第41話 鴻雁来たる ─馬鞍の上─
ユイの奇想天外な提案は、想像以上にすんなりと受け入れられた。
ミコトはふむ、と頷き、連れて行く者を選びなさいと言っただけだった。目の下の隈はより濃くなっている。サキはお言葉ですがと前置きをしてまた手袋を勧めたが、ミコトは軽くあしらっただけだった。
アオはひとまず受け入れられたことに安堵しながら叩頭する。
鶏内へ向かうための面子はアオとユイで話を合わせて決められた。多くの女官を連れ出すことはまず不可能であるために、一人一人の負担は大きくなる。アオは隠さずはっきりと告げて同行を頼み込んだ。
まずは言わずもがなサキ。鶏内村の案内役や仲介を自分から買って出てくれたのは頼もしい。
そしてユイの連れてきた武官が二人。体格がいい無骨な者と、文官のような骨太さのない者。ユイをからかっていたので二人は彼の知り合いのようだ。
服のほつれなどとを整える役目は尚服局からはセツが選ばれ、他にも食事の用意を行うものとして尚食局から二人、壊れた髪飾りや沓を修理するのに尚功局から一人が選ばれた。寝所の見回りは武官で足りるだろうとのことだし、さらには医務官の代わりはユイが担うようなので、かなりの少人数に収まった。
そして来る今日、アオは目の前に積み上げられた荷物を見上げ、その壮観に圧倒されていた。
「これを馬で……?」
そう、移動手段は馬。都にやってきた日のように、アオはまだ馬に揺られることになる。とはいえ鶏内村はとても北にあるというだけで、山を越えたりという心配はないのであまり疲れないらしい。
アオは股で出口が二つに分かれた下衣を軽く抓んで見下ろした。サキや武官らが普段履いているものと造りが似ている。
後ろから馬を引いてやってきたユイは、肩を叩くなり振り向いたアオの脇を抱え上げた。アオは突然の浮遊感に驚いて足をばたつかせるが、次の瞬間には馬鞍の上にいた。
「どう、新しい下衣の履き心地は」
「筒状のものより跨りやすいです」
「それは重畳だね」
ユイは手綱を引くと、アオを乗せた馬を歩かせた。
他の女官らは小さな馬を用意されていて、意外にも皆ある程度の馬術は心得ているようだった。セツだけが武官の一人の大きな馬に乗せてもらっているが。
「二日間、休みなしで走る予定だけど大丈夫?」
馬の上に声をかけた。アオは先ほどユイに飲ませられた薬湯を思い出して頷く。馬酔いを少なくすることができると言われて無理やり口に流し込まれたものだ。
「大丈夫です。鶏内村まで駆け抜けましょう」
「良い心意義ね」
サキは軽い足さばきで馬を止めると、同じ位置に頭のあるアオに微笑みかける。
「せっかくの好機です。やれるときにやらないと」
鞍をしっかりと握り締めて、アオは来た時に一度潜っただけの後宮を閉じる黒い大門を見据えた。




