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1日目

「世界に金持ちって何人いんだろ」

幸せの吐息まじりに、脳裏に浮かんだ言葉が口をつく。

例えば今私がいるこの島は、財政界の著名な奴ら、そして「人類の脳みそ」なんて称されてる天才の連中が指揮とって、日本政府に管理運営されてる「人工島」…要は金回りと頭が良い奴らの建てた島だ。当然此処で働く連中は金持ちだ。数えきれない。

なら、金持ってて幸せな連中は?私みたく。


「居ないか、なんて」


公園にある私の指定席に着いて、手で握りしめるにはまだ早い缶コーヒーをグイッと煽る。季節外れの温度感が発汗と引き換えに、高鳴りっぱなしの内臓を引きずり返してくれる。


「ふぅ」と息をついて、成功を噛みしめる。


いや、やっぱ震えがとまんねーーーー収まらないよ、興奮が


なんでそんな興奮してるかって?聞いてくれるか?聞いてくれなくても聞いてくれ。

実は私は産業スパイな訳さ。この時点でも結構な小学生が眼ぇキラッキラさせそうなもんだが本題はこっから。私はスパイとして雇われた企業から、超一流企業の「ある研究資料の奪取と元データの破壊」ってのをお願いされていた。いやっ、ここは重要じゃない。

私が潜入した企業、「超一流企業」といっても問題があった。

ただし、良い意味での問題、つまりは私にとっての悪い意味なんだが。

というのもこの企業ってのが中々どうして、全ての技術と呼べる技術において国内はおろか海外の連中すら右に立たせぬと来た訳さ。…これもすごいけど本題じゃない。


なんと言うか端折るけど、5年半かけて依頼達成。んで、金を受け取った。

ここからが重要。


受け取った額がまじの10億


振り込まれたの確認したのが今朝の9時32分、今9時52分。

いややっぱ震え止まんねー



あれからどれほど時間が経っただろうか。もう既にコーヒーの缶は空になっていた。伸びをしながら「ふーーー」と息を吐く。

「遅せーなー、おっさん何やってんだ」

「ポケットの鳩の餌も終わっちまったじゃねえか、腹減ったのに」

私が今こうして公園に居るのには、興奮を冷ます以外にもう一つあった。

「おっさんとはなんだ、おっさんとは」

やっと来たかと訴える様に、気怠げな目線を向ける。

「なんだよ、お前にいい土産話持ってきてやったのに」

この口上も何度目か。このおっさんには一つ趣味がある。毎日この時間にやって来ては、飽きもせずにあった事件や、聞いた噂を漏らして回ることだ。この守秘義務皆無警官め!!

しかし私もこれが目当てで、このベンチに腰を沈めている部分が1%でもあるのだから、同じ穴のムジナかもしれないが。

「聞いてやってもいいぜ」

しかし、守秘義務を守らないだけで警官は警官だ。酔っ払いの武勇伝とはモノが違う。事実おっさんのそれに私は何度も助けられてきた。現に依頼を完了して、聞く必要の無い今も、こうして話を促している。それほどに魔を放つ代物だ。


「昨日の夜の7時ごろか。無線が入った。」

いつも通りの無表情で、いつも通りのペースで語りだす。

だからこそ、違和感が強調されたのだろうか。明らかに声が震えている。

「暴行事件があった。しかも一件や二件じゃない。」

一度ゴクリと唾を飲んでから、話続ける。

「上の連中は新しい違法薬物を疑っているらしい。」

ついさっきまで握りしめてた筈の高揚感の感触がない。

「・・・?なんだ?それ」

よく話が入ってこない。いや理解が出来ないのが正しい認識だろうか。有り得ない。


悪事を働いていたから分かる。この島の管理体制はガチガチだ。本当に。

そもそもの話、私達がいるこの人工島の建設計画理由、つまり「どうして建てるのか」は観光は勿論、科学の躍進の為でもない。軍事利用が最大の目的だ。何十年規模で計画されていたものが予算の超過で手つかずになって居た所を、「技術が漏れにくい構造」と「大規模実験しやすい」なんて理由で買われたのがこの島の成り立ちだ。つまり島の形からして半端な悪事は通用しない。


「なあおっさん、他にも原因あんだろ?薬以外に」

出所不明の焦りと経験からくる違和感を目の前の男に吐き出す。

「出入り出来る場所なんて、東京にかかる大橋と、政府に管理された屋内型の港だけだろ。荷物は勿論、人だって事前のチェックが無いと入島できねえ。この前なんか輸入品のグミ1個で問題になってたぐらいだぜ?なのに薬って」

私自身がこの島の警備に苦労の末負けたのもあって、捲し立てる様に追求する。

「ああ、俺もお前と同意見さ。だってそもそもが変だろ。捜査の開始段階で原因を1つに絞るって。」

しかし返ってきた言葉は意外にも、同意の意を示していた。

「だから上司にも進言したさ、変だって。そしたらなんて返ってきたと思う?『やめろ』開口一番にそう言われちまった。」

「…。な?面白い話だろ。」

おっさんは警官の帽子を脱ぎながら、そい言って話を締めた。


・・・なんとか唾を飲み込んで、怪談に近い様なお話に合点をつける。まず、おっさんの上司と同僚連中がバカでないとする。確実にバカだが。

そうするなら初めに思い付く原因は、研究所からの薬品漏れだろうか。漏れた薬品が余りに不味い代物で、警察に圧力を掛けたとか。

だがこれだと辻褄が合わない。前提として、この島は研究の為に存在している。移住者は住むにあたって企業と政府の行動に対して同意書を書く必要があるし、観光客も同じく同意書を書かされる。要は隠すリスクにメリットが釣り合わなすぎる事だ。そして何より今は西暦2120年。情報が出回る速度は既に人間の掌の上にないレベル。

賭けてもいいが隠し通せる訳がない。一企業がやるには余りにも軽率な賭け事で、その割に大規模すぎる。

「うーん」

おっさんと2人、ベンチで唸る。これも私とおっさんの日課だ。それでも今回ばかりは、机の上から仮説が飛び立つ気配が無い。


「よし、切り替えるか。」


思案にも辟易とし出した頃、おっさんが蛇足の足を断った。

私もそれに賛同する様に、ベンチから立ち上がろうと力んだその時だった。時間が停止したのは。


—繰り返す、蛍島中央保健所にて暴行事件発生—


反射的に私とおっさんは事件現場に走り出していた。

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