陰キャの妄想
僕は暗い路地を歩いている。前からいかつい恰好をした奴が歩いてくる。
僕は面倒なことに巻き込まれたくないので俯きながらそこを通り抜けようとしたら、肩に少し痛みが走った。斜め前を見る。あいつだ。あのヤンキーっぽい恰好をした奴がそこにいた。
「オイッ!どこ見てんだよ!」
暗い路地裏に怒声が響き渡る。
「ッチ、そっちからぶつかってきたんだろ…」
面倒なことになると分かりつつも僕はきっぱり言い返す。
「アァ⁉文句あんのか⁉」
急に相手が腕を大きく振りかざす。
相手の拳がどんどん大きく見えてくる。僕はひょいとその拳をから身をそらした。相手が前のめりになりバランスを崩す。また怒声が鳴り響く。
「避けてんじゃねぇよ!!」
またまた拳が飛んでくる。今度は避けずに拳を掌で受け止めた。
バシィッ!!
何かが弾くような、少し鈍い音が周囲の静寂を切り裂きながら響く。
受け止めたはいいものの、掌がひりひりして感覚が数秒なくなったような感じがした。
すぐさま次の攻撃が続く。今まではある程度予測できたので避けたり、受け止めたりできたが、今回は違う。まったく予想が出来なかったのだ。随分恥ずかしい話だが、僕はその攻撃をもろに喰らった。腹部に衝撃が走った。
「痛てぇな。」
小声でボソッと呟く。
相手の笑い声が遠くに聞こえる気がした。
「ハハハッ!陰キャが逆らってんじゃねぇよ!何粋がってんだよ!」
僕は何かが切れる音がした。
バゴンッ!!
今度はさっきの音より何倍も鈍い音が響いた。
その音を聞いてから瞬きをするより速くに重いものが倒れるような音が聞こえた。
さっき奴がいたところを見る。何もない。少し下に視線を逸らす。そこに奴は口から血を垂らしながら横たわっていた。
暗い路地裏にまた静寂が戻ってきた。
なんて妄想をしている。時計を見る。六時間目は15時30分に終わる。長針は30分を指している。もう数十秒でチャイムが鳴るだろう。それにしても妄想が捗った。
キーンコーンカーンコーン
六時間目の終わりを告げる、そして学校の一日の終わりも告げる、チャイムが鳴った。やっと長い長い一日の終わりだ。まだHRが残っているがあんなの先生の話を聞いたり挨拶をするぐらいだ。
僕はぼーっと先生の話を聞き流しながら家に帰ってからのことを考える。家に着いたら何をやろうか。昼寝をする?ゲームをする?あぁ自由っていいなぁ。もう学校なんかやめて自由に生きようか。まぁ人生そんな甘くないことは分かっているんだけど…
そういえば今日は僕の大好きなアニメの一番くじが始まるな。それを買いにコンビニまで行ってから自由にいろいろなことで時間を潰そう。僕は部活に入っているわけがなく、挨拶をしてから家に直行だ。帰宅するまでの時間は約20分ぐらいでそう遠くもない。
っと、そんなことを考えているうちに日直から号令がかかる。
「起立、礼、さようなら」
何も感情が込められていないような日直の挨拶に続いて、またもや何も感情が込められていないような声が色々な声音で教室中に響き渡る。僕もボソッと呟く。「さようなら」自分でもあきれるほど陰キャだなと心の中で苦笑する。
まぁこんなことを考えるのなんていつものことだ。だからと言って明日から陽キャに変われるわけもないけど。自分に嫌気がさしてくる。自己嫌悪に脳が侵されそうになった時、一番くじのことを思い出した。楽しみなことを想像すると嫌なことをすべて忘れれるような気がした。
心が弾むような気持ちで階段を降り下駄箱で上履きと靴を入れ替える。人をかき分けて前に進む。靴を履くと軽い足取りで玄関を出る。周りの人は友達同士で集まって帰るのであろう。無論、僕は一人だ。僕は家に向かって一直線に向かう。
その長くも短くも感じられる時間は一番くじのことしか考えてなかった。一等を出したらどうしようなんてことを考えていると、いつの間にか家の前まで来ていた。両親は共働きでいつも7、8時ぐらいに帰ってくる。鍵をリュックから取り出し、鍵を開け扉を開ける。
「ただいまー」そういいながら靴を脱ぐ。帰ってくるはずもない返事。
僕はそのまま階段を上って自室まで行く。僕の部屋は大好きなアニメ「バケットモンスター」略して「バケモン」のグッズでいっぱいだ。部屋の奥側には、デスクトップパソコンが置いてある机がある。これは勉強机も兼ねている。
リュックから財布を取り出して、部屋の適当なところへリュックを放った。
なぜ帰り道にコンビニに寄らなかったというと、「寄り道禁止」の校則があったからだ。こんな校則なんてなければいち早く、グッズを手に入れられたのに。そんなことはどうでもいい。今は一番くじが最優先だ。
一目散に玄関まで向かって靴を履き替える。玄関を出てずっとコンビニまで走り続けた。体力がなく途中何度も休憩しながら行ったが、無事に着いた。
コンビニの自動ドアを抜けると店員さんの元気の良い「いらっしゃいませー!」という挨拶が聞こえる。すぐにレジ前の一番くじを五枚取る。一枚九百円だ。五枚となると合計4500円で普通の高校生からしたら痛い出費だが、僕の場合、貯金をしていたのもあるが普段人と遊ばないので金を使う機会があまりないのも理由の一つだ。
そのくじ五枚をレジまで持っていき、くじを店員さんに渡す。「お願いします」と言ったつもりだったが、声にならなかった。
ピッピッとバーコードを読み取る音が五回聞こえた後、くじの箱を差し出してきた。五回引く。四等、五等、三等、五等、六等が出た。三等以外すべてキーホルダーやクリアファイルなどの小物類だった。三等は、少し小さめの「バケモン」のぬいぐるみだった。一等が引けなかったのは悔しいがぬいぐるみが当たったので、満足だ…ということにしておこう。
五つのグッズを袋に入れてもらい、袋を指に吊り下げた。ほくほくな気分でコンビニを出た。後ろから店員さんの「ありがとうございましたー!」という元気な声がまた聞こえる。
読んで頂きありがとうございました。次回はこの話のクライマックスなので乞うご期待!!