第27話 蟄虫戸を坏ぐ ─四姉妹─
蟄虫坏戸
──寒さを覚えた虫たちが地中に隠れ始めるころ。
昔、神に使える四姉妹がいた。
鳩、亀、鯉、兎、彼女たちはそれぞれ神の眷属と称される生き物を携えていたことで有名である。これが命の聖女、そして悲劇の四姉妹と呼ばれる少女たちの話である。
鳩を携えていた長女はある日、一人で鳩の使いを送り出していた時神に見つかってしまった。神は彼女の美しさのあまり捕まえてしまおうと考えた。
神に怯え、少女は言う。
「どうか命だけは」
「では代わりを用意したまえ。お前の肌のように白く輝く蛋白石の頸飾だ」
少女は蛋白石が何かわからなかった。似通った真珠を差し出し、少女は神に取って喰われてしまう。天からばらばらと降りそそいだ残骸、少女の骨は蛋白石のごとく虹色の輝きを孕んでいた。
亀の甲羅を洗う次女は神の息子に目をつけられた。神の息子はどうしても彼女を側に侍らせたがった。人が神と同じ地に降り立つことは禁忌。少女は亀を抱え必死に抵抗した。
「お願い、私を見逃して」
「では私が一番お気に入りの翡翠の手纏を用意してみなさい」
少女が手纏を作れるほど沢山の翡翠を持っていなかった。町にもなく少女は途方に暮れた。彼女は泣く泣く神の眷属である亀の甲羅を薄く削り手纏を差し出した。天から帰ってきたのは彼女の麗しい爪。二十本そろえて落ちてきた。それらは翡翠でできていた。
鯉が回遊する池を眺めていた三女はまた神の息子が目をつけた。彼女を手籠めにしたった一人の恋人にしようとしたがった。彼女は恐れ慄き、怯え、泣いた。
「神様であっても」
「ならば黄金に光る石で耳環を作ってみなさい」
黄金に光る石など少女は見たことが無かった。さめざめと嘆き、少女は眷属である金の鯉の鱗を少し剥ぎまとめて差し出した。天から帰ってきたのは大粒の雨。日の光に照らされまるで黄金に輝いていた。けれど黄金に光る石はどこにもなかった。
四女は一人震え、家に閉じこもった。家はいつ姉たちが帰って来てもいいように綺麗に保ち、少女はひっそり隠れて暮らした。
「お姉さまたちは帰ってこない」
四女がぽつりと零した言葉は天に届いてしまったようだった。
紅い目をした兎が部屋を飛び跳ねる。四女はしまったと口を封じたが遅かった。
「次女であれば数年に一度会わせてやれる。但し、紅い石の嵌った指環を用意出来たらの話だが。ちょうどいいではないか。その、兎のめだまをくり抜けばいい」
四女は泣いた。
目の前の赤い目のうさぎがじっとこちらを見上げていたからだ。
「それだけは……!」
四女が抱える兎は軽々と天に昇って行った。少女は泣き崩れ、その場でもがいた。
天から帰ってきたのは血一滴もない兎の毛皮だった。
(鴉鷺記 四少女)




