小話
「おや、帰ってきてたのかい。芽衣。」
日が沈みかけて、月が見えるかどうかという時間。私は叔父の声を聞いた。この家の中で一番の権力者――長谷川景斗。不釣り合いなこの世界の実力者である。
この世界は何とも歪で、世界のどこかで誰かの能力なる超常的な力が作用し続けることによって成り立っている。そうやって世界を回している。本当はとっくの昔にこの地球は滅ぶはずだったようだが、ある時超常的な力で滅ぼずそこにあり続けているらしい。
超常的な力は個人にやどり、いつからか遺伝性が見つけられた。様々な種類や流派が生まれ、組織を構築させていった。その組織のうちの1つである長谷川一門の元当主、それが彼である。
「今帰ったんです。」
「そうか。いや、よかった。もうそろそろ雨が降ると予報にあったから。お友達もできたようだし、何より。」
「あ、ありがとうございます。」
時々彼はどこから手に入れたのかわからない、しかし正確な情報を有している。現に今日、私は友人を得たし、遠くの空に雨雲のようなものが見える。
全く、どこでそんな情報を見つけるのか不思議でならない。だからこそ、私は彼が怖い。見透かされているような気がして、プライバシーなどないような気がして……。
その日は早々に寝た。なんだか疲れたような気がして。いつもと変わったことと言えば友人ができた。たったそれだけなのに。
今日は昨日であった公園に行ってみることにした。なんとなく、昨日知り合った彼に会える気がして。私のはじめての友人――風林颯太君に。
ああ、居た。
「やぁ颯太君。何かに落ち込んでいるような気がするけど、元気してるかい?」
「う、うわあぁ。び、びっくりした。お前は昨日の……ええっと……長谷川芽衣、だっけか?」
「そうそう、よく覚えてるね。私、嬉しい。」
「いや、誰だって覚えてるだろ。だって昨日炎を身にまといながら公園で舞ってたじゃねぇか。誰だって覚えるわ。」
「うん、私も驚いたな。だってここ、誰も来ないくらい廃れてて、近くに住んでる人も職場に泊まってることが多いからちょうどいいんだもん。そんなところにわざわざ来る人ってなかなかいないよ。」
「……ちょっと地図を使ったゲームやってたらここがレアのやつ出ることになってたんだからしょうがねえだろ……」
「数年前に流行ったやつじゃん。今更やり始めたの?」
「うるせぇ。そしたらリアルにいるってなって心臓飛び出るかと思った。」
「あはは、面白い。」
「ってかこの会話昨日も似たようなこと話したような気が」
「気の所為だよ、うん。」
「んで、何の用だよ」
「いや、今日は一般的な意見を聞いてみたくて。」
「一般的な意見だぁ?」
「そうなんだよ。私の家って叔父と一緒に住んでるんだけどさ、その叔父が何でそんなことまで知ってるのか疑問なくらいなんでも知ってるんだよ。」
「例えば?」
「君と私が昨日友人関係になったのを私が家に帰った時点で知ってたってレベル。」
「うわなにそれ怖い。」
「やっぱりそうだよね。」
「大丈夫?その人なんか危ないことやってたりしない?」
「責任と大義は背負ってるけど他何も背負ってないから多分大丈夫。」
「お、おう。」
やっぱり、叔父さんおかしいんだな。何で知ってるんだろ。家に帰って聞いてみようかな……。でもな……。
「そんなに気になるなら本人に直接聞いたらいいじゃねぇの?」
「いや、それは、その……。」
彼の頭の上には?のマークが並ぶ。
「叔父さんは私達を引き取ったというか、なんというか、父親と同じ役に成っているけど、血はあまり繋がってないし、まだアラサーにもなってないし、何って言えばいいか分かんないけど接しづらいんだ。」
「……いやそんな重い話さ、昨日会ったばかりの他人に言うもんでもないぜ?」
「他人じゃない、友人。」
「へいへい。んじゃ俺が聞いてやろうか?」
「いいの?」
「ああ。つっても俺のほうがややこしいか?姪の友達だもんな。」
「……でもちょっと気になる。君みたいなタイプと叔父さんとの会話。」
「んじゃま、行くか。こっから何分でつくんだ?」
「二十分もかからないくらい。ありがとう。」
「いいよ、そんくらい。ってかお前どこ中?学生ではあるよな……?」
「第三中学校、3年生」
「俺第二……隣かぁ。ってかタメだったのか。」
「え、タメに見えてなかった?」
「ちょっと年上かな、って。」
「うわ、なんか勿体ないことした気がする。」
他愛ない会話をしながら家に向かう。なんだろう、今までの中で一番楽しかったかもしれない。
「おや、芽衣。おかえりなさい。今日はお友達も連れてきてくれたんですね。茶でも飲んでいってくださいな。どうぞごゆっくり。」
敷地に入るか入らないか、そのくらいで声をかけられた。なんだろう、ここらへんにセンサーでもあるのかな。
「はじめまして、お兄さんですか?風林颯太って言います。」
「おや、ご丁寧にどうも。残念ながら兄ではないね。私は……まぁ叔父だよ。」
毎回毎回この叔父は叔父だと他人に名乗る時少しためらう。私のことを姪と紹介するときは少し誇らしげなのに、だ。
「お若いですね。」
「兄とは年が離れていたんだ。……おや、その顔。まだ私に質問があるようだ。いいよ。ここでゆっくりとしていくといい。応接間はこっちだ。」
後ろを振り返り、ゆったりと歩いていく景斗さん。……普通、私の友人ってだけで質問を受け付けるんだろうか。
「芽衣、早くおいで。今日はいいどら焼きがあってね。あれは絶対おいしいやつだよ。」
颯太君はもうすでに進んでいた。私も行かないと。景斗さんが絶対おいしいというものは大体当たりだから。
「やっぱりおいしい。これ、駅前にある和菓子屋さんのどら焼きなんだ。私のオススメは豆大福。あれはもう飲めるよ。」
「へぇ、そうなんですね。今度行ってみることにします。」
「それがいい。それで?君たちの質問を受け付けるよ。遠慮なく、なんでも。流石にスマホのロックの解除方法は言わないけど。」
「芽衣の叔父さん。俺とコイツは昨日友達になったばかりだ。なのに昨日の時点で新しい友達ができたことをなんで知ってたんだ?」
「叔父さんとは言わないで……長谷川でも、お兄さんでもいいから……。そうだね、君はここが長谷川一門の家だ、ということは知ってるのかな?」
「まぁ、断言されなくても察してはいました。」
「長谷川一門の当主にはなんでも見通すことのできる瞳の所有権があるとされている。」
「瞳の所有権ってどういうことですか、っていうか、私そんな話はじめて聞いたんですけど。」
「所有権ってのはその名の通り。能力について、確か教科書なんかでは突如現れた超常的な力と記載されていたっけな。そんな力、科学者がこぞって研究したよ。その結果得られたもの。それが能力は体の一部に宿る、というものだ。それは個々人によって場所が違うが、親子なんかでは場所がほぼ同じだったんだ。能力もほぼ一緒。多少の差はあるけどね。そのうち、長谷川一門の中で一番強かったやつが瞳に力を宿してたもんだからそれが継承できないかといろいろやって、受け継がれてきたのがこれ。」
そう言って景斗さんは目を指した。真っ黒な目で、いろんなものが渦巻いてるようなそんな目を。
「まぁ、この瞳も能力的な部分が受け継げればいいから血縁とかは全く持って関係ない。……この瞳はなんでも写し出すから、芽衣に友達ができたのも知ってた、というか見えてたかな。」
疑問は解けたかな?と聞く彼に、私は1つ、問がうまれた。
「どうして、それを黙ってたんですか。聞かなかった私も私だけど、それって門下生達は当たり前のように知ってる行動をとってた。どうして、家族には黙ってたんですか。」
「……このことは、一門の秘密のうちの1つでね。一門に下ってない者には聞かせられないんだ。おや、ここに門下生でもないのに秘密を知ってしまった人間が二人もいる。はて、どうしたものか。」
「え、なんか俺自分から巻き込まれに行って感じ……?能力なんて、知らんのだけど。」
「……私って門下生ってわけじゃなかったんだ……。あの人たち色々教えてくれたのに……?」
「さて、優秀な卵が2つも手に入ったし、今日はいい日だな。」
私の叔父はそう言って温かい茶を一口すすった。
続編が書きたくなったり、このキャラクター達の作品が書きたくなったらまた短編として書くかもしれないです。