紅咲椛は可愛いものが好き3
腕が止まらねえ。
私、紅咲椛は雛人高校に通う可愛いものが好きなだけの女子高生!
突如として私の前に現れた天使、蒼海夕夏さんが私の秘術にやられて倒れてしまったので、今保健室に運んでいるところなの!
蒼海さんってばお茶目さん☆
しかし、今の私の状況は噴火寸前の火山のごとくデンジャラスだ。
なぜならば…
おっぺえ(おっぱい)が当たってんだよ!!私の背中によぉ!!!!
ついでに吐息も近い!!!よくわかないけどいい匂いがするっ!!
すべては私が蒼海さんをおぶってるせいなんだけどさぁ!!!
でも意識の無い女体を好き勝手するのは私のポリシーに反する!!
しかしおっぺえ(胸)でけえなぁ!!
こりゃFカップはあっぞ!!オラわくわくすっぞ!!!!
オラの中のジキルとハイドがドッカンドッカンバトルしてっぞ!!!!
ハイド「このおっぺえを触らねえやつなんている!?いねえよなぁ!!」
ジキル「おっぺえ触るぞぉ!!」
だあああああああ!!
激熱共闘展開やめろおおおおお!!少年漫画じゃねえんだよっっ!!!
それともなにか!?私には二面性なんてなくて裏も表もおんなじ性格ってか!??
裏も表もなくて純粋でピュアな心の持ち主で実はただただ一途…ってコト!?
なんだそれ!感動的だな!!
でもダメだ、堪えろ!!私はクールで優等生で先生にも生徒のみんなにも信頼されていてピュアな心を持っていて、外面だけはそんな人間であり続けるんだ!!
今人影のないこの廊下でも誰かが見ているかもしれないんだ、ボロを出すわけにはいかない…!
「んぅ…。」
いやっほぉおおおううう!!
私の耳元で蒼海さんの艶やかで超リアルなASMRが再生されてやがる!!!
頭の中で汽笛がぽっぽー響いてる!それならこのまま走ってしまえばいい!
私の理性が終点に到着する前に!!!
勝った…。私は欲望に…勝ったんだ…!
こんなこともあろうかと事前に保健室の場所を把握しておいてよかった。
おかげで一直線でたどり着いた。
ここが桃源郷…。
「失礼します。」
ガラガラと保健室のドアを開く。
この匂い…。
学校の保健室というのはどの学校でも同じ匂いな気がする。
「保健の先生いらっしゃいますか?」
誰もいない?お手洗いだろうか?
なんでもいいから背中の夢と欲望の詰まった2つの乳房を何とかしたいんですが。
(とりあえずベッドに寝かせるか。)
善は急げ、ベッドへゴーシュ―ト。頑張った…。ほんとに…。
蒼海さんを起こさないようにゆっくりとベッドにあおむけに寝かせる。
すぅすぅという天使の寝息が聞こえる。
さてこれからどうしたものかな。
二人だけの保健室、そしてベッドの上だ。
グッ…!頼む!私の理性が暴発する前に目を覚ましてくれ…っ!!
でないと、私が私でなくなるっ!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
蒼海夕夏の想い
「紅咲椛、もみじでいいよ。こちらこそよろしく。」
「へっ!?あっ、うん…。よろしく…。」
紅咲椛という美少女の何でもない自己紹介、そのはずなのに…。
(なんだろう、この気持ちは…。)
彼女の顔を見ていると心臓の音が大きくなる。
周りに聞こえていないだろうか、と不安になるくらいに。
いまいち思考がまとまらない中でもハッキリといえることがあった。
これは恋だと…。
(どうしよ…女の子に初恋?一目惚れ…?そんなの…)
嫌われたくない。
もし自分が恋心を持っていると知られたら嫌われてしまうかもしれない。
きもい、なんて道端の石ころよりもありふれた一つの悪口でガラスよりもたやすく心が壊れてしまうかもしれない。
(いやだ…。)
だが、この不安と同じくらい、もしくはそれ以上に不安に思うことが彼女にはあった。
「あっ…の、もみじちゃんって、こ…恋人…とか、いるの…?」
そう、既に相手がいるのではないか…と。
これだけの美少女であれば恋人の一人や二人いてもなんら不思議ではない。
芸能人と付き合っている、と言われても疑うことはないだろう。
もしこの問の答えが「いる」であった場合を考える余裕もない程、彼女の不安は大きく膨らんでしまっていたのだ。
「ううん、いないよ。」
「そっ…か…。」
(いない…えへへ。)
ほっと胸をなでおろす。
齢15の乙女の心はジェットコースターと変わらない。
些細な不安で急降下し、想い人の何気ない言葉で急上昇する。
現在急上昇中の彼女はあまりの嬉しさのせいか、自身の顔がリンゴよりも真っ赤に染まっていることにも気づかない。
「そういう蒼海さんは恋人いるの?」
「へぁ!?うううん!!全然…!いたことも…ない…よ?」
もはや平静を保っていられない。彼女は切羽詰まると口数が増えるのだ。
恋人いる?なんて質問をしたら、当然相手から同じ質問が返ってくるだろう。
今の彼女はそんな簡単なことすら難しくなっている。
「気になる人とかは?」
心臓が飛び出していないか確認するように胸に手を置く。嫌われたくないという気持ちと好きな人に嘘なんてつきたくないという乙女の気持ちが葛藤している。
そんな彼女の答えは、
「そそそれは…!ぇと…いなくはない…かも…。」
最早「いる」も同然の答え。
たった2つの質問で、夕夏の心という名の画用紙に何色もの色が塗られる。
もうこれ以上画用紙にスペースはなく、何度も上から重ねて塗られており画用紙はふやけていた。
そんな時だった、
「蒼海さんはどういう人がタイプなの?」
と、3つめの質問が夕夏にとどめを刺す。
「あぇ!?んと…その…」
人間の防衛本能だろう。これ以上もみじを見続けるのは危険だと夕夏に警報が出る。
もみじの顔が視界に入らないよう咄嗟に顔を逸らした…
はずだった。
「ん?どうかした?」
爆弾よりも毒ガスよりも、遥かにおっかない危険物を夕夏の目が捉えてしまった。
「―――ッ!?」
「顔、真っ赤だけど熱でもあるの??」
夕夏の額にもみじの手が触れる。
もう限界だ。むしろよく堪えた方だろう。
「あっ、あっ…、ぁぅ…。」
カラフルな感情に何度も塗りかえられた夕夏の画用紙に遂に、穴が空いた。
彼女はもう倒れるしかなかった―。
保健室にて
「ん…。」
保健室のベッドで目を覚ました夕夏。
さっきまでの嵐のような心は、眠ったことで過ぎ去ってくれたようだ。
さっきまでのはね
「もみじちゃん!?」
初恋の人の名を叫ぶ。叫ばずにはいられないだろう。
だって、
初恋の人が、なぜか大量の鼻血を出して床に倒れていたのだから。
読んでいただきありがとうございます。
次回は1/13以降になってしまうかもしれません…。