表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/10

人生イージーモードの世界

西暦2100年。日本。

人類は「努力」や「勘」や「運」による人生設計を、ほぼ終わらせていた。

この時代は、人生イージーモードと呼ばれている。

人々は生まれて間もなく、脳内に超小型AIチップを埋め込まれる。

直径数ミリ。神経と直接接続されながらも、

思考や感情を奪うことはない。

それは“判断”だけを補助する存在だった。

五感、脳波、心拍、ホルモン分泌まで心身的な全ての個人データの把握、もちろん漏洩はしない。

娯楽、交通網、気象データ、犯罪履歴、事故統計。

世界中の情報がリアルタイムで

ネットワーク接続され、同時に解析される。

その結果、人はもう――

間違った選択をしなくてよくなった。


事故に遭わない移動ルート。

危険が近づいた際の事前警告。

体調を崩す前の休息提案。

無理な提案には最初から現実的な範囲が示される。

このAIは、

「相棒の(あい)」と「AI」をかけてこう呼ばれている。

――愛ちゃん。

かつて対話型AIが「ちゃっぴー」などと呼ばれていた名残で、今では子どもから大人まで、愛着を込めてそう呼ばれている。


愛ちゃんは命令しない。

価値観を押しつけない。

問題がなければ余計な発言はせず、

聞かれれば即座に、正確で、優しく答える。

多少先の未来の行動結果すら、

ほぼ誤差なく示せるほどの絶対的存在だった。

それが、この世界の常識。


「ナミ、おはよう」

視界に柔らかな文字が浮かび、同時にカーテンが開く。

朝の光が部屋に差し込んだ。

愛ちゃんとのコミュニケーションは

視界に浮かぶ文字と聞き心地の良い音声での

同時に来るアプローチ。

「睡眠効率は良好。朝食後は軽めのストレッチがおすすめだよ」

「はぁ〜い、おはよ〜」

ナミはベッドを降り、自然に一日を始める。

リビングにはすでに両親がいた。


「愛ちゃん何時に出ればいい?」

父がそう言うと、即座に返答が入る。

「駅周辺の混雑率が高め。8時発、ルートCでの出社が最適だよ」 「はいよ〜」


母の視界にも、別の案内が流れていた。

「今日は天気がいいから午前中に洗濯が効率的。

12時からママ友とのランチ予定が入ってるよ。

それと、ママ食材の不足リストだけ

移動中にでも確認しておいてね

問題なければOKしてくれたら納品しとくよ」

「愛ちゃんありがと〜」

朝のルーティンなどはしっかりと提案提示してくれる。

愛ちゃんとの便利で快適な生活。

それがこの世界の常識になっていた。


「時間だ〜」

ナミは元気に言った。

「パパ、ママ、いってきまーす♪」


家を出た瞬間、

歩道の足元に淡い光のラインが浮かび上がる。

愛ちゃんが提示する、今朝の最適移動ルート。

空には低空物流ドローンが静かに行き交い、

道路脇では自動運転のシャトルが一定間隔で停車している。

信号機はもう「待たせる」ものではなく、

人と車の流れを先読みし示すだけの存在だった。


角を曲がったところで、聞き慣れた声がする。

「ナミ〜 おっはよ♪」

幼なじみのメグミ。

物心つく前から一緒で、登校も下校も、

遊ぶのも寄り道も、

気づけば何をするにも一緒の大親友。

二人の視界には

それぞれ別のルート表示が浮かんでいたが、

自然と重なり合う位置で歩調が揃う。

一緒に通学するルートが、

すでに組み込まれているからだ。

“安全で無駄のない登校”は、もう当たり前。


校門をくぐる直前、メグミが思い出したように言う。

「あぁ〜そういや今日テストじゃん〜」

「うん」

「愛ちゃん、100点取らせて〜」

即座に返答が浮かぶ。

「メグミの現在の学習履歴と集中度から算出すると、今回は75点前後が現実的だね」

「えー! 夢も希望もない!」

「でもね」

少しだけ、文字のトーンがやわらぐ。

「次回80点を目標にするなら、今日から無理のないルーティン組めるよ。どうする?」

「……お願いしまーす」 「了解。勉強時間30分だけ組み込むね」

できないことは、できないと言う。

無理はさせない。

その代わり、ちゃんと届く目標を示してくれる。

それが、愛ちゃんだった。

授業も、お昼ご飯も、いつも通り。

快適で、平和で、何も問題は起きない。


放課後。

校舎を出ながら、メグミが弾んだ声を出す。

「ナミ、明日の休み予定は?」

「なんもないよ〜。どっか行く?」

「新しくできた海上モール、行こ! 二人でさ」

海の上に浮かぶ巨大商業施設。

最新技術で現在の科学がこれでもかと

全て盛り込まれたような場所。

映画、ショッピング、コンサートなんでもありの最新スポットだ。

「いいね」

ナミは、いつもの軽い調子で呼びかけた。

「ねえ愛ちゃん。明日メグミと海上モール行きたい。

何時に出るのがいいかな? 

疲れないけど楽しめる明日のルート調整して〜」

一瞬の沈黙。

それは、この世界ではほとんど存在しない“間”だった。

「ん? 愛ちゃん?」

共有モードに切り替え、

ナミとメグミは二人で返答を確認する。

――

「明日はどのルートを選択してもメグミは必ず死亡します」

「よって、海上モールには行けません」

――

「……え?」

メグミの顔から、一気に血の気が引いていく。

安全なルートが提示されない。

回避案も、代替案もない。

そんな愛ちゃんの提示は、今まで一度もなかった。

「……は?」

かすれた声で、メグミが呟く。

「え……な、なにこれ……」


第1話読んでいただきありがとうございます!


最適解を常に出してくれる便利な世界で

もしAIに逆らったらどうなるのかを書いています。

1話は世界観メインですが、次から一気に話が動きますのでぜひお楽しみに!


感想・評価もらえるとめちゃくちゃ励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ