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Uyuni_Botter  作者: るふな
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第参拾伍撃  宿敵

おかしい。全くもって不可解だ。ビーティーズと隊列を組んで飛行し始めてもう12分は経過する。アールヴヘイムの森まで到達したはいいものの、楽園に関連するような施設や農園らしきものが一向に見当たらない。


このままではヘルヘイムの外周を一周してしまう。スキャンを重ねる度に、あたしの不安も一段ずつ積みあがっていく。いくら飛べども、破壊された連合軍のキャンプくらいしか反応がない。


気を紛らわすためにふとシールドに移る8号の画面に目を落とす。移動中…この方角は、おそらくシャルロッテを救出に向かわせたのだろう。ドSと鉢合わせになる可能性は考慮できなかったのかまったく。


画面をメイデンの方に切り替えると、外側のカメラにはすでにドSの姿がない。


いよいよトラブル発生だ。ドSを捕捉できないのはかなりの痛手、シャルロッテが取り出されて弄ばれるのも時間の問題か。


しかしよくよく考えてみると、シャルロッテの命運など楽園に比べたら、ミカンネットくらい些末なもので、正直なくても困らない。


「ふぅ…とりあえずメイデンは後回しにして、スキャンを続けましょう」


「スキャンカンリョウ、アールヴヘイムシュウカイジョウニ、ラクエンラシキハンノウハアリマセン」


「なん…だとぉ…」


あたしは全身の力が抜けて、思わず森の中で着陸した。もう一周してしまったようだ。突貫だったとはいえ、そこそこ気合の入った装備でおめかしして来たというのに、無駄足だったのか?


「ムスペルスヘイムノチュウシン二、チカシセツラシキハンノウアリ」


「なんで今まで黙っていたのよ」


「コウドニインペイサレテイタモヨウ。ハンノウカクニンノ6ビョウゴ、フタタビハンノウガショウシツシマシタ」


原因は不明…面倒なことが起きているのは分かる。ヒルツが言っていた、アールヴヘイムもといムスペルスヘイムの磁場の中心は元々研究施設があったらしいし、あまり気乗りはしないが地下を調べてみる必要がありそうだ。


「まあいいわ。オブシーン・メイデンを地点G-47に移動させて」


あたしはジェットを焚いて中心部へと向かった。何とも形容し難い気持ちを敢えて表現するとすれば、衝動だろうか。


ようやく目処がついたご褒美にあり付けない絶望と、手に入れられる確率がさらに減った焦燥、そして色々台無しにしてくれたWHCに憤りを禁じ得ない。


計略も何もなく、ただ全てを破壊してしまいたい衝動にだけ身を任せて飛んだ。戦地を飛び越えて、中心地に降り立つと、ちょうどいいタイミングでメイデンが飛んでくるのが見えた。


「よしよしいい子だ…ん?」


上空で待機している3号のレーダーに反応があった。メイデンに何かくっついている様に見える。視界にとらえた瞬間、心臓を直接鷲掴みにされた様に一瞬呼吸が止まった。


メイデンが地面に降り立つと、白目を剥いて気を失ったシャルロッテが中でぐったりしている。普段なら写真の一枚でも撮るところだが、どうやらそんな余裕はなさそうだ。


「あらあら、こんなところにいらっしゃったの?あなたがこの芸術作品を展示された方ね?」


まさかドSがメイデンに掴まって一緒に飛んでくるなんて、流石に予想していなかった。ドSの声がヘルメット越しに伝わるたびに、不快な蟻走感に襲われる。


「久しぶりじゃない。随分と元気そうね」


「あらごめん遊ばせ?私と面識がございまして?」


ドSは動いていないのに明らかにあたしに向けて殺気を放ちはじめたのが分かった。手に持っているライフルのトリガーにスッと指を通したのを確認して、あたしもいよいよ交戦を覚悟した。


「キャハッ!生き残りはいないと思っていましたけれど、貴女の事は非常に興味がありましてよ。御名前を教えて下さるかしら?」


あたしは無言で背中の後ろで印を結び、Σにエネルギーのチャージを始めた。


「あら、とてもシャイな方なのね。よろしい、私から名乗って差し上げましょう」


ドSは不気味な笑みを浮かべて、両手を広げた。


「私はドローレス・ラサダルツ。ラサダルツ公爵家の者ですわ。一部の方々にはDoS_Asskickで知られていましてよ」


「あなた、何しにこんなとこに来たの?」


ドSは手を広げたままだが、指はトリガーにかかったままだ。


「貴女のお名前は?」


ドSの声色は先程よりも冷たく、殺意のこもったものになった。


「あたしは…」


刹那に理解した。戦闘は避けられない。


「Uyuni_Botterだっ!」


直後に上空で警戒体制を張っていたビーティーズがドSを包囲する。あたしはジェットを焚いて後退して、ぷに子氏に通信を飛ばした。


「ぷに子氏っ!あなた無事なんでしょうねっ!?」


「うわっ!ウユニさん?このコントローラ通信できたんですかっ?今どこですか?」


「戦闘中よっ!地点G-47でドSとやり合ってる!8号はっ?!」


「それが突然8号の通信が切れちゃって…ごめんなさい」


8号のカメラを常にONにしておくべきだった。8号は死角からやられたに違いない。ぷに子氏はコントローラのハンデがあるとはいえ一応はトップランカーだ。ぷに子氏が操作して死角を突くなんてドSくらいしか考えられない。


それにしても腑に落ちないのは、8号はビーティーズの戦闘中バックアップとして動いていた為、殆どバッテリーの消費がなかった、つまりは数発喰らったところで致命傷までは至らないはずなのに。


「あとでお仕置きよぷに子氏。それよりもそっちでシャルロッテを回収してちょうだい。状況が変わってメイデンをシャルロッテなんかに使うのは勿体無いの」


「えっ…何処ですかっ?シャルロッテさんは生きてるんで…」


あたしは通信を切ってドSを目視した。センサーには周囲300メートル以内に余計な敵機はいない。


「オブシーン・メイデンを発信源C-08に移動っ!解放コード: ARCHFOE、ゲロッテを吐き出したらすぐ戻ってらっしゃい!」


一瞬…ほんの一瞬の油断だった。ドSまでは距離があり充分回避が可能だったのと、ビーティーズが囲んでいる安心感から想定の思考が鈍っていた。


無意識に身を捩っていたのは、野生の感としか言いようがない。気がついた時には地面に倒れていた。


「う…くっ…」


腹部が熱い…出血している…撃たれたのか…。アドレナリンが意思とは無関係に脳内を満たし、目の前の出来事がスローモーションの様に見え始める。


走馬灯を見る時はきっとこんな感覚だろうと呑気に考えながら、何が起こったのか分からないままでいた。何故自動回避が作動しなかったのか…。何故鉄壁のΣの装甲を貫いてきたのか…。


一斉に攻撃を仕掛けたビーティーズが、いとも簡単にヘッドショットを撃ち抜かれてゆく。ドSが最小限の動きで振り回しているエモノは、ライフル型なのにSMGばりの連射速度で鮮やかに包囲網を貫いてゆく。


Σは飛び回っていたとはいえ充電はほぼ満タンの状態だ。普通のエネルギー弾なら何十発喰らっても問題ないはずだ。


あたしはゆっくり振り返ると、後ろの岩に弾痕が残っていたのを見つけた。よく見るとそこには見たことのない物体でできた弾丸がめり込んでいた。


スキャンしなくても分かる。Σやビーティーズのシールドを一撃で貫けるなんて、地球外の物体しか考えられない。


確定だ。ドSはヘルヘイムと繋がっている。全ての元凶だ。詳しく聞かねばなるまい。


あたりが静寂に包まれた。破壊されたビーティーズの機体がショートしてスパークする音だけが風に乗って聞こえてくる。


「Uyuniですって…?」


あたしはすぐに立ち上がり、エネルギーチャージの印を結んだ。


ドSは表情は恍惚を塗りたくられた不気味な笑みを浮かべていた。


「ずっと…ず〜っと探していましたのよ…あなたのこと…。私が送った愛のメッセージ6827件…ちゃんと届いていまして?」


うわっキモっ!大量のメッセージが送られてきてたのは知っていたけれど、まさかそこまで送っていたとは。背筋がゾワっとした。


「後にも先にも私が勝負事で敗北を喫したのは、あなただけ。世界でたった1人、あなただけですわ。エインヘリアルでも見受けられなくなってしまったので、心配していましたのよ?それが…あぁ、ついにこの手で仕留められるのね!」


「オブシーン・メイデン、トランスフォーム!」


「たっぷり可愛がって差し上げますわね」


あたしはΣを装備したまま飛んできたメイデンに飛び込んだ。メイデンは変形しバトルモードに切り替わる。


「おらぁあああ!」


あたしは溜めていたエネルギーを全開放して光線を放つ。


「波動拳っっ!!」


どうしてもやってみたかった夢が今叶った。


エネルギー砲…神の杖程ではないが、普通の戦闘機体なら木っ端微塵、山ごと吹き飛ばせる威力だ。


「ビーティーズの葬いには地味だったかしらね」


左の脇腹の鈍痛が走る。まさかこの防御力でダメージを与えられるとは思わなかった。さっきの物質の解析が必要だ。


あたしが後ろの岩に埋まっている弾丸を取ろうと振り返ると同時に悪寒が走った。


「あらあら、随分と物騒な…」


あたしは咄嗟に振り返り、声の元までジェットで距離を詰めてビームサーベルを振り翳した。


「うわっ!」


バチンという稲光かと錯覚するほど大きな電光が飛び散り、あたしのビームサーベルサーベルが弾かれた。


ようやく土煙が晴れると、ドSは半径2メール程の電磁バリアの中にいた。


「まぁ…せっかちですわね」


いきなり人の事撃つお前が言うか。それにしてもあたしの自慢のビームサーベルを弾くなんて、理論上ヴァナへイムの電磁バリアでも不可能だ。一体どんな出力してるの。


「厄介ね」


あたしはいよいよ覚悟を決めた。

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