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第25話 雷乃ち声を収む ─訪問者─

 人ごみは多くの女官によって作られていた。


「あの、何があったんですか?」


 アオは後ろで混み合っている女官の数人に話しかけるが、声が小さいのか届いていないようだった。

 仕方なく人よりも小さな体を駆使くしして、隙間に体を滑り込ませる。サキが後ろで呼んでいるが、この人だかりの中にはユイがいるのだろう。問題はない。

 アオは少しだけ開けたところを見つけて、半ば押し出されるように飛び出た。櫛で撫でたはずの髪は揉まれて絡まってしまっている。あまり長くなくてよかったと、心配をしながら顔を上げると、ユイが目をみはってアオを凝視していた。


「アオ」

「貴女がここで一番偉い人? あのっ、私会いたい人がいるの!」


 少女は格子の向こうから必死に訴えかけてくる。都の娘のような格好だが、手には一升瓶を持っていた。


「だからお酒の持ち込みは……」

「酒じゃないってば! これは果実を少し発酵させたもので……」

「それをお酒って言うんだろ」


 ユイは呆れたように息を吐いて、首を横に振った。

 ひとまず話を把握する必要がありそうだ。そのためにも、アオは彼女の誤解を解かなくてはいけない。


「残念ですが、わたしは一番偉くありません」


 少女はええっと驚いた。思わず瓶をとり落としそうになっている。


「でも、話は聞きましょう。会いたい人がいるんですよね?」


 アオが尋ね返すと、彼女は強く頷いた。


「そう。背の高い中性的な男性で……」


 アオはその条件に思わず隣を見上げた。ユイははた迷惑だと言わんばかりに首を横に振る。


「悪いけど僕にムラ娘の知り合いはいない」

「うん。その人じゃない」

「だから人違いだろって」


 ユイは腰に手を当てて、ずっとこのいたちごっこなのだと最早もはや疲れているようだった。ユイを呼んだのは後ろで壁をしている女官たちらしい。宦官はこの後宮内にユイとダンの二人しかいないはずなので、真っ先に呼ばれたというわけだろう。


「……勘違いかもしれません。詳しく話を聞きたいので、中に入れては駄目ですか?」


 酒がいけないのなら、話の間だけ門番にでも預かってもらえればいい。ユイは疲れ果てた表情で頷いた。彼としてもけりをつけたいらしい。


「どこかいい場所は……」

「そこに四阿あずまやがある」


 アオがあまり好きではない場所だ。池の上にある四阿で、底が抜けた暁には池に落ちてしまう造りになっている。最もそうはならないように頑丈ではあるが。

 ユイのその策略は話をさっさと終わらせるためだろう。


 格子の奥で話が分からず首を傾げているムラ娘にアオは声をかけた。


「中に入ってください。酒瓶は門番に見てもらっておきます」


 少女はどれだけその目当ての人物に会いたいのか、すぐに提案を飲んだ。

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