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グロウステイル~王様が懐柔してくるのでその手に乗ってあげる前に大魔法使いになります~  作者: 天崎羽化
第6章 吸血鬼と貴公子

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植物のお勉強をします




昼下がりに向かった先は、ルートヴィヒが所有する執務室。

侍従長は城の中に棲み処を構え、王や城のことを一手に引き受けられるようにと常駐しているのが常だけど、リーガルでもそれは同じようで、例にもれずルートヴィヒも、城の中に住んでいた。


中は整然とされ、清潔感が溢れている。

豪奢なシャンデリアも、綺麗な刺繍もあるわけではないのに、どことなく荘厳な雰囲気がある部屋は、彼の暮らす毎日が醸し出すかもしれないと察すると、納得してしまう。


「きょうは天気がよろしいですから、テラスにいたしましょう」


指でふわりと魔法を操り、本棚から本を取り出しつつ、テラスに出されたテーブルの上に移動させる。

本の傍らには、お茶の用意までされていて、いかにもお勉強な雰囲気が整っていた。


「ウェルギリウス。あなたから授業を始められては?植物は日が高いほうがよろしいでしょうから」


「あっ、はい!わかりました!では、リリア様、こちらへ!」


促され、テラスへ向かうとそこには様々な花が咲き乱れていた。

日の光を浴び、露を零すさまは絵画のように美しく見える。


「すごい・・・・こんなにたくさんの種類の花が・・・・」


「ルートヴィヒさんが丹精込めて創られたんですよ」


思わずルートヴィヒを見ると少し恥ずかしそうにしている。


「男がガーデニングなんてと言われたのですが、ローズリー国の気候は穏やかですし、花々の種類も多いので、育てたくなりまして」


「でも、ルートヴィヒは、つい最近この国に着いたばかりですよね?こんなにたくさんの花、いつから?」


「それをぼくが説明いたしましょう!!」


腕をまくり上げ、自信たっぷりのウェルギリウスがわたしの手を取る。

すると、手のひらの中に残された種子を見つける。


「これは?」


「ローズリーのバラから取りだした種子です。「「生命(ヴィータ)」」」


ウェルギリウスの呪文がかかったとたん、手のひらの種子が熱を持った。

ふかふかとしながら、動いている感じもある。


「熱い」


「だいじょうぶ。火傷はしませんよ」


にっこり微笑み、重ねられた手で種に触れる。

すると、種の先から葉が発芽し、みるみるうちに茎が伸び、花弁が形成され、大輪のバラの花が咲いた。


「さ・・・・咲いた・・・」


「いま、このバラは、魔法で咲かせました。でも、この種にはなんの変哲もない。ただの種です。魔法使い(ソルシエ)にできることは、彼らに少しのきっかけを与えてあげること。これにより、ルートヴィヒさんの執務室のお庭を花々満開にできる秘訣です。ぼくの仕事は、種を保存し、淘汰数を調整しながら長く愛してあげること。ローズリーとリーガルの友好の証になるような、新種の花を創り上げることが、今のぼくの目標なんです」


ウェルギリウスは、咲いたバラを植木にそっと移してから、銀製のじょうろで丁寧に水を与えた。


「動植物にはぼくたち魔法使い(ソルシエ)と同じような属性があります。小さな蜂にも、アリにも、鳥にも、獣にも、人にも、 花にも、草にも、木々にも、加護がかかっているのはご存じでしょう?すべての命には、役割があるんですよ。惑星をご存じですか?これらが宇宙に存在していることで、引き寄せあい、引き遠ざけあう。その相互関係の中で、ぼくたちは、息をし、体を動かし、意志のまま生きることが可能となっている。これには、差別も区別もなく、常に平等なんです」


ウェルギリウスは、わたしにお構いなしに滔々と論述を展開していたけれど、不思議とそれが心地よくて、相槌のみに徹することにした。


「ぼくと手のひらを重ねたとき熱かったでしょう?これは火星の守護の性質を利用しました。守護とは護ること。発芽という特殊な状況に対し、同じ熱で守護したんです。そして、獅子座の位置にある熱の魔法を使うことで、自然の力を急速に引き出す。火星と獅子座は火の性質が強いですからね」


彼が手をかざすと、地面に大きなホロスコープが立ち上がる。


「これは占星術に使われるホロスコープ。太陽と月を軸に、惑星と星座が並んでいます。朝、昼、夜で、位置、関係性、共鳴の力、強さ、弱さは変わります。魔法が強くなるのは、夜。魔法を充てん温存するのは朝です」


 ホロスコープが青白く光る中、黄金色を纏った天体望遠鏡がその中央から現れる。背丈の倍ほどもある望遠鏡のレンズからは、宇宙らしき映像がチラリと見えた。


「すべてにおける規範とは、どんな善を以てしても覆せない。これは、魔法はこの世界に生まれた時からのしきたりのようなモノです。魔法のルールを正しく理解し、私欲ではない発展解決のために使うこと。それが本来の魔法だと考えています。ぼくは、植士(ジャルディニエ)という仕事を通して、それを証明したい。」


ホロスコープから物体として浮かび上がってきたのは、様々な惑星や小惑星だ。


「主な惑星は八つ。その周りを、それぞれの惑星に引き寄せられ、属した小さな惑星が、主要な惑星の周りを守りこむようにして存在しています。きれいでしょう?」


ウェルギリウスが、レンズの中に手を差し込む。

すると、取り出した小さな惑星を掌に載せ、わたしの前にもってきてくれた。


「大丈夫。魔法で少しお借りしているだけなので」


諭され、安心して眺めた。

薄黄色い惑星は、とくとくと鼓動を打ちながらくるくる回っている。


「なんだか、生きているみたい」


「本物の惑星のスライドなんです。だから、生きてるっていうのは間違いではないんですよ。好きな惑星はありますか?直感でいいですよ」


さぁ、選んでくださいと言って、ホロスコープの前にわたしを導いた。

レンズの奥には、様々な色の惑星が浮いていて見ているだけでわくわくする。


「これも、惑星に入りますか?」


そういって、月を差し出した。


「んーと、これはかに座に影響している。なので、植物はラベンダー、フェンネル・・・・」


ふむふむと、ウェルギリウスはメモに取った。


(モーント)はホロスコープ上のサインハウスといって、気質、感情、無意識な欲求を引き出します。星を依り代に様々な人が過去世で経験した魂の記憶を呼び起こされ、その人の高次元な意識が反映されます。姿形ではない、感性や、性根、心、生き様で周囲を巻き込んでいく。罪な惑星を選ばれましたね♪」


「それって・・・・」


「まるで、シュライス様の比喩のよう?」


ルートヴィヒが、本をめくりながらチラリとわたしを見つつ微笑む。

シュライスの属性は(モーント)

直感とは言え、選んでしまったじぶんの顔がどんどん熱くなるのが分かった。


「あなたは、シュライス様を愛しているんですね」


穏やかな口調で肯定されたけれど、わたしの頭の中では、みんなの顔がちらついていて、押し黙る。


「リリア様?!まだ授業中ですよ!」


ウェルギリウスが手を引き窓辺に連れ去る。

手のひらには、先ほどとは違う種が置かれた。


「発芽をしてみましょう!あなたは太陽(ゾンネ)の属性ですから、熱をほのかにすることを心掛ければだいじょうぶです!」


そういってわたしの手のひらに種子を置いた。


「か・・・・加減を教えてくださいね?」


目を瞬き合図するウェルギリウスを横目に、わたしは手に魔力を込めた。


発熱(ファブレ)!」


呪文と共に種に熱が渡りはじめ、種の先端から白い目が出はじめる。

そのまま目はにょきにょきと伸びて茎をのばしたが、想像以上に魔力を使うもので、わたしは途中でやめてしまった。


「こ・・・・これ・・・・魔力抽出すごいですね・・・・」


「リリア様は、植物への魔法は初めてですか?」


「授業では倣いましたけど、専門ではないので・・・・」


「はじめてにしては上出来です!!すごい!!」


ウェルギリウスの拍手の中、息切れを整えようとルートヴィヒが置いてくれたお茶を飲み干す。


「ぼくの授業はこのくらいに致しましょう!次回までに復習してきてくださいね!」


そう言うと、大量の種の袋をわたしに差し出す。

中を見ると、いろいろな色の様々な形の種がひしめいていた。

たぶん、百個以上はある。


「これ、全部ですか?」


「はい!がんばってください!」


満面の笑顔に返す力なく種を受け取る。

前途多難かもしれない・・・・・。

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