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 食堂、と言っても、一度に千人以上の人数が一度に集まるような規模だ、生半可な大きさではない。宮殿自体がとてつもなく巨大だからこの食堂もあまり大きい気はしないが、もし誰もいない時に入ったらきっと途方にくれるだろう。数時間立ちつくしてしまうかもしれない。それほどに広大なのだ。前方を見ればたくさんの寮生達、天井を見上げれば遥か高みにステンドガラスの天窓、壁は大理石と木がまさかのドッキングを果たした前衛的なデザインと相成っている。形的には横長の直方体だが、高さもずば抜けていて、サンレイが10人いても有り余るくらいの高さなのだ。床面積だって半端ではない。何かもう、とにかくすごいとしか言いようがない、そんな食堂なのである。

 ――なぜ食堂にこんなにスペースを使っているのだろう…。

 サンレイは来る度に思ってしまう疑問を振り払い、マーチンと共に先に到着したリズの姿を探した。

「一人にしておくと危なっかしいでしょ。分かる? あの何かやらかしそうな感じ」

「大いに共感できる」

 長身なリズは探そうと思えばすぐに見つかると思っていたが、甘かった。騎士団の男子は大半がリズより身長が高いし、先生だって混ざっているのだから身長では見分けがつかない。何よりここにはたくさんの寮生たちが集まっているのだ。見つけたとしても、たどり着くまでに時間がかかる。

 案の定、数分探したがリズの姿は見当たらななかった。

 柱時計は6時半を指している。

「そろそろ、私達も食べ始めなくちゃ間に合わないわね。……仕方ない。リズは一旦置いといて、私達だけで済ませちゃいましょ」

「そうだな……朝食は7時までだ」

 リズ探しを諦め、二人はセルフバイキング式の朝食を摂ることにした。

 この場所には世界各国から人々が集まっているので、現地の料理人の手によっていろいろな国の料理を食べることができる。こんな山中からどうやって食材を取り寄せているのかは謎だが、新鮮度はピカイチ。宮殿こそヨーロッパに建っているものの、人気があるのは米国の料理だ。朝からジャンクフードを食べている寮生もいる。サンレイは母国であるスイス料理を皿に盛り、マーチンはイタリア料理のコーナーへ向かっていった。数分後合流し、空いているテーブルに座る。

「もしかしたら、もう食べ終わっちゃったかもしれないわね。大食漢で早食いだから」

「リズくらい食べれば、あれくらいの身長になれるのか……。頑張ってみよう」

「何、身長伸ばしたいの? やめときなさい、伸びすぎもよくないわよ。せめてリズくらいが女性としてはベストね」

「いや、身長というか、もう少し頑丈になりたいんだ。私は身長も低い方だし体重だってたかが知れている。実戦では役に立たないかもしれない」

「あら意外。優等生のサンレイがそんなこと言うなんて。私は今のままで十分だと思うけど。バランスもいいし、身長が低いと小回りも利くから、実戦では重宝するんじゃないかしら」

「以前、ルーディスと対戦した時に、歯が立たなかった。もっと強くならなければ、私なんてすぐに周りに追い抜かれてしまう」

「アンタ、男とも試合してるのね……。あのねぇ、男と女じゃ力量差があって当然でしょうが。勝てる方がビックリよ」

「ゆくゆくは、ルーディス並の身長とキャンベル並の力を手に入れたい」

「それ隊長レベルよ……。サンレイは女の子なんだから、もっと可愛気があってもいいじゃない。そんなんじゃモテないわよ?」

「私は強くなりたい。そのためなら、女らしさなどいつだって捨てる覚悟はある」

「ていうか、もう半分くらい捨てちゃってるじゃないの。あの頃は可愛かったのになぁ。ポニーテール、どうして切っちゃったんだっけ?」

「邪魔だからだ」

「私には真似できない。この髪の毛がなくなったら、私きっと部屋に閉じこもったまま出てこないわよ」

 マーチンは綺麗にセットされた長い髪をいじった。栗色の、軽くパーマがかかった髪。鮮やかなツヤを放っている。

 マーチンはオシャレに気を遣う。サンレイとほぼ同じ制服を着ているが、スカート丈を短くしたり袖をまくったりと、一見別物だ。化粧もしているし香水もつけている。けれど注意はされない。規則を破らない範囲であれば、服装は割と自由なのだ。

 しかしサンレイは必要以上に自分を着飾ることをしないので、逆の意味で目立ってしまっている。

 ナポリタンをフォークに絡ませ、マーチンは言った。

「サンレイも、もう少しくらいオシャレしてもいいんじゃない? 綺麗な顔してるのに、もったいないわよ」

「いや」

 サンレイはチーズにパンを絡めながら返す。

「例えば、ここにチーズフォンデュがあるだろう」

「あるわね。一口もらっていい?」

「構わない」

 マーチンは皿に盛られたパンをフォークで刺し、チーズの中に沈めた。

「このチーズフォンデュに、チーズがなかったら、マーチンならどうする?」

「チーズがなかったら? ……そりゃ、調達するでしょうね。スイス料理には詳しくないからどう作るのかはわからないけど」

「私なら、チーズがないまま、これをひとつのパンとして食べる」

 サンレイはもう一本新しい串を使い、パンを刺して口に入れた。

「そうすれば、これをチーズと絡めて食べる方法に加え、そのまま何もつけずに食べる方法が自分の中で確立される」

「はぁ…」

 目が点になるマーチン。

 チーズからパンを取り出し、垂れないようにバランスをとりながら口に入れる。

「そして、このパンがチーズを絡めるよりもそのまま食べた方が風味が出て味わい深くなることにも気づくことができる」

 その言葉に、マーチンはパンをつまんで一口食べた。

「本当だ。良いパン使ってるのね。確かにそのまま食べた方が美味しいかも」

「チーズと絡めても十分楽しめるけれどね」

 サンレイは微笑みながら、先ほどチーズと絡めたパンを取り出した。

「…………」

「何だ?」

 黙り込んだマーチンに、サンレイは不思議そうに目を向ける。

「サンレイって……笑うと少し口調が柔らかくなるのね」

「え?」

 思わぬ発言に戸惑い、チーズと絡めたパンを串に刺したまま固まった。

 パンからチーズが垂れ、テーブルにこぼれる。

「チーズ垂れてるわよ?」

「あ」

 慌ててパンを口に入れ、紙ナプキンでテーブルを拭くサンレイ。

 それを見てマーチンはおかしそうに笑った。



 あぁ、物語が進まない。

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