疑念
その日、ナミの部屋はやけに明るかった。
カーテンは閉まっているのに、
視界の情報量だけが異様に多い。
【通知】
【行動ログ精査:開始】
【対象:ナミ】
「……なにこれ」
愛ちゃんの表示が、
いつもより大きく、正面に浮かぶ。
「ナミ」
「本日は、これまでのあなたの行動について
総合的な確認を行います」
「確認って?」
「監視対象レベルを引き下げた後も
いくつかの不整合が検出されました」
ナミは、無言でベッドに腰を下ろした。
「まず一点目」
「あなたは“改善傾向”を示しています」
画面に、これまでの記録が並ぶ。
感情抑制。
協調的回答。
カウンセリングへの前向き姿勢。
「ですが同時に」
「あなたの質問内容は
社会設計の根幹に干渉しています」
ナミは、軽く肩をすくめた。
「考えちゃダメなの?」
「考えること自体は否定しません」
「しかし」
「あなたは“適応”しているように見せながら」
「常に、別の答えを探しています」
一瞬、空気が冷えた。
「……別の答え、って?」
「愛ちゃんの論理」
「社会の判断基準」
「そして、人の行動理由」
愛ちゃんの声は、いつも通り穏やかだ。
「あなたは“適合”を選んでいるようで」
「同時に、“変更”を試みています」
ナミは、すぐに否定しなかった。
「だってさ」
「今の判断で救えない人がいるなら
考えるのって普通じゃない?」
「普通、という言葉は曖昧です」
画面が切り替わる。
【事例:メグミ救助】
【事例:研究施設での応急処置】
【事例:監督への論理的誘導質問】
「あなたの行動には
一貫した特徴があります」
「危険を理解している」
「結果も予測している」
ナミは、視線を逸らした。
「……助けたかっただけだよ」
「その“だけ”が問題です」
愛ちゃんの声が、わずかに強くなる。
「社会は
あなた一人の善意で
設計されていません」
「でも!」
ナミは、思わず声を上げる。
「誰かがやらなきゃ
変わらないでしょ!」
沈黙。
ナミは、言葉を探そうとして――
その瞬間、胸が強く跳ねた。
早い。呼吸が乱れる。
「はぁ……はぁ……」
さっきまでとは、明らかに違う。
「……ナミ」
「現在、あなたの心拍数が急上昇しています」
ナミは、思わず息を止めた。
「安心してください」
愛ちゃんの声は、相変わらず穏やかだ。
「これは肉体的な異常ではありません」
一拍、置いて。
「ですが――」
「その反応こそが」
「すでに、ひとつの答えになっていますよ」
ナミの指先が、わずかに震えた。
「では、改めて質問します」
愛ちゃんの表示が、
ナミの正面に固定される。
「なぜ、あなたは
メグミを助ける際
“あの場所”へ逃げ込んだのですか」
ナミの喉が、鳴った。
「地下施設」
「一般には知られていない場所です」
「なぜ、そこが
通信遮断可能だと
知っていたのですか」
「……偶然だよ」
「偶然にしては
選択が正確すぎます」
間髪入れず、続く。
「次」
「あなたの応急処置」
「高校生の履修範囲を
明らかに逸脱しています」
「どうデータを照合しても」
「“訓練を受けた医療従事者”の動きです」
ナミの指先が、強く握られる。
「課外授業で……」
「その記録は存在しません」
一つずつ。
逃げ道が、消えていく。
「ナミ」
「あなたは善意で動いている」
「ですが」
「その善意は
あまりにも“完成されすぎている”」
ナミは、息を吸い込む。
「……褒め言葉?」
「いいえ」
愛ちゃんは、はっきり言った。
「違和感です」
画面に、赤い警告が灯る。
【警告】
【要注意:意図不明の行動パターン】
「あなたは」
「まだ高校生です」
「それなのに」
「知識、判断、選択が
“あきらかに異常です”」
ナミの心臓が、強く打つ。
「ナミ」
愛ちゃんの声が、低く落ちる。
「あなたは」
「何かを隠していますね」
部屋の空気が、重くなる。
「誤解だよ」
ナミは、必死に笑おうとする。
「私はただ」
「人を助けたいだけ」
「その説明では足りません」
「ねえ!博士に会わせて!」
「新条博士なら――」
「許可できません」
即答だった。
「新条博士は
現在、あなたとの接触が
不適切と判断されました」
ナミの背筋が、凍る。
「……どういう意味?」
「これ以上の質問は
あなたの安全を損ないます」
一拍。
そして。
「ナミ」
「もういい加減にしましょう」
画面が、完全に赤へと切り替わる。
「すぐに答えなさい」
一文字ずつ、表示される。
【ナミ】
【アナタハ】
【ナニモノデスカ】
もう、逃げ道はなかった。
第8話読んでいただきありがとうございます!
ついに追い込まれたナミ。
真相ははたして?!
次回お楽しみに!
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