第14話 鶺鴒鳴く ─曇天─
「どうして強引に連れ出したりしたんですか? わたし、何か無礼なことでも……」
医務室を出てすぐ、アオは腕を引っ張られながらユイに尋ねた。ユイはなぜだか不機嫌そうだ。
「……ダン師と話してると、アオは余計なことを話すから」
しかし振り向いたユイの表情は不機嫌とは言えなかった。苦虫を潰したような、むしゃくしゃしたような顔。
ユイも頭の整理がついていないのか「ああもう!」と叫んで頭を振った。
「アオは何も知らないくせに、勘が良さそうだし……小さい頃のこともわりと覚えてるし」
「それは両親を亡くしてから十年、あまりたいした出来事がなかったからで……」
「そんなことない。どうせさっきだってダン師と話しているうちに、何か引っかかるなって思ったことがあるはず」
ユイは何をむきになっているのかわからなかった。感情の波だけを押し付けられて、アオはしどろもどろする。怒られているわけではなさそうだが困る。
「……そう言われても、何も……」
「誤魔化すな」
ユイに頬を掴まれる。
アオはこの状況について考えることを諦めて、ひとまず先ほど交わしたダン医師との会話を思い返してみることにした。
セツが倒れた理由、容態、アオの肌について。それから──
「あ」
「ほら」
「でも大した話じゃないです」
「それは僕が決めること」
アオは思いついたことについて、次第に自信がなくなっていく。これで違うと言われたらそれで終わりだろうか。はたまた当たっていたら、ユイはもっと不機嫌になる?
「……ここにいる人は皆『ミコト様』って呼ぶのに、ダン師は『巫さま』って……」
アオは自身なさげにぼそぼそと言った。
それは正解だったのか間違いだったのかわからないが、ユイはアオの頬から手を離した。アオは自身の頬をさする。ユイは地面へと首を向けていたが視線は別を捉えているようだった。無いものを見ているのが心配になって、アオはユイの背中に触れる。
「あ……あってますか?」
「僕はその洞察力を知ってる」
「え?」
ユイは俯いたままそうポツリと零した。
「君がムラの抗争で亡くした両親の名前は《《長かった》》?」
「そうですけど……」
「母親は三文字、父親は漢字を持っていた」
「……どうして知っているんですか?」
アオの母親は確かに三文字の名で、父親は名前に漢字があった。忘れるはずがない。これは特別なことだと幼いころに教わった。
「それがどうかしたんですか?」
「アオ、君が孤児になった所以は誰にも言わない方がいい」
ユイはすっと顔を上げるとアオの目を見た。まじまじと見たことがなかったが、ユイの目は曇り空の色をしている。しかし眼差しの鋭さには力があった。
「返事は?」
「は、はい」
息を詰まらせながらアオは答えた。




