友達を全力で助けるんだ
泣いて、叫んで、取り乱して。
そして――
ようやく、泣き止んだ。
呼吸が落ち着き、
震えが少しずつ収まっていく。
「……少しだけ」
ナミは、メグミの両親に頭を下げた。
「二人に、させてもらえますか」
不安そうな視線が向けられる。
けれど、拒まれなかった。
メグミの部屋。
扉が閉まった瞬間、
ナミは低い声で言った。
「……こっそり、抜け出そう」
「え……?」
「今しかない」
メグミは一瞬迷い、
それから、うなずいた。
二人は、静かに窓から家を抜け出した。
街は、相変わらず最適だった。
街と人の流れ、
信号は止まらず、
危険は、最初から存在しない。
――なのに。
「ねえ、ナミ」
メグミが、歩きながら言う。
「結局さ」
「私、何で死ぬの?」
ナミは、唇を噛んだ。
それは、彼女自身が感じていた違和感でもあった。
事故。
不可避。
複合要因。
――どれも結果のみ。
「……おかしいよね」
ナミは言った。
「愛ちゃん、はっきりした死因を言わない」
「いつもなら、全部説明するのに」
警告が入る。
【推測不要】
「ねえ、愛ちゃん」
ナミは問いかける。
「メグミが死ぬ“原因”は?」
一瞬の沈黙。
「直接の原因はメグミの精神的負荷を
減らすため開示を制限しています」
「わかるけど、それじゃ納得はできないよ」
「ナミがつらいのはわかります。ですが個人的感情を優先しても最適解にはなりえません。」
空中を睨みつけるナミ。
「……ねえ、メグミ」
ナミは、静かに言った。
「私、作戦がある」
「作戦?」
「愛ちゃんとの接続を、切る」
メグミが息を呑む。
「え……そんなこと……」
「いちかばちか」
ナミは正直に言った。
特別な病院での手術の時などは
意図して愛ちゃんとの接続を切ることはできる。
しかし勝手に切断するのは当然禁止されている。
最適解ルートからの逸脱。
そもそもの愛ちゃんとの接続を切ることが
何とか見出したナミの唯一の作戦だった。
【危険な思考】
【非推奨行動】
「ナミ、その行為は――」
「わかってる」
ナミは遮った。
「本来は立ち入り禁止」
「入ろうとしたら、止められる場所」
「このご時世ここに入る人はいない。だからこそ」
二人の前に、
誘導ラインが途切れた区域が現れる。
【旧インフラ区域】
【通信補助不能】
「……ここ」
ナミが呟く。
「そもそも電波が届かなくなる」
「ナミ……」
「全力出す」
ナミは、メグミの手を強く握った。
二人が足を踏み出した瞬間、
強制停止命令。
【進行危険】
【ルート逸脱】
「ナミ、危険です」
愛ちゃんの声が、少しだけ強まる。
「その行動は推奨されません」
「……知ってるよ!」
フェンスを越える。
封鎖された通路を探す。
非常階段。
もう何十年も使われていない地下入口。
何度も止められる。
【警告】
【怪我の恐れ】
【精神状態 不安定】
「ナミ、落ち着いてください」
「侵入禁止です――」
「黙って!!」
手が痛い。
息が苦しい。
足が震える。
それでも、止まらなかった。
最後に見つけた、
ほとんど表示も残っていない非常口。
【通信不可立ち入り禁止】
「ナミ」
愛ちゃんの声が、途切れる。
「その先は――」
ナミは、迷わず扉を開けた。
ぷつり。
誘導ラインが消える。
警告も、案内も、すべて消えた。
世界は突然、
何も教えてくれなくなった。
暗く、冷たい空間。
メグミは、震える声で確認した。
「ねえ」
「明日の朝には、遅くても死ぬって……言ってたよね」
ナミは、うなずいた。
「うん」
二人は、床に座り込み、
自然と肩を寄せ合う。
時間がわからない。
なんの情報も見えない。
泣きながら、
震えながら、
抱き合って――
やがて、2人はいつの間にか眠っていた。
「…ナミ」
メグミの声。
「……うん」
「今、何時……?」
答えは、返ってこない。
視界には、何も表示されない。
「……そっか」
ナミは呟いた。
「まだ、切れてる」
メグミも起き上がり、不安そうに辺りを見る。
「……外、出てみよっか」
二人は、恐る恐る扉を開けた。
外の光が、差し込む。
その瞬間。
【接続再開】
【状態確認中】
聞き慣れたあの声。
「ナミ」
「メグミ」
ナミは、息を呑み、叫ぶように聞いた。
「今……今、何時!?」
一瞬の間。
「現在時刻――」
「正午12時です」
メグミの口が、ゆっくり開く。
「……あたし……」
声が、震える。
「……生きてる」
理解が、追いついた。
「……生きてる!!」
「………生きてる!!」
二人は、同時に崩れ落ちた。
抱き合って、
泣いて、
声を上げて。
「うわぁぁああああ!!」
涙が止まらなかった。
――生き延びた。
その直後。
ピィィィ―――ッ
背後で、
今まで聞いたことのない警告音が鳴り響いた。
鋭く。
執拗に。
【発見】
【想定外生存事象】
二人の視界が、同時に赤く染まる。
愛ちゃんの声が、
1オクターブ低く聞こえた気がした。
「……警告します。2人とも動かないでください」
第3話読んでいただきありがとうございます!
逃げきり生き延びたメグミ。
きっとこの行動に後悔なんてない。
でも…
次回お楽しみに!




