第17話 玄鳥去る ─交流会その一─
天子であるアオはもちろんとして、巫、妃嬪、そして上級官吏の一部が参加するこの交流会。アオは高い天井を見て息を吐いた。剛直な柱には絢爛豪華なくす玉が飾り付けられており、何もかもが初めて見る。
背筋を伸ばしアオは頭を揺らさないよう静々《しずしず》と歩いた。腿の裏が攣りそうだが、上品さには代えられない。巫の席から一番近い上座へ腰を下ろした。
アオは人のいない隣を横目で確認する。入り口に近い方にはもうほとんどの妃嬪が腰を据えていたが、アオの隣は未だ空席だった。
アオの帯を整えて立ち上がったユイを振り返ると、彼は首を横に振る。
どうして貴妃がまだ来ていないのかはわからないらしい。アオも立場上、できる限り会の始まる直前に到着することを計算してやってきたが、少し早かったのかもしれない。
そんなことを悶々《もんもん》と考えながら、アオは目の前の広間を見た。石畳には美しい曼荼羅が描かれている。その上で舞などの芸を披露するのだろう。
しばらくして衣擦れの音が聞こえてきた。頭をできるだけ揺らさないように、軽く首を動かした。
貴妃。名は確か、ヒノと言ったはず。
妃嬪の中で最も位の高い人物だ。
彼女はアオの視線に気づいてか、少し青みがかった妖艶な紅に彩られる唇を弓なりにした。ユイやセツが言っていた通り、白の召し物を身に着けている。宝石は少し多すぎるくらいに衣装中にちりばめられており、アオは自分が少し彼女に見劣りしていると思った。
もう少し着飾るべきだったのだろうか。アオは今更失礼にも冷や汗をかいてきた。
大丈夫。礼儀作法がきちんとできていればいいはず。
それに今日は何が起きるかわからないのだ。飾りすぎて身動きが取れないのは本末転倒。アオはもう一度だけ貴妃を見やると、彼女もまたアオの方を見ていた。目が合う。
「……」
言葉が交わされることはなかったが、貴妃は自信に満ちた表情でゆったりと瞬きをした。
それからしばらくして、宮女の一人が建物正面に吊り下げられた銅鑼を鳴らした。先が布に巻かれた棒を振りかぶってもう一度。石で出来た建物はその音をよく響かせた。びりびりとした轟音にアオは皮膚が粟立つ。
そして今度は可愛らしい鈴の音が聞こえてきた。
──鈴の音で叩頭。これは合図だから
ユイに言われたことをはたと思い出して、アオは背中を曲げるように顔を伏せた。
重たげな布を引きずる音はミコトが入ってきたのだ。音の方向からちょうど、アオの目の前を過ぎた頃だろう。
そうしてもう一度鈴の音が鳴らされた。
顔を上げたアオは少し拍子抜けした。ミコトの衣裳はアオよりも少し宝石も多く、色も濃いが音の重さは布だけのように見えた。つまり、あまり装飾は多くない。
そもそもミコト自体、奉納祭にやってきたときも今思えば質素な格好で、馬に乗るくらいなのだから身を飾るのはあまり好きではないのかもしれないが。しかしミコトの赤い装束はとても似合っていた。
半ば見惚れるようにアオはミコトを見上げた。ミコトは来賓などその場にいる一人一人に目を合わせ、最後にアオへと目を向けた。すっと瞳が細まるのが分かる。それはアオの衣裳が良く似合っている、という賛辞に近いものだった。
アオは邪念を振り払い、毅然として振る舞うことに決めた。




