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グロウステイル~王様が懐柔してくるのでその手に乗ってあげる前に大魔法使いになります~  作者: 天崎羽化
第9章 第2の神器 スピリトクロンヌを求めて

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大賢者と王の威光




 酒場に戻りイルシュタイトを回収して城へと向かう帰路。

わたし達がいない間にすっかりお酒の抜けたイルシュタイトが明日の予定表を読み上げる。


「明日は夜にデビュタント列席。明日にパレス視察。以上になります」

「もうお酒は抜けたんだね?イルシュタイト」

「‥‥醜態をさらしてしまい申し訳ございませんでした」

「いいよ。その間にリリアとデートもできたしね」

「恐縮です‥‥。兵士よりロイド様からのご伝言を預かっております。帰られたらお茶しませんか?だそうです」

「‥‥お茶か」


 彼の言う「お茶」とはお酒であることと。そして、元帥として話があるという意味を含んだ暗号であることがわかるのはわたしたちだけだ。

わたしとシュライスは目配せで合図しあい、覚られないよう話の矛先を変える。


「デビュタントの護衛はつけなくていいよ。ロイドを出席させるからね」

「畏まりました。そういえば彼もデビュタントデビューの年頃ですよね。リーガルでは開かれないのですか?」

「近々開きたいとは思っている。色々あったからね」


 デビュタントとは年頃の貴族の令嬢や子爵たちの社交界デビューを果たす第一歩となるお披露目会のようなもので、女性は白一色のドレスと男性は黒の然としたタキシードがワルツを踊る様はさながら団体芸の様に美しく、国によって曲もダンスの種類も違うため見ごたえがある。


「シュライス陛下の社交界デビューの日を未だに鮮明に記憶しております」


 イルシュタイトは酒場での死んだような表情から一転、嬉々として当時をおもい返す様に話始める。

確かに。 シュライスとわたしが寄宿舎で仲良くしているという噂を聞きつけた父上が、これを機に国交をとリーガル国のデビュタントに連れていかれたことがあった。

 その日はちょうどシュライスのデビュタントデビューの日で、ダンスホールに入るとシュライスの周りにだけ人だかりができていて、その美しさにどの人もため息を漏らしていたのを思い出す。黒のタキシードを身にまとい、つぎからつぎへと令嬢とダンスを踊るシュライスの優美な姿を見たとき、住む世界が違う人だと思い知らされた。

その美しい人がわたしの婚約者だなんて‥‥いまだに信じられない。


「デビュタントも久しいな」


 シュライスはパレスの方向を静観した。月夜の中で生き生きと、まるで息をするように光を放ち続けている様は、水を浴びた花のような生命力にあふれている。


「リリアの魔力が影響しているのかな。パレスが特別美しく見えるよ」

「わたしは部外者だからそこまでの影響は‥‥」

「あるよ。リリアは強いからね」

「でも、この美しさも魔力が弱まればなくなってしまうのは切ないわ」

「国全体を常に浄化し続けているからね。外界や国内が穢れればパレスは国を守るために力を使う。使い切ればまた満たすしかない上に穢れは年々濃くなっている。そろそろ、イルシュタイトだけでは補えなくなるから主要国として策を考えなければならない時期かもしれないね」


 内々に決まったことではあるけれど属国に入ったミュゲはもはや兄弟国。 彼らの有事はわたしたちの有事でもある。


「フォースタスにも相談してみます」

「そうだね。お願いするよ」


シュライスは柔らかく微笑みわたしの手を取る。わたしたちが城内に入ってすぐ異様な魔力を感じて周囲を見渡す。だが、近しい場所にその根源は見当たらない。


「すごい魔力の気配だね」


シュライスも感じたようで二人で強い気配のする方向へ歩を進めるとたどり着いた先は中庭だった。

ほのかな光を差し出す魔法陣の中には術を敷いている魔法使い(ソルシエ)の姿が微かに見え、隣で大きなため息を漏らしたイルシュタイトの顔が呆れた様な表情に変わっていく。


「‥‥あのくそじじぃ‥‥」

「‥‥くそじじぃ?」


 眉間に皺をよせどたどたと足音を鳴らしながら魔法陣を敷いている張本人へと走っていく。

イルシュタイトの息巻く姿を見ながら大きなブルーの瞳はぱちぱちと瞠目している。


「おぉ。凡々か」

「‥‥王子です」

「お前はまだ半人前だ。凡々でいいだろう」


 肩まである銀髪が月光に照らされ白銀に煌めいている様は絵画のように美しいのに、あどけなさが残る少年の顔はイルシュタイトを揶揄りながらくつくつとのどの奥で笑っている。


「リヒター・ウルフレッド様。今日は他国の偉い人が来るから魔法陣ひいちゃダメって言いましたよね?」

「あ―そうだったか?最近耳が遠くてのぉ」


 リヒターと呼ばれた彼は目を細めながら鬱陶しそうに耳を塞ぎ込む。風貌と醸し出すオーラは妙齢に映るけど、彼から感じる魔力は数百年は練り上げられているだろう気概が感じられ、いかにも魔法使い(ソルシエ)といった貫禄が漂っていた。

 わたしが二人の諍いを眺めていると、ばちりとリヒターと目が合った。ブルーの瞳に自分が捉えられたと自覚した次の瞬間、彼はわたしの目と鼻の先にその顔が移動していてその速さに息を飲む。

制止が間に合わなかったのか、シュライスも目を見開いて驚きを隠せずにいた。


「リヒター様!」


 いつの間にか現れたムエット王が声を荒らげる。 そんなことも我関せずなリヒターはわたしの目をじっと見つめたままで何かをしようという気配はない。

力のある魔法使い(ソルシエ)ほど人を選ぶものだということは、この世界に転生した日から口酸っぱく教え込まれた教訓だ。わたしは彼を見据えて深々とお辞儀をする。


「はじめまして。わたしはリーガル国王妃 リリア・ハイムと申します」


 ビー玉のような澄んだ瞳をこちらに向けたまま黙っている。深い海のようなブルーの瞳がちらちらとわたしを看視するように細かく動いている。


「王女だな」

「‥‥はい。王女でございました。三番目の、ですが」

「ちがう。()()()()だなと言っている」

「‥‥生越ながら今の身分は王妃でございます」

「そうか。()()()()()()にしているのか」

「‥‥」


 蠱惑的に微笑みながらわたしに近づき一房の髪の毛を手繰り寄せさらりと撫でつけた。


「お前は何用だ?凡々」


 リヒターはわたしから視線を外さないまま横で佇むシュライスに声をかける。


「ミュゲの国のパレスを創られた大魔法使いのリヒター様ですね?この国についてお伺いしたいことがあります。後ほどご教授願えませんか?」


 自ら彼の視界に入るように身を乗り出す。 リヒターは穏やかに微笑むシュライスの顔を見るなり、ひどく顔を歪めた。


「リーガル国の主君か。向かい風と追い風のその中に在っても、おまえはまるで死人のようだな」


稚さの残る声でシュライスにそう言い放つと踵を返して去っていく。 辛辣な言葉を浴びせられた彼が気になって顔を覗き込むと、シュライスはなにかを思案するように遠くを眺めていた。


「我が国の魔法使い(ソルシエ)が大変失礼いたしました」


ムエット王が深く謝罪したが、シュライスは遠くを見たま考えることを辞めなかった。わたしが咳ばらいをすると泡が弾けた様に正気に戻り「結構ですよ」とだけ返した。イルシュタイトは走り去る少年の後姿を見ながら小さくため息をついてみせる。


「リヒター様は300歳を超えるミュゲを支える大魔法使い(グランソルシエ)実力はあるのですが、人嫌いがひどくて‥‥」

「長く生きている人ほど無駄な諍いから心を守るために過度な同士の交わりを嫌います。300年の間に起きた戦争も数々あった。彼の心証を慮りましょう」

「感謝いたします。それと、先ほどの陛下からのお申し出に関してはぼくが話を通しておきます。正式な申請ならばリヒターも断れません」

「頼んだよ。イルシュタイト」

「さぁ、こちらへ」


 王のエスコートで大広間に通された先にいたのは、オフホワイトのドレスを着た令嬢と美しい線を起たせたタキシードに身を包んだ紳士たちだ。

 若葉が芽吹く前の初々しさとこれから大人の仲間入りを果たすのだという高揚感に満ちていて明日デビュタントデビューする子息令嬢なのだと一目で伝わってきた。その中でも一際目立つ令嬢たちがシュライスの顔を見るなり黄色い声を上げる。


「リーガル国王様!!」


全員の視線が一斉にシュライスに向くと方々から興奮したような声が上がった。


「国王を差し置いて他国の王に熱を上げるとは・・・・」


 イルシュタイトは肩を下げうなだれる。 彼もシュライスに負けないくらいの貴公子顔なのに、彼らは貴族という身分でありながら自国の主君よりも先にシュライスに頭を垂れた。若さゆえの過ちか。シュライスの国をまたぐほどの妖艶な魅力からか。 世界でも類を見ない大きな戦争の発起人であり、大きな帝国を陥落させた国の王が目の前に現れたとなればこうなるのは仕方ないかもしれない。


「若きご子息・ご令嬢の皆様、この晴れの日を迎えられたこと心よりお祝い申し上げる。祝詞を述べる前ではあるが友好の印にささやかな贈り物を授けよう」


シュライスは地面を見つめて集中し目を瞑る。すると彼の周囲を金糸のような光が包み込み始める。


祝福(フェア・テレ)


 呪文が放たれると金糸は一斉に彼らの元へ絡みつくように向かい地面に溶けるように沈み込む。やがて真下に魔法円となる大きな光柱のように立ち上って彼らの体を包み込む。 祝福の魔法の中でも最上級の呪文で祝祷や祭事などの神聖な儀式のときに周囲を清めたり、祭事者に災いが起きないように守護をする働きのある魔法【祝福(フェア・テレ)】の効果は未来永劫続くと言われている。


「シュライス様の魔法を久々に間近で見ました。いつ見ても見惚れるほど所作が美しいなぁ」


イルシュタイトが羨望の眼差しで熱っぽく呟く。確かにシュライスの魔法は所作が美しい。 容姿端麗さも相まっているだろうが、輪をかけて魔法を心から大事に扱いうという品性を感じる所作なのだ。

祝福を受けた彼らはシュライスに向け拍手喝采を注いだ。


「若い君たちはミュゲ国の財産だ。立派な紳士淑女となり民の手本となって国を牽引してほしい」


貴公子の微笑みを向けられた女子からはため息が。男子からは感嘆の声が聞こえた。


「彼らの顔は未来を見ている。あなたに浮き立つことを忘れ、ぼくの顔をみて沸き立つという【礼儀】も備えている。この国は安泰ですね?ムエット王」


それは、日頃からこの国の王が「ミュゲはリーガルの属国である」と国民に周知していなければ、このような民衆心理にはならないだろうというシュライスなりのムエット王への誉れの与え方だった。

ムエット王はふっと口元に弧を描き、頭を下げる。 そこには蔑みも後悔も感じられない。 もはや二人の間には共通の目的を叶えるための同志の絆が出来上がっていることに、わたしはシュライスの非凡な才覚を感じずにはいられなかった。



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