の女官になろうと思ったのか、何故あんなにも気が楽になったのかが。殿下には人を惹きつける何かがあるのかもしれませんね。」
アリアスはそう言うとふふふ、と微笑んだ。玻優はますます複雑な表情になる。微笑んでいたアリアスが顔を真面目な表情に変える。
「でもそんな殿下だからこそ心配です。ハノーサ離宮にはあの方がいらっしゃるのですもの。」
「あーあの方かあ。それはうん、対策練らなきゃなあ。殿下はなんかあの方に気に入られそうな気がするし。」
アリアスが心配そうに言うとエントは苦笑いしながらぼやく。
「あの方って?」
「ルース・キニア・タシェリーク様です。国王陛下の妹様と王妃様の弟君のご子息で、国王陛下の血も王妃様の血も継がれていらっしゃる高貴な血筋の方なんですよ。また、ユフィの許婚でもあったんですよ。」
「へえー。じゃあママの従兄弟ってことね。なら大分年上なんじゃないの?」
玻優は興味なさそうに聞く。
「ルースは21です。私たちとあまり年が変わらない。私たち19ですからね。」
「その人も変人きじ...じゃなかった。すこし面白い方なの?」
玻優が聞くとアリアスとエントは頷く。玻優はもうこれ以上変人奇人の類とは知り合いになりたくないのに...と顔をしかめている。
「母から聞きましたけど、礼儀作法の方も順調らしいじゃないですか。」
エントが言うと玻優は項垂れる。礼儀作法の教師シュライツ公爵夫人ことエミリアはかなりのスパルタ教師だった。やれ背筋が曲がっているやらやれもっと気品と優雅さを出せだとかかなーり厳しいのだ。
「あ、そうだ。明日から歴史と政務の授業も始まりますからね。それは陛下の相談役の前宰相ジェナード・ハメル・ユーハニーシャ様という方です。こちらは大分温厚な方ですから安心なさってよろしいですよ。」
第十一話如何だったでしょうか?
今回はただおしゃべりしている感じに
なってしまった感が否めないのですが\(^o^)/
次回も早めに投稿できるように
頑張りますね!




