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グロウステイル~王様が懐柔してくるのでその手に乗ってあげる前に大魔法使いになります~  作者: 天崎羽化
第5章 神様との約束

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兄弟って、いいよな





 美しい銀髪がさらさらと揺れ、同色の双眼はわたしを見据えている。

神殿で会った時の服装ではなく、黒のタッシェを巻きつけ、爽やかな色のパンツをはいた美しい様相は、休日の王子様そのものだ。

――――と、言っている場合ではなく。


「・・・ハイム?」


「はい。あなたの弟です。姉上♪」


「・・・・・・えーーーーーー!!!」



大声で叫んだあと、シュライスに駆け寄る。

あまりにも驚いた顔だったのか、堪えきれず笑っている。


「しゅらいす!・・・・ちがうっ!陛下!?弟君がおられたのですか!?」


「うん。外交上、ぼくができない隠密な公務をこなしてもらっているから、言えなかったんだ」


そういわれて、改めて彼を見てみる。

たしかに。顔の作り、目の形、雰囲気もシュライスに似ている。

でも、髪の毛は?


「・・・・なぜ、銀髪なのですか?」


「あぁ。これは、むかし流れ星を食べちゃって。お仕置きで銀髪にされた」


髪の毛を指でこすりながら、当たり前のように言った。


「星を・・・・食べた・・・?」


星を食べる、嗜好がある?

それとも、リーガル国の特殊な食べ方?

この世界においての星は、神聖なもの。

ましてや、リーガル国は(モーント)に守護されている国。

星を食べる・・・・とは?

頭にはてなが浮かんだまま、返答に困っていると、背後で盛大にシュライスが笑った。


「おかしいよね!星を食べるなんて禁忌なのに!そうだ!ロイドは今、寄宿舎で学んでいるんだ。リリアの後輩になるんだよ」


 ツッコミどころ満載。

混乱した頭の中を整理をしていると、真剣な表情でロイドが近寄ってくる。

わたしの顔や目、体などを見定め、手を取り、脈を図り始めた。


「安定している。血も致死量が流れていたけれど、さすがの回復力だ。さっきは死んでたんじゃないかってくらい衰弱していたのにね」


その言葉に、室内の空気が、ぱりんと音が聞こえそうなほど凍り付く。

零度の源は、シュライスだ。

明らかに、怒っている。


「・・・・致死量の血?」


「はい。体の半分は流れていたんじゃないかな」


「・・・・死んでたんじゃないかってくらいの衰弱?」


「兄上も見たでしょう?体中を切り刻まれたような傷口を。怨恨でもあそこまで傷はつけられない。もし、つけた相手が魔法使い(ソルシエ)だとしたら、確実に変態だとおもうなぁ」


みるみるうちにシュライスの顔が怒りに染まる。

メイドや家臣が慌てている。


「・・・・しらない。そんな重篤な状態だなんて報告は上がってない」


「あー・・・・えっ?」


ロイドは罰が悪そうに頭をかいた。

そう。シュライスには、余計な心配をかけないようにと、わたしがきつく口止めしてもらっていた。

「けがをしたけど、神殿で休めば問題ない」と言っておいてとお願いしてあったので、詳しいことは報告していない。

フォースタスとわたしを交互に見る。

むくれた顔でため息をつき、シュライスはわたしを睨んだ。


「魔法レッスンはしばらく禁止。これは、王としての命令だ」


口を滑らせたロイドを横目でにらんでも、彼には効果がないようだ。

浮薄に笑い、自分用の紅茶に口をつけ、わたしに向かって悪戯っぽく片目を閉じている。


「(侮れない・・・・・・)」


 この日を境に、城内はとても賑やかになった。

ロイドが戻ったということもあり、彼を慕う臣下たちもうれしそうだ。

貴族や王族の肩書を感じさせない天性の明るさに引き寄せられ、彼の周りには、常に人だかりができている。

シュライスより年下なはずなのに、軍の人間と話をするときの真面目な顔は、王に引けを取らない程の威厳があった。

加えて、年相応の人懐っこさと、自前の人当たりの良さ。

会ったばかりだけれど、近寄りがたい雰囲気が漂うシュライスができないことを引き受けられる、良い右腕なのだろうなと察しがつく。


「姉上!今日の夕ご飯はハンバーグらしいですよ!」


虚勢のない笑顔で、子供のように献立を伝えてくる無邪気さが、彼の中にあることにほっとする。


「ロイドの好物じゃないか」


「そう!しかも、デミグラソース!」


「おまえがいる間は、肉料理が続きそうだな」


「寄宿舎は山の上だから頻繁に物資が届かないのです。山の動物は神聖だから、食べてはいけないしね。うまい肉は貴重なんだよ。実家に居るときくらいいいだろ!」


「はいはい」


兄弟らしい二人のやり取りに、思わず笑みがこぼれる。


「ロイドは、治癒魔導士(ソーサラー)の最高称号を取得するために、寄宿舎で学んでいるんだ」


本を読む手を止めたシュライスが、ロイドを眺める

兄に見据えられて恥ずかしかったのか、ロイドは隠れるようにわたしの隣に座った。


治癒魔導士(ソーサラー)って、大変だと聞きます。医学や生物の授業は難しいでしょう?」


「入学時のぼくの専攻は、聖騎士(サンシュヴァリエ)だったので、最初は苦労しました。物理的な技術や体力、自前の力だけではどうにもならなかったので、昔の書物を読み漁ったり、古代魔法に手を付けてみたりして。治癒魔導士(ソーサラー)には、第一治癒魔導師(アン・ソーサラー)第二治癒魔導士(ドゥソーサラー)第三治癒魔導士(トロワ・ソーサラー)があるんですが、先日、第一治癒魔導師(アン・ソーサラー)の称号を獲得できました。でも、ぼくが目指しているのは、その上の聖治癒大魔導士(サン・ソーサラー)という最高称号なんです」


「リリアの持つハーネストクラスと似ているとおもうよ」


そう言われると、彼の苦労が自分でも実感できる気がする。


「母上が、謎の病に苦しんで亡くなったのは知っているだろう?それがきっかけで、ロイドはこの世にある病はすべて自分が治すと言い出し、専攻を変えたんだ」


 シュライスの母上とは、リーガル国の元王妃であり、シュライスの母親であるテレージア様のこと。

わたしが知っているだけでも、ほとんど寝たきりのまま過ごしている方だった。

名家の出で、箱入り娘に様に大事に育てられ、シュライスの父親であるルーデンス様と出会い、結婚されたと聞いている。

ルーデンス様は魔法使いだったが、テレージア様には魔力はなかった。

そのことを、当時の先代王妃や王族から執拗に咎められたという。

これは、妃教育。

周囲は良かれと思ってやってくれていること。

城内で権謀術数が蔓延ったのは、自分が不甲斐ないせいだ。

そうおもって、耐えつづける日々の中。

内心に苛まれたテレージア様の体を、不治の病が蝕み始めた。

原因はわかっていたが、症状が複雑で、魔法でも薬草でも治せなかったという。

危篤の報を聞き、リーガルに向かうため準備をしていた朝。

テレージア様が息を引き取ったと、リーガル国の号外で知った。


 目の前で見せる、明るい男の子そのものの彼からは到底想像できない。

たくさんの試練乗り越えてきたんだろうな。

そう考えると、胸の奥が苦しくなった。


「ロイドは、巨万の軍平を抱えるピュレテーレ騎士団の軍師を勤めている。騎士称号では最高位であるグランクロワを拝受された、リーガル国の智将でもあるんだ」


「・・・・すごい。偉いです」


呆気ないほど普通の言葉しか出てこないわたしに、ロイドは責めることもせず、穏やかな笑顔を投げかけてくれる。


「己で選んだ道です」


かっこいい。素直にそう思った。


「そうだ。謁見で、サニタリア国のソワン・ルクロア陛下とお会いしました。彼も医士(メディフィル)として従事しているとおっしゃっていました。ロイドが治癒魔導士(ソーサラー)を目指しているなら視察に・・・・」


「あぁ・・・・ソワンの国か」


ざらりとした嘲う声。冷たい視線。

一瞬で別人のようになったロイドに、思わず気圧される。

他国の王を呼び捨てにしたり、礼儀を払わないことが嫌い。

そう思っていた彼への印象は、ただの先入観だったと思い知る。


「サニタリア国とリーガル国の間に緊密な国交はございませんので、彼にご教授願うことは叶わないと思います。残念ですよね~」


言葉とは裏腹に、落胆のひとかけらも見えない笑顔を見せる。

決して裏を見せない。軍師そのものだ。


「兄上!久々に一戦、お相手願えますか!」


「いいよ」


 待ってましたと言わんばかりに、シュライスが鞘から剣を引き抜く。

次いで、ロイドも剣を抜いた。

 バラの花がそよぐ。

少し大きめの広場に出ると、相剣立った。

何事かと、城内から人が集まり始める。


「相手の動きを封じたほうの勝ちです」


「初発は?」


「・・・・兄上からどうぞ」


「わかった・・・・ッ!!!」


 言葉を終わらせた刹那。

シュライスが駿足で踏み出し、剣鋒を突き立て、ロイドに向かう。

ロイドも剣の鎬を立たせ、迎え撃つ。

しかし、ふいをつかれた驚きからか、ロイドが体制を崩す。

その隙を逃すことなく、シュライスが息をつく暇なく攻撃を打ち込む。

鋭刃の音。

その音に合わせ、見物人たちの肩が震える。


「兄上っ・・・・今日も一段とっ・・・・美しいっ太刀筋ですねっっ」


強い剣圧に耐えながら、後ずさりするロイドが叫んだ。


「おまえは強いからね。手加減するのはっやめたんだ・・・・っ」


「っそれは・・・っ光栄っ・・・でぇぇっす!!!!」


 シュライスの剣を押し倒し、自分のペースに巻き込まんと、ロイドが攻撃を仕掛けた。

若さゆえの、荒い太刀筋。

だが、力任せではない剣の動きに、観客となった人々の目が釘付けになる。

身を翻したロイドは、突然戦法を変えた。

彼の鋭鋒が、蜂の巣を象るように細かく風を切り、シュライスに風穴を空けようと迫っていく。

その奇抜な戦法に、シュライスが息をのんだ。


「っ・・・・ロイドっ」


「・・・・・っなんですか?!」


「っおまえっ、何かあったのかっ?」


「なにもありません・・・っよ!!!」


「女に振られたかっ?」


「っ・・・生憎と、顔()()は兄上に似たものでっ・・・・今のところ百戦連勝ですっ!!!」


「っ・・・・ならば、なぜ気を尖らせるっ?!」


「っ・・・・いまさら心理戦ですか?ぼくには意味ないですよっっ!!」


 熾烈を極めつつある戦い。

姿勢を崩さないまま行われる、兄弟喧嘩。

わたしを含めた全員が、その光景に呆気を取られる。

本来、これだけ激しく戦っていれば、呼吸を整えることで精いっぱい。

なのに、彼らは会話をし、あわよくば兄弟喧嘩を始めようと言う余力のあり様。

戦勝国の王族は、一味違うということだろうか。


「ロイドさまの称号はグランクロワのままなんだよな?」


「らしいな。寄宿舎で隠居していたから腕が鈍っているかと思いきや、天賦の才は健在なようだな」


「あの若さで末恐ろしいね~」


 周囲で口々に上がる称賛の声。

けれど、これだけ実力のある軍師なのに、わたしは彼を戦で見た記憶はない。

身分が高い人間は、現場に出ないのだろうか。

寄宿舎にいようと、軍を束ねる人ならば、必ず戦況を視察するはずなのに。

シュライスが、今まで彼の存在をわたしに伝えなかったこと。

彼を今まで見たことがなかったこと。

治癒魔導士(ソーサラー)の勉強。

点ができはじめ、いつか線で結ばれる。

そんな予感がした。

興奮に包まれた広場は、見世物と化し、異様な熱狂を帯び始めていた。


「ローズリー国の軍師は早々にリーガルに寝返ったんだろ?」


「ロイド様が相手だとわかって白旗を挙げたんでしょうよ。あの方に敵う軍師はいませんよ」


「王室の人間も逃げて、魔法使い(ソルシエ)もみなちりじりに逃げていったというじゃないか。国の矜持もあったもんじゃないね」


「戦を投げ出すような将がいる国だからなぁ」


ひそひそと。

だけど、確実に耳にはいる音量で囁く、謂れのない言葉たち。

わたしの目線が、どんどん地面にのめり込んでいく。

堪えられなくて、静かに群衆から離れようと決意したその時、激しさを増した刃鳴りに、顔を上げる。


「おまえっ・・・成績表はもってきたの・・・かっ!!」


一瞬のスキを突き、シュライスがロイドの剣を跳ね返す。


「っ・・・・いまその話ずるいってぇ!!!」


  動揺するロイドの顔を、王然とした視線が諫める。

一歩踏み込み、鬼気迫るシュライスに気圧されはじめたロイドは、剣を持ち直す。


「っ成績表の評価はぁ・・・・・調理実習と占星術と工作以外はぁ・・・・オールSでぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっす!!!!!」


叫びながらもシュライスから向かってくる剣刃を躱しつつ、会心の一撃であろう攻撃をかけた。

声と雰囲気に押されたシュライスは、我に返ると、頭上高く飛び上がる。

時間は真昼。

燦燦と降り注ぐ太陽の光に、目くらまされたロイドは、敵の居場所を見失う。


「っ・・・まずいっ・・・・」


 焦ったロイドが、後ろを振り向いたつぎの瞬間。

頭上にいたはずのシュライスが、ロイドの背後を獲っていた。


「まじかよっ・・・・」


「ぼくの勝ちだ」


シュライスの鋒端が、ロイドの首元を突き刺す寸前で止まっている。

ロイドは微かに笑み、「降参です」と力なく零すと、手から剣を落とした。


「強くなったな」


「兄上も」


シュライスはロイドの頭を撫でている。

ロイドもうれしそうだ。

二人の仲睦まじい雰囲気に、観衆から拍手が上がった。

ふと、わたしに視線を合わせたロイドが、不満そうな顔で近づいてくる。


「姉上に初めて見てもらう戦だったのに。かっこいいところ見せられなかった」


「そんなことない。カッコよかった」


「ほんと!?うれしー!!」


屈託のない顔でそう言うロイドに、なぜか安心した。


「ねぇ、ぼくは?」


隣に座り込み、甘い視線でわたしに訴えかける。

おねだりするような声色で囁くシュライスに「はいはいかっこいい」と言うと、子供の様に嬉しそうに笑った。



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