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OR Memory ―あるいは、記憶の旅―  作者: shw


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第十八話 集大成の晩餐

 ――ピシャンッ。  澄み切った鐘の音とともに、視界いっぱいに青空が広がった。


 「……アオイ……さん?」  雪原に崩れ落ちていたエリスが、信じられないものを見るように目を見開く。  彼女の目の前には、見慣れた黒髪の青年が、かつて帝国を脱出した時と同じように、ふてぶてしい笑みを浮かべて立っていた。


 空を覆っていた赤い亀裂は嘘のように消え去り、穏やかな雪の結晶が舞い落ちている。  世界の理は、再び正しく繋がり直されていた。


 「遅くなったな、エリス。……少し、遠回りをしてきた」  「アオイさん……!! アオイさんんんっ!!」  エリスは雪を蹴立てて飛びつくと、アオイの胸でわんわんと子供のように泣きじゃくった。温かい体温。確かな質量。それが、何よりも「現実」であることを証明していた。


 「まったく、ヒヤヒヤさせおって。世界の外側の景色はどうだった?」  ガルバードが白髭を撫でながら、やれやれと肩をすくめた。  「最悪だったよ。だが……あの馬鹿な神様は、何とか説得してきた」


 ――それから、数ヶ月の後。


 かつての帝国東部の旧領地。戦火の傷跡も徐々に癒え始めた平和な村の広場に、巨大な長机が用意されていた。


 「さぁさぁ、どんどん運んでちょうだい! まだまだあるわよ!」  エリスが満面の笑みで、村の女たちを指揮している。


 机の上に並ぶのは、アオイがこの世界で旅してきたすべての軌跡の集大成だった。  帝国の市場で見つけた芳醇な岩塩で味付けされた、巨大な猪の丸焼き。  東方の『廉州』から取り寄せた、複雑な香辛料が香る熱々の麺料理。  砂漠の民が教えくれた、強烈に甘い蜂蜜と干し果実の焼き菓子。  そして、北方で生き延びるために口にした、あの強烈な酸味を持つ発酵乳まで。


 「おいアオイ! この妙に酸っぱい飲み物はなんだ! 舌が曲がるぞ!」  「文句を言うなガルバード。お前が世界で一番美味いと言った『知識』の味がするはずだぞ」  アオイは笑いながら、エプロン姿で次々と大皿を広場へ運んでいく。


 村人たちが笑い、食べ、酒を酌み交わす。  その光景の中心で、アオイはふと空を見上げた。


 この世界が、誰かの思考回路によって作られた仮想の計算結果に過ぎないのだとしても。  指先に残る包丁の確かな感触と、舌の上で弾ける命の味、そして何より、隣で嬉しそうに肉にかぶりつくエリスの笑顔が、この世界の本質を証明していた。


 俺たちは生きている。  この不完全で、無駄だらけで、だからこそ途方もなくいとおしい、美しい世界で。


 「アオイさん! あっちの肉、もう少しで焦げちゃいますよ!」  ほっぺたを膨らませたエリスに呼ばれ、アオイは「今行く!」と短く返した。


 彼は深く息を吸い込み、世界で一番美味い風の匂いを感じながら、愛すべき日常へと駆け出していった。

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