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グロウステイル~王様が懐柔してくるのでその手に乗ってあげる前に大魔法使いになります~  作者: 天崎羽化
第6章 吸血鬼と貴公子

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軍師、怒ってます


 シルヴァニア国が属国になり、ブラムとオーフェンがリーガル傘下に入ったことが国中に流布した。

そして、彼らの本当の目的を聞かされたロイドは、昼下がりのお茶会の時間を迎えても、機嫌が悪いままだ。


「エミリオさんが焼いたチーズサブレおいしいよ?」


焼き立てのクッキーをお皿に乗せて彼の前に差し出したが、見向きもされない。ずっと口をとがらせている。

様子を見ているだけのシュライスは、寛いだ姿勢のまま、厳しい目線を送る。


「しつこいぞ、おまえ」


怒った口調の自分の兄を、ロイドはキっとにらみ返す。 


「・・・・・ぼくは、この国の軍師なんです」


恨めしそうに、一日を必死に乗り切って生きた人間特有の生気の無い掠れた声が、太陽が降り注ぐテラスに似つかわしくない空気を醸し出している。


「弁えているよ」


「属国が駐在する場合、ぼくたちが領地も護衛しなきゃならない」


「彼らは必要ないと言っていただろ?」


即座に応えたシュライスに、そうではないと顔を赤くし詰め寄った。


「やらなきゃならないんですよ!軍法会議にも上げず、独断で兄上がサインしたおかげで、ぼくは一日中関係各所と謁見祭り!おまけに、森の奥にあるローズリーの屋敷を彼らに提供するなんて約束まで取り付けて!民意がどう動くか想像するだけで悍ましい・・・・」


体をふらふらクラゲの様にくねらせながら歩く。

ロイドの顔を見ると、目の下にクマ。顔面蒼白。

疲労困憊の文字が顔に書かれているかのような見事な仕上がりだ。

彼を気遣う素振りもなく、シュライスは淡々とこなすような返事を続ける。


「その件に関しては、リリアには謝らなくてはならない。大切な母屋を勝手に提供することにしてしまってすまなかった」


「いいえ。今は使っていないのでいいんです」


 国が他国に与するというのはこんなに簡単なのだろうか。

シュライスの鮮やかで流れるような政治手腕を見ていると、来年の今頃には、世界征服でもできるのではないかとおもってしまうほどだ。

吸血鬼一族は、リーガル国内に駐在所を構え、明日から本格的にリーガルの属国となるらしい。

そのために、幼いころに使っていた屋敷を使わせてほしいと言われたのだ。

言った通り、今はだれも使っていない空き家同然の状態なので許可をした。


「軍の上層部は、満場一致で彼らとの関係は公表するべきではなかったと考えています」


ロイドは、今からでも考え直せないかといった気迫のある面持ちでシュライスに提案を持ち掛けたが、動じる様子はない。


「何かあれば、ぼくが責任を取るよ」


「たった一日半で信用たる人物と判断できたと?そう断言できるんですか?」


「リリアはどう思う?」


 そう投げかけられ、ロイドがこちらを振り返る。


「悪い方、ではないとおもいますけど」


としか言いようがない。

わたしの返事を聞いたシュライスは、機嫌よさげににっこりと笑いかける。


「悪い方ではない人を無下にはできない。そうだろ?ロイド元帥」


これ以上の理由が必要かといった面持ちで目を細める王。

言い返せなかったロイドの目元のクマが濃くなった気がする。


「第一王子同士、仲良くやっていけるよ」


「獣は、主人の言うことを聞いていればいいんです」


呟いたロイドの口端は静かに上がっていた。

その顔色があまりにも狡猾に染まっていたので、ハッと息を飲む。

わたしは、彼に悟られないようにと、お茶を飲むことに集中した。


「失礼いたします、陛下。ご命令のお時間になりましたが如何しましょうか?」


「ご命令のお時間?何の話だ?ルートヴィヒ」


ロイドと同意見のわたしは、頭にはてなを抱えたまま、貴族衣装を身にまとったルートヴィヒさんを眺める。


「本日は、リリア妃殿下にリーガル史をお勉強していただくようにと、陛下から教師役を仰せつかっております。入りなさい」


促されて入ってきたのは、パーティー会場にいたフォースタスのお友達で、植士(ジャルディニエ)の・・・・


「ソワン・ルクロアです!」


元気よく名前を言ったルクロアは、エプロン姿にゴムの長い靴を履いている。


「あぁ、すいません。いま、城中の花の土変えをしていまして。作業着で失礼いたします」


「問題ないよ。仕事中に頼んで申し訳ないね」


シュライスの労いの言葉にルクロアが笑みを見せる。


「王のお好きなお花と伺って、ユリの花も植えました。来月には花を咲かすようにと生命時間(ヴィータイム)を速めてお創りしていますので、お楽しみに」


「それは楽しみだ」


生命時間(ヴィータイム)って?」


「ぼくの属性は生命(ヴィータ)と言って、生命力に関わるものを操ることができるんです。と言っても、禁忌に関わることや生き死にを操作するとかそんな大それたものではなくて、動植物に特化した魔法なんですけど」


「わたしの国にはいない属性です。すごいですね」


「レアだとおもいます。ぼく意外にあまり聞いたことないんで」


「彼には、リーガルの動植物の歴史や魔法史実などを担当してもらいます」


「よろしくお願いいたします!リリア様!」


「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」


「え、なんで?」


爽やかな空間に差し込んだのは、ロイドの唸るような低い声だ。


「なんで、とは?」


ルートヴィヒさんの質問に答えることなく立ち上がり、シュライスに詰問する。


「おれも!姉上の先生やりたい」


「珍しいな。お前が教示したがるなんて」


「兄上から何も聞いていないって状況が嫌だ。ここからは、おれも参加したい」


「・・・・おまえは本当にしつこいな。女に嫌われるぞ」


「そんなおれでも愛してくれればそれでいい!!!」


兄弟喧嘩を見守る貴族、王妃、庭師。

この二人が喧嘩を始めると、長いことは百も承知。

ルートヴィヒさんが咳ばらいをし、その場を区切る。


「では、ロイド殿下には、剣の授業をしていただければと」


「わかった!リリア姉さま!よろしくね!」


嬉しそうにわたしの手を取り満面の笑みを向けてくる。


「よろしくね、ロイド」


「それではこれより、教育的指導を開始いたします」


声高らかに言い放ったルートヴィヒさんが、魔法で鞭を出す。

ぱしん、と打たれた地面の音に、ロイドとわたしの肩が震える。

わたしたちを見眺め、にっこり微笑んだ。


「さぁ、お勉強いたしましょう」


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