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グロウステイル~王様が懐柔してくるのでその手に乗ってあげる前に大魔法使いになります~  作者: 天崎羽化
第1章 転生して愛されて恨まれて

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淡い恋でした (過去回想)




  時は流れ、シュライスが二十五歳の年。彼はリーガル国の王となった。



 就任式には、近隣国の王や王妃、王女や姫、王子らも招待され、洩れなくわたしも招待された。


 リーガルへ赴く前夜。

パーティーに参加するドレスを選ぶために王妃が選んだドレスたちが何十着と部屋に運ばれてきた。そのなかに、ひときわ異彩な光を放つドレスがあった。

漆黒のベルベット地に、金の石を散りばめたシックで大人っぽいデザイン。

まるで、夜空に散りばめられた星を切り取ったようで、わたしは一目ぼれした。


「このドレスしかない」


 しかし案の定、パーティーには不向きだと家族中が大反対。

就任式にはふさわしくなく、むしろ不敬にあたると強く否定されたが、第三王女が何を着ようと見初められることはないと跳ね返し、わたしは黒のドレスを着た。

選んだ理由に他意はないと言えばうそになる。

けれど、彼へのこの感情が愛と呼べる自信もまだない。

淡雪のように朧げなきもちを抱えたまま、わたしはリーガル国へ向かった。




 通された謁見の間に入ると、色とりどりのドレスを纏った芳しい令嬢たちがたおやかに会釈しつつも、彼女たちの前で品よく笑顔を見せるシュライスへ熱烈な目線を向けている最中だった。

あまりの熱気と近づけそうにない雰囲気にのまれながら、遠くからその光景を壁の花になって眺める。


「リリア。わたしたちにシュライス陛下を紹介して」


 前日に呑んだシャンパンの飲み過ぎでガラガラの声で、姉のエリーがわたしに近づき小言を囁く。


「シュライスに会うのはわたしも数年ぶりなんです。わたしのことを覚えているかどうか」


「寄宿舎にいた時期はローズリー国にまで遊びにきていた仲じゃないの。覚えてるにきまってるわよ。ほら、はやく」


 催促するように早口でまくしたてながら、マリーはもっていた扇の先でわたしの腰を小突く。

細く溜息を吐いてから、寄宿舎で共に過ごしたどのシュライスとも違う様々な顔を上手に使い分けるいまの彼を眺めていると、他人の空似を見ているようなきもちになって、近づくことそのものが躊躇われるほどだった。


 姉二人の要望を果たすことなく、父上と母上に呼ばれて謁見の列に並び、頭を擡げて彼を待つ。

隣に並んでいる父、母、姉たちが順に言葉を交わし、祝辞を送る声が聞こえる。

むせ返るムスクの香水。 シルクの衣擦れの音。

真後ろの静かな喧噪を感じながら、わたしはシュライスを待つ。


 徐々に、軽快でいて明瞭に上品な足音が迫り、その音は目の前で止まる。

わたしの視線に、白いブーツと真紅の生地に金の刺繍が施された長めのサッシュが映りこみ、彼のつま先がこちらに指向すると同時に、杖を三回地面に打ち鳴らす音が背後から響く。


「ローズリー国第三王女、リリア・ルルーシュ様!」


 じぶんの名前を呼ばれ、正面を見据えると、純白の軍服を纏った出で立ちのシュライスが静立していた。

久しぶりに見る彼の顔は男らしくなり、王然とした威風まで感じるオーラを放っているのに、わたしと視線が交錯するなり、あの日と同じ大きな瞳を丸くして音が鳴りそうな程ぱちぱちと瞬きを繰り返すので、その様子に思わず笑みがこぼれてしまう。

すると、彼の改まった表情から柔和で穏やかな顔に戻っていくのがわかり、昔から見知った面影がチラリと顔をのぞいたことに、わたしは妙に安堵する。



「来てくれてありがとう。リリア王女」


「ご即位式典にご招待いただき恐悦至極にございます。ルルーシュ王家の一員として、心からお祝い申し上げます」



「ありがとう。ともに学んだ旧友からの祝福を光栄におもうよ」


 外交辞令的な会話がおわり、訪れた静寂の瞬間。

金色の瞳が揺れながら、わたしのドレスを観察する。

彼の眼差しを感じながら、内心はやっぱり黒は着ない方がよかったのかと思いなおし始める。

彼の隣に控えている大臣の目がいつまでたっても怪訝だし、後ろからはくすくすと笑い声まで聞こえる始末だったことが不安を掻き立てるには十分だったからだ。

 逡巡するわたしを他所に、シュライスは端正にほほ笑むと再びこちらに視線を合わせた。


「ドレスはご自分で選んだのですか?」


「はい。華やかな場所では些か不敬な色ではあると存じてはおります。お目汚しになっていましたら申し訳ございません」


「とんでもない。よくお似合いだ。まるで、「星空」を身にまとっているかのように美しい」


 「星空」とドレスを比喩した彼の言葉にわたしは瞠目し、息をのむ。

その情動への答えのように、シュライスが片目で素早くウインクする。

途端に頬が上気し体中の血が熱くなるのが分かって、わたしは彼から目線を下げる。


「お元気そうでよかった」


 恭しく頭を下げたシュライスは、わたしの隣で猫なで声で挨拶を始める令嬢へ意識を移した。

この式典以来、彼とひさびさに顔を合わせることが、戦争の敵対国としてになるとは想像にもしなかった。






読んでくださりありがとうございます。

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