第弐拾漆撃 離別
やっとのことで潜水艦まで辿り着いたあたし達は、着地と同時に膝をついた。
シャルロッテとぷに子氏に至っては、そのまま地に伏してしまった。
「いいかいシャルロッテ、よくお聞き。あなたの計略は戦闘においてポンコツ以上に自殺行為よ。あたしがCPUと生産工場と司令室を落としてなかったら今頃全員…」
「もういいの!解ってる!」
「いいや何も分かっていない。みかんちゃん!」
「アースガルズノソンカイリツハ47%、フッキュウマデ2カゲツデス」
「この拠点を陥落できなかったことで一層警戒が増すし、必ず追っ手が来る。嫌がらせ程度の半端な作戦ならやらない方がまだマシだ。何よりあたしが楽しみにしていた軍隊との戦闘がほとんどできなかったじゃない」
シャルロッテは暫く俯いて黙っていた。
「ま…まぁまぁウユニさん、みんな無事に生きているんですし、これから…」
「あなたは死場所を求めていたんでしょう?私達なんて放っておいて、好き勝手暴れていればよかったじゃない」
「目的と目標があるのに途中で投げ出して力尽きるのはただの犬死にだ!それにあたしはまだしもあなたの自殺にぷに子氏を巻き込むんじゃないの!」
「ちょ…私は大丈夫ですから2人とも落ち着いて下さい…」
「はぁ…餞別にその潜水艦はあげるよ。あなた達と行動を共にするのはここまで。ε、BAさん、装備解除」
εとBAさんのパーツが開き、ぷに子氏とシャルロッテが機体から剥がれ落ちた。
「ちょっと…ウユニさんがいないと私達死んじゃいますよぉおお!」
「何をするにも勝手だけど、あたしの邪魔はしないでね。では達者でのっ!」
あたしはεとBAさんを連れて星空に飛び込んだ。もうあたしの行手を遮るものはない。最っ高に自由だ!
「あ〜あ、ウユニさん行っちゃいましたよ?謝った方がいいんじゃないですか?」
「何を言っているの、あの娘がここまで大人しく協力していたのが奇跡なのよ。単騎で飛び出すのは時間の問題だった」
「じゃあこれからどうするんですか?」
「そうね、まずは甘い物でも食べに行きましょうか」
「うわい!素晴らしいアイデアですね!私バナナパフェがいいです!」
ヘルメットがとらえた最後の2人の会話はここまでだ。全くどこまで能天気なんだか。
さて、自由になったあたしはニヴルヘイムにでも向かいましょうか。
シャルロッテに尋問して炙り出したワーフェスの関連施設は把握している限り、孤島のヴァナへイム、荒野のアースガルズ、密林のアールヴへイム、凍土のニザヴェリル、灼熱のムスペルスヘイム、天空のニヴルヘイム、深海のアトランティスの7つ。
どうせもう1つや2くらいあるに違いない。
あたしは直感に従って、と言うより一目見てみたい場所に急行することに決めた。
それがニヴルヘイム、天空に浮かぶ島だ。
今までも規格外なものばかりだったけれど、島ごと浮かせてるとは何とも興味深い。
「うるさいのもいなくなったことだし、やりたかったことを進めますか。みかんちゃん、ビーティーTHEクラッカーの調子は?」
「イツデモジッコウデキマス」
「よろしい、放ちなさい」
「リョウカイ、BTCサクセンジッコウシマス」
下拵えは順調、計算では今の時期は約1200㎞東にニヴルヘイムが来ているはずだ。
夜空を泳ぐ間、ヘルメットの外で風を切る音と、みかんちゃんの計算による電子音以外何も聞こえない。
「静かねぇ…」
「タマニハカンショウニヒタルノモイイデショウ。オンガクデモナガシマショウカ?」
「そうね。ムーディなJAZZでもお願いしようかしら」
「コレカラオオキナイッポヲフミダスアナタニ、Giant stepsヲオトドケシマス」
「もうちょっとローテンポなのでしんみりしたいんだけど…」
「イイデショウ、フリーソザイカラランダムデナガシマス」
「みかんちゃん自動操縦お願い」
「ジドウソウジュウキドウ」
ようやく独りでゆっくり物思いに耽ることができる。
思えば人生の殆どを独りで生き抜いてきたあたしには、長過ぎる共同生活だった気がする。
人は共同体に身を置く環境では、無意識に誰かの意思に合わせてしまう物なのだ。
大分流されて路線変更したけれど、主たる目的を忘れてはいけない。
そう、陶酔泉のオリジナルである楽園は森林限界の高度で栽培される突然変異の品種だ。
天空の島に持って行った結果、変化を遂げた可能性は大いにある。
確かめに行く動機としては十分だ。
そしてニヴルヘイムは超大手IT企業グルグルの管轄で、表向きは戦闘機体のAI処理部分を担っている。
ヴァナへイムとアースガルズにあった化け物CPUには、グルグルの傘下企業のロゴが刻印されていた。
ワーフェス参加する団体の中でも一際目を引いていたグルグルを相手にするのは、骨が折れそうだ。
「みかんちゃん、ΔとεとBAさんのバッテリー残量は?」
「Δ97%、ε89%、BA62%デス」
アースガルズでキューブ型の小型爆弾を設置するついでに、持っているだけの自前の檸檬爆弾もばら撒いてきてしまったので、どこかで補充したい。
軍事基地で忍び込んだ武器庫には、男の子が喜びそうなゴツいマシンガンばかりで、役に立ちそうな武器が全然なかったのだ。
とはいえこの先には海と島しかなく、とてもじゃないが精密機械を弄れるような設備は期待できない。
充電だけして行きますか。




