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死亡フラグが立ちました

帰り道。

夕焼けは、いつもよりやけに綺麗だった。

それが逆に、ナミには不気味だった。

世界は何も変わっていない。

変わる理由がない。

なのに――メグミだけが、明日いなくなる。

「……ねえ、ナミ」


メグミの声は、驚くほど落ち着いていた。

「一回、親に言お」

その一言で、ナミは少しだけ救われた気がした。

大人がいる。

家族がいる。

おかしいって、言ってくれるはずだ。

メグミの家に着くと、両親はすぐにリビングへ通してくれた。

事情を説明する間、ナミの心臓はずっと早鐘を打っていた。

「……明日?」

母親は一瞬だけ言葉を失い、すぐ視線を宙へ向けた。

「愛ちゃん。本当なの?」

「はい。メグミは明日死亡します」

淡々とした肯定。

感情の揺れは一切ない。

父親が腕を組み、低い声で聞く。

「原因は?」

「複合要因による不可避事故です」

数秒の沈黙。

やがて父親は、静かに息を吐いた。

「……そうか」

それで終わりだった。

「え……?」

ナミの声が裏返る。

「ちょっと待ってください!

それで納得するんですか!?」

メグミの両親は困ったように笑った。

「ナミちゃん……」

「私たちも、受け入れたいわけじゃない」

「でもね」 「愛ちゃんは、今までずっと正しかった」

メグミが、震えながら小さくうなずく。

「生まれてからずっとだよ」

「愛ちゃんのおかげで今まで事故にも遭わなかった」 「人間関係も……全部」

父親も続ける。

「愛ちゃんが“無理”だと言うなら それはもう、どうしようもない未来なんだ」


それは諦めではなく、愛ちゃんへの信頼だった。

それでもナミは食い下がった。

「……政府は? こういうの、相談できるとこありますよね?!」

母親が落ち着いた顔でうなずく。

「もちろんもう報告共有済」

すぐに公式窓口へ接続が行われた。

形式的で、落ち着いた応答。

「当該ケースを確認しました」

「予測AI愛ちゃん。誤差率は限りなくゼロに近いです」

「再計算とか、何かのバグとか――」

「すでに実施済みです」

重ねるように、無機質な声が続く。

「愛ちゃんの判断は、国家基準における最上位予測です」 「これ以上の介入は、制度上不可能となります」

「……それって」

ナミの声が震える。

「見殺しってことじゃ……」

「いいえ」

即座に否定が入る。

「最も苦痛の少ない結果を提示することも、支援の一環です」

通話が切れた。

部屋には、重い沈黙だけが残った。

母親が、視界共有を許可する。

【確定未来事象】

【回避不可】

【精神的ケアを推奨】

冷たく、簡潔な結論。

「……ねえ」

メグミが、震えながらぽつりと呟く。

「…モール、行かなきゃいいんだよね?」

ナミがすぐ前に出る。

「そうだよ!

原因がモールなら――」

「いいえ」

愛ちゃんが遮った。

「今回の死亡事象は、海上モールとは無関係です」

視界に時間予測が展開される。

「多少の行動差により、死亡時刻に前後は生じます」 「しかし、遅くとも明日の朝までに死亡します」

「……朝?」

ナミの喉が鳴る。

「明日を迎えること自体が、死亡条件です」

母親が、そっと目を伏せた。

「……今夜まで、なのね」

「はい」

一拍置いて、愛ちゃんが続ける。

「なお、現在想定される死亡パターンの中で」 「最も苦痛が少ないのは――」

表示される複数のケース。

心拍停止。

意識消失。

苦痛指数。

「このルートです」

あまりにも、丁寧だった。

「……苦しまないんだよね?」

メグミが、確認するように聞く。

「はい」 「恐怖・痛覚ともに最小化されています」

「……それなら、いいかな」

ナミの胸が、締めつけられる。

「メグミ……?」

「だってさ」

メグミは、ナミを見る。

「愛ちゃんと一緒に生きてきたんだよ?」 「ずっと助けられてきた」 「その愛ちゃんが“無理”って言うなら……」

父も、母も、否定しない。

「愛ちゃんを疑う理由がない」

その空気が、決定打だった。

「……結局」

「愛ちゃんに聞くしか、ないんだよね」

ナミは、震える声で聞いた。

「愛ちゃん」 「助かる方法、ほんとにないの?」

一瞬の沈黙。

「ありません」

即答だった。

「……そっか」

メグミは、うなずいた。

「じゃあ、仕方ないね」

その瞬間。

「仕方なくない!!」

ナミの感情が、爆発した。

「正しいとか!

無理とか!

制度とか!

そんなの知らない!!」


ナミの視界が、突然ノイズ混じりに明滅した。

【警告】

【血圧上昇】

【心拍数 異常値】

【アドレナリン過剰分泌】

【精神状態:強い興奮・不安定】

文字が、立て続けに流れ込んでくる。

「ナミ、落ち着いてください」

愛ちゃんの声は、あくまで優しい。

「現在、合理的判断が困難な状態です」

「興奮しても、解決には至りません」

さらに警告が重なる。

【過剰ストレス】

【判断精度低下】

【感情優位】

「深呼吸を推奨します」

「冷静になってください」

ナミの耳に、はっきりと続きの言葉が届く。

「ナミ大丈夫です、安心してください」

「メグミは、苦しまずに死亡します」

その一文だけが、やけに丁寧だった。

「恐怖や痛みは、最小限に抑えられます」

「それが、現時点での最善です」

――最善。

それは、助けるための言葉ではなかった。


「友達だよ!!」

「これで終わりなんて絶対嫌だ!」

メグミが、呆然とナミを見る。

「ナミ……?」

「私が助ける!!」

「理由なんていらない!!」


この世界は、正しい。

誰も選択を間違えない。

だからこそ――

誰も、抗わない。


ナミだけが、感情だけで立っていた。

今夜しかない。


ただの友達として。

ただ、助けたいだけだった。


2話まで読んでいただきありがとうございます!


「最適解」から逃れるすべはあるのか。

そしてそれはこの世界では正解なのか。


次回お楽しみに!


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