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断罪ゲーム 1


 それから一週間後。マリオンはオーウェンとともに、学園の敷地内にある庭園を歩きながら、今回の事件を振り返りつつ、「犯人」に下された処分について話していた。


「エミリアの時と違って、校内に広まってしまったギルバート君の死について、王族は圧力をかけられなかったようね。今回は警吏が仕事をしてくれてよかったわ。もっとも、エリクは他の罪人同様、牢獄には入れられなかったものの、王位継承権は剥奪されて、ひっそりと辺境の地へ移送されたらしいけど……」


「腐っても王族というわけですか」


「本当。腐っても、ね」


 オーウェンの歯に衣着せない物言いに、マリオンは苦笑した。王太子に対して絶対忠実と思われていた後輩は、ただ生徒会しごとに誠実なだけだった。


 マリオンは頬に手を添えて、青い空を見上げた。


「具体的な措置はこれからだと、お父様が話してくださったけれど、どうなのかしらね。鞭打ちくらいしてもらわないと、エミリアとギルバート君が浮かばれないわ」


「さすがに鞭打ちはできないでしょうね。しかし、彼は王太子でしたから、国民をはじめ、広く知られてしまっています。顔を変えるくらいのことをしないと、外には出て来られないでしょうね」


「外といえば……」


 言いながらあることを思い出し、マリオンは眉を下げた。


「ディルとウィンター君には驚いたわ。まさか二人とも、自殺をするなんてね。確かに世間の目は厳しいけれど、それほど苦になってしまったなんて……」


 事件後、エミリアの自殺に関わっていたとして、ディルとウィンターは共に謹慎処分を受け、それぞれ邸に帰された。その二日後、彼らはそれぞれの自室で首を吊り、亡くなった。震える字で、ただひと言「ごめんなさい」と書かれたメモだけを残して。


 短くとも、それは遺書と認められ、二人の死は自殺として片づけられた。


 マリオンはオーウェンに向き合い、礼を言った。


「ありがとう。あなたが協力してくれたから、エミリアの死の真相も明るみにできたのよ。結末は最悪だし、世間の王族に対しての風当たりも強くなってしまったから、この学校もいつまで持つかわからないけれどね」


 エミリアの死は自殺とはいえ、その原因を作ったエリクがさらにクラスメイトを殺害したことで、王族への不信感を抱いた貴族が続々と学園への支援を打ち切り始めた。当然、在学する生徒も徐々に退学手続きを取り出したため、マリオンの言うように、クィード学園の存続が危ぶまれている。


(ま、婚約破棄された私の知ったことではないけれどね)


 マリオンは改めて姿勢を整えると、勇気を振り絞り、オーウェンを見上げた。


「それで、あの……今度一緒に……お茶でも、どうかしら? その、よければ……二人きりで……」


 悪女と罵られながら堂々と推理を披露した姿とは打って変わり、今は恋する乙女のように初々しく、しおらしい。


 これまで、親しい友人すら作るのを拒んでいたマリオンだが、今回の件で何かが吹っ切れたのか、自ら気になる異性へアプローチをかけた。


 マリオンほどの美貌なら、どんな異性もたちまち虜にしてしまうだろう。しかし、今回は相手が悪かった。


「すみませんが、私には心に決めた女性がいますので、マリオン先輩の想いには応えられません」


 表情は長い前髪のせいで相変わらずわからないが、オーウェンは真摯的な態度でマリオンからの誘いを断った。


 せっかく勇気を振り絞ったというのに残念な返答だったが、マリオンは悲観しなかった。むしろ清々しく、「やっぱり」と心の中で思った。


(きっと、エミリアね。家族というものの、異性だもの。恋心を抱いていても不思議じゃないわ)


「ありがとう」


「いえ」


 オーウェンはやや申し訳なさそうな声音で言うと、話題を切り替えた。


「そういえば、ギルバート先輩の遺体についてですが……」


「ああ、確か捜査の立ち会いをしたのだったわね」


 本来、捜査の立ち会いは一介の学生ができるものではないが、死体の第一発見者であることと、どこからかのツテを利用したことで、オーウェンはそれを可能にしたのだ。


「ええ。あの時は鎧がすべて外せず、調べが不十分でしたから」


「そうだったわね」


「それで、気になっていた点が解明しまして……」


「気になっていた点? あら……」


 そこへ、二人を睨む顔が飛び込んできた。


「何もかも、あなたのせいですよぉ! マリオン先輩っ」


「アンジェリーナ……」


 パーティーの時に着ていた華やかなドレスとは大いに異なり、マリオン達の前に立ちはだかるアンジェリーナは、みすぼらしいメイド服を纏っていた。


「あなたが事件を解明しなければ! 私はまだここにいられたのに、すべてをエリク様のせいにしてぇ! もう、人生めちゃくちゃですぅ!」


 長い銀髪を振り乱しながら、アンジェリーナはキイキイと騒ぎ立てた。そんな彼女を、マリオンは憐憫の眼差しで見つめた。


王太子エリクという後ろ盾がなくなってしまったから、学園を出て行かざるを得なくなったんだったわ)


 それに加え、聖女でありながらアンジェリーナは前世の知識をほとんど国に流さなかった。後にマリオンという聖女が現れたことで、お払い箱になってしまったのだ。


「絶対に許さないんだからぁ!」


「きゃっ」


 マリオンに駆け寄ったアンジェリーナは、彼女を突き飛ばした。


「ふん!」


 尻餅をつくマリオンに見向きもせず、アンジェリーナは足早にその場から去っていった。


 心配したオーウェンが、マリオンに手を差し出した。


「大丈夫ですか、マリオン先輩」


「ええ、ありがとう」


 マリオンはオーウェンの手を取ると、制服のスカートを手で払いながら立ち上がった。


「すみません。話の途中ですが、私はこれで。今日付けで退学のアンジェリーナ嬢に、渡したいものがありますので」


「あなたも大変ね」


 肩書のある生徒会役員は、今やオーウェンただ一人。回ってくる業務の振り分けは、すべて彼がこなしていた。


「ですが、これだけはお伝えしますね」


 マリオンから手を放すと、オーウェンがこう言った。


「ギルバート先輩の頭部に、殴られた形跡は一切なかったそうです」


「え?」



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