第0話
その日の議会は大荒れだった。
「巫さま。今のままではこのクニは滅びます故、どうか法の改定を」
否、今日も大荒れだった。
玉座に腰掛ける、顔を白い布で隠した御方は肘掛けに頬杖をついて、いつも通り思案を巡らせていた。常に気長で寛大な心を持っているが、今日こそは決着をつけねばならなかった。
各地のムラ人らがどこまで都の事情を知っているのか宮廷の人間にはわからないが、少なくとも都に住む人々はこの現状にやきもきをしていることは確かなのだ。
巫を跡継ぐ者がいない。
これは今代最大の課題であった。
現在の法で巫の座を継ぐことができるのは、巫の血筋のものか、あるいは《《神の子》》だけ。
どちらかの条件を満たすなら、どんな人間でも良かった。後宮で巫にふさわしい存在へ育て上げればよいだけのこと。
しかしそれ以前の問題なのだ。
巫が子を望めない身体であるのは周知の事実だ。そして血筋のものは親近婚のせいで皆奇形か知能の発達に問題を抱えていた。
対して神の子は、このクニの神話である鴉鷺記がムラ人らに浸透していない影響で報告がほとんど見当たらず、見つかったとしても体が弱くすぐ天に昇っていく。
これは捨て置けぬ事態だった。
「やはりこれは法を変えるべきです。巫になることができる人物の条件を広げましょう」
議会で最も巫に近い男が進言する。
「あるいは巫さまの政治介入の制限を」
「ならぬ」
巫は男の意見をばっさりと切り捨てた。
「それだけはならぬ。妾のような人間が議会から消えてしまえば、男共は好き放題するだろう」
議会に鋭い空気が走る。男共だけでは信用ならんと言う発言に、男は顔を引きつらせた。
「で、ですが巫さま。どういたすおつもりで──」
「ユイ。馬の用意はできたか」
少しだけ息を上げて議会場にやってきた華奢な青年に、巫は話しかける。青年は叩頭しながら「はい」と簡潔に答えた。
男はいつも仕事の速い巫のお付きの宦官に一瞬感服しつつも、立ち上がろうとする巫に目を戻す。
「どこに行かれるおつもりですか?」
「奉納祭だ。今日は閉廷、ご苦労だった」
そう。数日後には奉納祭が辺境のムラで行われる。
このやんごとなき御方は馬に乗り、都を離れなくてはならない。つまりその間、議会は停滞する。
「巫さま」
「辰廻宰相。焦って法を変えることは、妾は好まん」
巫は男にきっぱり言い放つと、議会場の大扉を強く閉めて出て行った。




