二人の騎士との出会い
空秘玻優は長い艶やかな黒髪にまるで夜空のような深い藍色の瞳を持つ16歳の少女だ。まあ、世間一般では美少女ーそれもとびっきりのー分類に入るであろう。本人は無自覚だが。
父親は学者であり現在は大学の教授で、母親は普通の専業主婦で、25歳になる姉は国際警察官として働いている。
玻優はその日家にいた。玻優はインドア派でいつも家にいるのだが、その日は朝から胸騒ぎがして母に具合が悪いと嘘をついてまで学校を休んだ。嘘をついてまで学校を休んだのは初めてで罪悪感でいっぱいな玻優である。
そんな嫌な気分の時にインターホンが鳴って、母のリフェミアが玄関に走っていくのがわかった。そして玄関のドアが聞こえて母が応対しているのもわかった。
その時なんだかすごい音が玻優の部屋まで聞こえてくる。何かが爆発したような音だ。心配になった玻優は朝からパジャマだったのでわざわざ着替えて玄関に行った。
玄関先には二人の青年がいた。リフェミアの二人を見つめる眼差しは、とても厳しかった。
一人の青年が口を開く。その青年は金髪に菫色の瞳を持つとても美青年だ。
「いやあ、殿下。お噂には聞いておりましたが、さすがの魔力ですね。かつてのお力は健在そうで、なによりです。」
青年はリフェミアの不機嫌さに臆することなくにこにことして言った。
「自分が何を言ったかわかっているの?」
リフェミアは睨みつけながら言った。金髪の青年はそんなリフェミアの様子を気にせずに頷く。
「はい。私、エント・シュライツは将来の女王陛下をお迎えにあがりました。」
金髪の青年、エント・シュライツはリフェミアを上機嫌で見つめた。リフェミアの不機嫌さはましているのには気づかないようだ。
エントはリフェミアの後ろで様子を窺っていた玻優に気付いて顔を輝かす。
「プリンセス・アルシェラーサ!お会いできて光栄です。お美しい!聖空色の瞳こそ、まさしく王家の証でございます。素晴らしい!」
上機嫌にそう言って玻優に近づこうとしたがリフェミアに止められた。
「娘に近づかないで!この子はアルシェラーサなんかじゃないわ。冗談じゃない。」
リフェミアは玻優を自分の後ろに隠したが、そんなリフェミアを見てもう一人の青年が口を開いたのだった。
「リフェミア王女殿下。貴女に拒否権はないはずです。貴女が降嫁なさる時の条件にあったはずだ。これしか陛下は条件を出さなかったのだから。貴女の子どもに王位の証が出た場合、貴女の子どもを王家の者として王宮で引き取るとね。子どもが16になるまでは待ったのですよ?陛下の温情に貴女は感謝すべきだ。」
褐色の髪に蒼色の瞳のこれまた美青年は淡々と言葉を述べた。これにはリフェミアには言葉を失うしかない。
そしてそんな三人の会話を黙って聞いていた玻優は全く会話についていけてなかった。
玻優の母、空秘リフェミアは確か欧米人で、髪は明るい金髪に玻優と同じ藍色の瞳の稀に見る美女で、母は父と結婚する前に両親を失っており天涯孤独だったはず。この二人の青年は母を殿下と呼んでいる。殿下って確か王子やら王女やらにつける敬称のはずだ。間違っても天涯孤独の母につける呼称ではない。
「すみません。ジークリヒトが無礼なこと。仮にも我が国の王太子であった方に失礼が過ぎるぞ、ジーク。」
エントが慌ててリフェミアに謝った。ジークリヒトと呼ばれた青年は平然としている。全く悪びれがない様子だ。
「別に気にしてないわ。彼の言うことはある意味正論だもの。」
リフェミアも苦笑いしながら言った。どうやら先ほどのジークリヒトの言葉で怒りを収めて冷静になったようだ。
「それに私にはわからないわ。わざわざ玻優をかりださなくてもあの国には王女がいるでしょう。ユフィエンヌが。」
ユフィエンヌという名前を聞いた瞬間、ジークリヒトの顔が強張ったのを玻優は見た。
「・・・殿下。あの方は、ユフィエンヌ様は崩御なさいました。3年前に。」
エントが困ったような表情を浮かべ言ったことを聞いてリフェミアは目を見開き、そして目を閉じてそれから決意したように瞳を開けた。
「なら、私があの国に行くわ。後継者としてね。」
リフェミアが毅然として言うと二人の青年はぽかんとして口を開けた。
「もういいのよ。二人の娘の花嫁姿を見れなかったのは残念だったけれど、これは私がなんとかしなきゃいけないことだもの。娘に丸投げなんかできないわ。そもそもこの子に王家の証が出るかすら怪しいもの。行人さんもわかってくれるわ。私を受け入れてくれた人だもの。」
リフェミアはまるで自分に言い聞かせるように言った。
玻優はリフェミアがなにを言っているのかまだちんぷんかんぷんだ。二人の青年は思ってもいなかった話の展開についていけてない。
「あのーすみませんー。わたし全く話を飲み込めてないんですがー。てゆーか、ママ何処かに行っちゃうの?」
「貴女にはまだ言ってなかったわね。お姉ちゃんには言ったのだけれどね。」
リフェミアはそう言うと一瞬躊躇って、それから言葉を続けた。
「あのね、ママはこの世界の人間じゃないのよ。異世界から来たの。」
第一話いかがでしたか?
まだまだ最初の方なので
全然コメディっぽくはないです。はい。
すみません。
最初はちょっとシリアスですが
これからコメディっぽくなっていくはずなので!
因みに次回は母リフェミアから語られる
リフェミアの正体です。