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第21話 玄鳥去る ─企み─

 ひとしきり説明を終えると、サキはやはりいい顔はしなかった。命が狙われている可能性の高い人を護衛するということは、自分自身も大きな危険にさらされるかもしれないということだ。


 サキは少しだけ言いよどみながら、襟首えりくびを掻く。


「……それってあたしである必要、ある?」

「ある」


 ユイはサキの文句にきっぱりと言い切った。


「サキは主人を見放したりしないから。ミコト様の采配さいはいは見事だと思う」

「そんなの誰だってそうでしょうよ」

「それにアオはきっと、しばらくしないうちに後宮で一人になると思う」


 アオはユイの発言に目を見張った。サキも目を細めてあごに手を添える。


「もし敵が本当に貴妃きひさまなら、考えていることは想像がつく」


 貴妃はかんなぎ、つまり女にして政治に口を出せる立場になりたがっていた。そして同時に貴妃は宰相と仲が良かった。


 アオが来るまで貴妃がくわだてていた策はおそらくこうだ。

 巫の座におわすミコトを引きずり下ろすか、又は殺すことでその座を空席にする。巫候補のいなくなった国は宰相の独裁となる。そして宰相はその立場で法を変える。位の高い女性が巫になる権利を得られるように。そうして貴妃は巫になろうとしていた。


「でも、今は違う。アオがやってきたからこの策は上手くいかない」

「何らかの手によって巫の座が空席になっても、今なら……この天子さまが座ることになるし」

「アオ、でいいです」

「アオが座ることになるし」


 アオはサキの呼び名について口にすると、彼女は遠慮なく言ったとおりに呼んだ。いいとは言ったが、彼女はアオに対してかなりぞんざいだ。


 すると突然サキが思い出したように勢いよく立ち上がった。


「じゃあ、ミコト様も危ないじゃないの!」

「ミコト様はずっと危ないんだよ」

「あ、そうか」


 サキは冷静になってすとん、と座り直す。


「……でも命を狙うってわかってるならユイ一人で足りるでしょ?」


 アオはサキの主張にうなずいた。しかしユイが無駄なことをするとも思えない。何かあるのだ。


「だから言ってるでしょ、味方を増やすためだって。アオは近々後宮で一人になる。……貴妃さまが吹聴ふいちょうする噂のせいで」

「もしかして『御与えいたしましょう』って、悪評ってことなんですか?」

「たぶん」


 アオの質問にユイはうなずいた。

 だからすぐに何かをするようなことはなかった。毒を盛ったり切りつけたり、それと比べて悪い噂を流すのは時間がかかる。

 でもそれはあまりにも。


「それはあまりに……馬鹿ね」


 サキの意見にアオは同意した。

 アオに関しての悪い噂を流すことによって、アオに目をつけたミコトにも不評がつのるだろうという考えなのかもしれないが、それがうまくいくのはおそらく初めだけ。噂好きの後宮では次第に発端探しが始まり足がつくだろう。


「貴妃さまなら考えかねないか……。貴妃さまが宰相さまのことをしたっていらっしゃるのはあたしでも知ってるから、ますます否定できないわね」

「でも貴妃を追い出すのは早計だ」

「もし別に敵がいたなら、火力は強まるのは目に見えているわ」


 というわけだ、とユイはサキを見る。サキは会話にうまく乗せられていたことに気づいて、眉間に皺を寄せた。アオも乗せているつもりはなかったので、ユイの技量と言うべきか、彼はサキのことをよく知っているのだと思う。


「しょうがないわ、後にも引けないし」

「サキさん……」

「サキでいい」


 主人が従えている者を敬称で呼ぶなんて、とサキはこぼした。

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