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Uyuni_Botter  作者: るふな
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第拾壱撃 計略

何もない草原、見渡す限りの地平線の中、光の海に包まれる…


右、左、前、後…


「あぁ、上だけ空いていたわね」


刹那のうちに思考するも虚しく、ブツンと強制的に意識が引き剥がされた。


酷く気分がすぐれない…あたしは無機質な白い椅子からのっそりと滑り落ち、頭にまとわりつく機械を外した。


少し離れた別室から「あのクソビッチをやっと黙らせてやったぜ!フッフゥ〜!」とやけに上機嫌な奇声が聞こえる。


流石に初めて使用するニューロトランスミッターで、さらには30対1の条件で勝利を収められるほど緩くはないか。


しかしこんな勝確の勝負に勝って、嬉しいものなのだろうか?


「実践も訓練もあたしにボロ負けだったから、鬱憤がたまってても仕方ないわよね」


ニューロトランスミッターでの機体への意識転移は、予想以上に制限が多かった。


まず意図してからのラグが概算16フレームもあるし、回線がいい状態でもFPSは90程度しか出ていない。


これでは戦闘機体が無人島で生身の私に勝てなかったのも頷ける。


戦闘機体はキーマウもしくはコントローラーで動かすこともできるのだが、操作性にさらに制限がかかるとは言え、そちらの方がいくらか使い勝手が良さそうだ。


自分の独房もとい研究室に戻る途中の廊下で、食堂の方から歓喜の叫びが聞こえるのが響いていた。


非常に不利なハンデ戦だったとはいえ、私が敗北を喫したのにはもう一つ理由がある。


今回の擬似戦闘訓練では、戦闘AIのみかんちゃんを模した、新たにフューチャーテクノ社が開発したAI「Huaina」のプロトタイプが搭載されていたのも要因の一つだ。


私が入った機体にも搭載されていたが、照準の自動検知の後に、乱数回避機動が画面上に表示される。


さらには推定される敵の位置や、推奨される戦術の選択肢まで表示された。


あたしの軌道ログから計算された、対あたしよう戦術まで組み込んであったのだ。


それは旧作のみかんちゃんとジェットドレスではもう戦えないということを意味している。


だが、それでいい。


今はもうあたしは企業にとって脅威ではないと、取るに足らない存在であるという印象を植え付ける必要がある。


今の生活を維持するには、定期的に玩具を提供しなければならないが、勿論それらを活用されても対応できるプログラムとセットでのご提供だ。


シャルロッテ曰くこの企業には優秀な研究者が世界中からかき集められている。


しかしことプログラミングの分野でシャルロッテの右に出るものは在籍しておらず、そのシャルロッテのお墨付きを貰う私の作品だ。


抜かりはない。脱走の準備は着々と進んでいる。


シャルロッテはフューチャーテクノ社を壊滅に追い込む算段の様だ。


その際に全ての機密をばら撒く手筈なのだが、世界一とも言えるファイアウォールを突破し、意のままにプログラムを組み替えるには、どうしても一度サーバーをダウンさせる必要があるのだそうだ。


あたしが構築したボットは、回線を通してでは突破できない可能性があった。


なにせ2048コアに4096スレッドのバケモノCPUが外部回線からのアクセスを自動演算処理しているのだ。


武装要塞にペーパーナイフ1本で立ち向かう様なものだ。


私自身作成したのはいいものの、どうやってあの厳重な警備を掻い潜って、直接ハッキングをかけるか悩んでいたところだ。


しかし直接デバイスにセットする必要性の問題についてはシャルロッテが解決してくれた。


シャルロッテはメインシステムも調整するエンジニアの1人だ。


誰にも怪しまれずにコアまでアクセスすることができる。


シャルロッテと協定を結んだ後は、研究室での作業内容と、その様子のデータを常に改竄してくれている。


もうシャワーやトイレで無理やりコード配列と睨めっこする必要はないのだ。


しかしシャルロッテの端末には情報が共有されている。


あたしは最初、新兵器開発について端末同士の共有を避けた方がいいと提案したのだが、作戦を立てる上でどんな武器を私が所持しているのか把握しておきたいと押し通された。


可能性は低いけれど、シャルロッテの端末がハッキングされないとも限らない以上、緊急用の装備は内緒で開発させてもらおう。


ゴメンなさいねシャルロッテ。女は秘密を着飾って美しくなるの。


作戦の概要はシャルロッテがハッキング装置をセットして遠隔で作動、あたしが暴れてサーバーをダウンさせたと見せかけて脱走、その間にシャルロッテはメインシステムを復旧すると見せかけてプログラムを捩じ込む。


最低限、あたしはこの島を脱出できるスペックの新たなジェットドレスを開発しなければならない。


「うふふ…今からお披露目が楽しみね」


新たな冒険の予感と、危険な賭けに心躍る一方で、あたしは心の片隅に言いようの無い虚無感がハイドしているのを発見した。


果たしてこの島でのサバイバル以上に刺激的なことがあるのだろうかと、この作戦が終わったらまた刺激の感じられない退屈な生活に逆戻りなのではないかと、根拠のない不安が拭えなかった。


「悪の組織との戦い…萌えるシチュエーションね。次は戦争?ゾンビ襲来?それとも異世界転生かしら…」


あたしはスクワットをした後、大きく伸びをした。


「今度は筋トレが必要ないドレスにしましょ」



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