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Uyuni_Botter  作者: るふな
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第参拾撃 天命

真っ白な光に包まれて、あたしは物凄い勢いで後方に吹き飛ばされた。


背中から岩に叩きつけられて、うまく呼吸ができない。


まだ生きていることに気がつくのにかなり時間がかかった。


「う…」


U-2の高密度エネルギー波をモロに喰らって無事だったのは意外だった…いや、何か様子がおかしい。


「みかんちゃん、何があったの?」


「カイヒフカノウナコウゲキヲケンチシタタメ、BTCをキドウシマシタ」


何ということだ。衛生兵器の神の杖をハッキングしたビーティーTHEクラッカーが正確無比に起動できた上に、みかんちゃんはあたしの危機を検知して自動で起動してくれたというのか。


「これは…ご褒美をあげないとね…」


「ヤッタ」


荘厳な天空の島に物凄く巨大な風穴が開いてしまった。


顔を上げた直後、自分の目を疑った。ヘルメットはみかんちゃんの警告の電子音が響いている。2度見して目を凝らすと、穴の空いた空中にU-2が浮遊していたのだ。


コアが剥き出しになってはいるが、再生の動きを始めたのは遠目に見ても知覚した。


あたしは急いでありったけのジェットを焚いて、地面に落ちていたεのプラズマブレードを拾って、コア目掛けて突進した。


「うぉぉおおあああああ!」


稲光の様な激しい電光が走り、コアを砕いた衝撃でまた吹き飛ばされた。


崩壊した施設の2階の窓を突き破って、僅かな光が差す1階に転げ落ちる。


「み…みかんちゃん…サーチモード…」


「サーチモードキドウ、シュウイ3000メートルケンナイニミカクニンハンノウナシ」


「ふぅ…これはキツイわね…」


εとBAさんを失い、あたし自身も満身創痍。シールドに映されたバッテリー残量も20%を切っている。全く割に合わない戦闘だった。


しかし収穫もあった。しばらく休んだ後に周囲を観察していると、神の杖が発動する直前にあたしを捕らえていたU-2の一部が見つかったのだ。


「ほんとこれ何でできているのかしら?見たことないわね」


みかんちゃんのスキャンにはやはり未知の抗生物質という結果が表示される。持って帰ってじっくり研究したいところだ。


そういえばヒルツは無事なのかしら。シールドに表示されたマップを見ると、ここから120m程離れたところに生体反応がある。


瓦礫を越えるたびに腹部に激痛が走る。


「イタタ…」


思った以上に疲弊していたので、少し高い瓦礫を登ったところで腰を下ろしてしまった。


空は見事に快晴。ここらでゆっくりオレンジティーでも優雅に傾けたいところなのだが…


あたしはアドレナリンが切れる前に、最後の力を振り絞って瓦礫を滑り降りた。


大きな柱と瓦礫の影にヒルツが倒れていた。神の杖の爆風に巻き込まれて吹き飛ばされた様だけれど、息はしている。足から出血が見られる。


「ちょっとヒルツ、しっかりしなさい」


「う〜ん…」


「おい!」


「うわぁ!…痛いっ!」


ヒルツは飛び起きると、足を押さえて悶絶した。


「さぁ、ここの施設と何があったのか洗いざらい話してちょうだい」


「え…え?U-2はどうしたんですか?」


「ぶっ壊したわよあんなわけ分からないの」


「そんな…ありえ…なくは無いですね…ウユニさんならやりかねない」


「で?」


「わ…我々はこのニヴルヘイムで次元ポータルの研究をしていました」


「何そのSF感満載な研究。そそるじゃない」


「ヘルヘイムとの共同研究の結果、我々は次元ポータルの開発に成功し、両施設間の物資の転移輸送に成功しました。動力にはU-2のコアと同じ物質が使用されています」


「あの動力源は謎ね。U-2を構成していた物質も地球外のものなんでしょう?」


「はい…動力はインフィニティマテリアルと呼ばれていて、試験的に武器の動力に運用が開始された段階でした。U-2を形成していた物質はルナタイトと呼ばれる地球外鉱物で、硬度はアダマンタイト以上です」


不可解なのはそれだけの硬度を誇りながら、εがブレードで斬りかかった時に、U-2は切れていた様に見えた。恐らく斬られそうになった箇所を直前で分離していたのだろう。なんてやつだ。


「全くとんでもないわね。それで実験の為に送られてきたU-2が暴走したってわけ?」


「いえ…U-2の転送は事前に知らされていませんでした。突然ポータルが起動して現れたんです。地球外の兵器についてはいくつか報告書がありましたが、どれもヘルヘイムで開発されたものです。U-2に関する情報はありませんでした」


「U-2はヘルヘイムで開発されて送られてきたってこと?」


「分かりません。ただ地球外生命体の存在は確認されていて、インフィニティマテリアルの運用は彼らの兵器を参考にしたとありました」


「う〜ん…宇宙人がヘルヘイムから兵器を送ってきたの?その言い方だと宇宙人は敵対している様な印象だけど」


「ヘルヘイムが落とされたとは考えにくいですし、地球外生命体との関係性も憶測の域を出ません。少ない資料と現状だけではどうにも判断しきれません」


「まあ、ヴァナへイムを丸ごと切り捨てる様な輩よ、大方兵器開発に目処がついたから、費用対効果に見合わない施設は破棄しようとでも考えたのでしょう」


「え…ヴァナへイムで何かあったんですか?」


そうか、ヒルツは事件が起きる前に異動になったから、ヴァナへイムの一件を知らないのだ。


「詳しく話すと長くなるけど、要約すると壊滅したのよ。研究員もろとも」


ヒルツは絶句して暫く動かなかった。


「け…研究員もろともって…みんなはどうしたんですか?アランシアや…コーデリアはっ?僕のC-102はっ?!」


C-102型戦闘機体は改良版のシラタキちゃんのことだ。


「無事なのはシャルロッテとぷに子氏…Punipon_13だけよ。C-102型はちゃっかりあたしのデータバンクに転送してあるけど。他は全滅ね」


「何てことだ…」


ヒルツはすっかり血の気の引いた顔で蹲っている。しかし何処となくニヴルヘイムでの惨状に心当たりがあるような語調だったのを、あたしは聞き逃さない。


「しかしCちゃんが無事で本当によかった。ありがとうウユニさん。Cちゃんのデータは今何処にあるんですか?」


ヒルツも筋金入りというわけか。


「あたしのクラウドに入ってるからすぐに転送できるわよ。それよりポータル見せなさいよ」


「え…次元ポータルはU-2に破壊されましたけど…」


「残骸くらいあるでしょ?資料がなくても原理の説明くらいできるでしょうね?」


あたしはヒルツを引っ張って、半壊した施設の2階まで足を運んだ。中はぐちゃぐちゃだけど研究施設の面影は残っている。


途中から足を引き摺るヒルツに案内されながら施設内を進み、ようやく次元転移研究室まで辿り着いた。


学校の体育館よりも広い空間を、目一杯次元ポータルのゲートが設置されていた様で、残骸の半分は天井につきそうな高さまである。


あたしは破壊された制御装置のマザーボードを弄り、SSDを引っこ抜いてみかんちゃんに読み込ませた。


シールドに次元ポータルの設計図が映し出され、何というか未知の技術を垣間見る高揚感とは別に違和感を覚えた。


ヴァナへイムの時も、潜伏期間も、アースガルズの時も対応があまりに詰めが甘い。大雑把というか意に介してないというか、しかし舐められているという感じではなく、何やら不気味だ。


「なるほど、この大きさの次元ポータルの起動にはとてつもない高密度エネルギー場を形成できる程のエネルギー源、インフィニティマテリアルが不可欠と言うわけね。道理で現代技術では成し得なかったわけだ」


神の杖のエネルギー源はインフィニティマテリアルだったのだ。ハッキングでは操作した時に衛生のハードに設計データは保存されていなかったから分からなかったけれど、ようやく合点がいった。


研究室に腰を下ろした時、いよいよアドレナリンが切れた感覚が襲ってきた。体が重く、痛みで呼吸が浅くなる。


今になって思うと、この島を浮かせていたクリスタルもインフィニティマテリアルに違いない。案外そこらに転がっているものなのか?そんなにあったらちょっとくすねて、世界中でエネルギー革命を起こそうとする研究員でも現れそうなものだが。


「ヒルツ、インフィニティマテリアルと変換器ちょうだい」


「え…えぇ、いいですよ。もう使い道ないですし」


何だろうこの違和感は…ヒルツくらいの秀才なら幾らでも使い道を思いつきそうなものなのに…嫌な予感がする。


あたしはこの天空の島で少し休んでいくことにした。1階の医務室でボロボロの包帯を体に巻き付け、鎮痛剤を拝借する。


食糧庫には焦げた乾パンと味気ない保存食があった。


苦いパンを水で流し込みながら次元転移研究室に戻ると、ヒルツは遠くを眺めてぼーっとしていた。


「ヒルツ」


「え?…あぁ、はいどうしました?」


「どうしたも何も、逆にどうしたのぼーっとしちゃって」


「何というか現実味がなくて…ヴァナへイムもこんな感じで襲われたんですか?」


「まぁ、相手は戦闘機体とキメラだったけど、似た様なものよ」


「…酷いですね…みんな頑張って働いていたのに…僕たちの努力は何だったんでしょう…」


「それに意義を見出すのは自分自身でしょう?」


あたしは放心状態のヒルツに鎮痛剤を渡した後、簡易的なヘルメットを作りヒルツにあげた。


「何ですかこれ?」


「時間がないから最低限だけど、生き残りたいなら連れてってあげるよ」


「ど…何処にですか?ここにはポータルじゃないと行き来できないんですよ?」


「あたしがどうやってきたか見てなかったの?さあ、行くわよ」


あたしはヒルツの腕を掴んでフライトモードを起動した。殆ど生身でここを抜けるのはかなり厳しいと思うけど、さっき拾った鎮痛剤はかなり優秀な様だから、暫くは大丈夫でしょう。


あたしは勢いよくヒルツと共に飛び立って島のシールドをかち割った。音響浮遊区域から脱出するまで物凄い振動が全身を駆け巡った。


抜け出す頃にはヒルツはぐったり気を失っていたけれど、バイタルは安定していた。


そのまま低空に高度を落として西を目指す。ヒルツの負担を考えると長距離は飛べない。Δの充電もしたかったので、数時間飛んでタヒチに近い離島に着陸した。


ヒルツを日陰に寝そべらせてあたしはヘルメットを脱いだ。


「ふぃ〜…みかんちゃん、チャージモード起動」


「チャージモードキドウ…オヤスミナサイ」


「さて、あたしは南の島のバカンスでも楽しみますか」

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