表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グロウステイル~王様が懐柔してくるのでその手に乗ってあげる前に大魔法使いになります~  作者: 天崎羽化
第1章 転生して愛されて恨まれて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/118

コールドムーンで出会いました



 「ぼくを恨んでいるよね」


 悲愴感漂うシチュエーションの中でも自発光オーラを放ち、少し潤んだ瞳を斜めに落とす。

艶やかな低音でつぶやく彼の声にはっとして顔を見やるが、その顔はまっすぐ射貫くように気が付かない間もずっと、わたしを見ていたような余韻がある。


彼が、ローズリ一国を滅ぼした張本人。

リ一ガル国王シュライス・ハイム。


 前国王亡き後、リーガル国王となったシュライスは、転生した時からのわたしの友人。そして、初恋の相手だ。

王族の子供は十七歳になると、国の隔たりを超えて一斉に一つの寄宿舎に入れられる。

躾、作法、人間関係の構築方法、社会性、テーブルマナー、ダンスのレッスン、言葉の矯正、王族となる人間が備えるべき教養を徹底的に教え込まれるのだ。

 彼と初めて出会ったのは、この寄宿舎でだった。

親元を離れ、身内との連絡さえも取らせてもらえず、使用人も呼びつけてはいけないという環境に放り込まれ、共同生活に慣れることなく二か月が経過したが、転生前から引き継いでいる微陰キャ属性では仲のいい友達もできず、孤独に勉強に励んでいた。

 来る日も来る日も魔法の勉強、実技、訓練、ダンスの練習、生け花、料理・・・・・。


 ある日、この状況に限界が来た。

ローズリーに帰ろう。

そう誓った丑三つ時。

 以前から練っていた寄宿舎を逃げ出そう計画を、実行に移すことにした。

周囲にばれないように、隠れ蓑(シャドウ)を使って外に出た刹那。

氷のようにひやりとした西からの風が顔を横切った。

一歩ふみ出すと、雪に足元がふかふかと包み込まれる。

周囲には人の気配など一切なく、ここが雪山に建つ孤城なことを実感させた。


 サクサクと小気味よく進むたび、靴越しに感じる底冷えに体を震わせながら、ふいに空を見上げると、キンと冷え切った漆黒の夜空と幾千の数の星々が広がっていた。

その途方もない美しさを湛えた夜空に、おもわず目を奪われる。

この世にじぶんしかいないと錯覚を起こしそうな程に澄んだ空間。

美しくて、儚くみえて、なんだか泣きそうだ。

そんな夢見心地に浸っていると、目線の隅からゆらりと濃い暗闇が蠢く気配を感じた。


「――――だれ?!」


練習用でぼろぼろになった杖を向けて身構え深淵の中に目を凝らす。


「 綺麗だよね。今日の月は、コールドムーンっていうんだ」


 親しみを込めた声色が静謐な空間に広がる。

その主が人間であるとわかり、肩の力が抜ける。

この山の中は穢れが流れていなくて、神聖だ。

神の使いや悪魔の使いが行き来をなす「黄泉道」まである。

魔力や力の弱いものは道から外れ、はぐれた魔物や精霊たちが人間を襲うこともあると書物で読んだことがあった。

だから余計に、ほっとした。


 暗がりから現れたのは、黒の軍服にマント姿の若い男性。

年は私と変わらないか、すこし上だろうか。

彼の金髪は飴を散らしたようにキラキラして肌はミルクみたいに白い。

瞳は琥珀のように美しくて、この酷寒の峻嶺の中において異彩を放っていた。

おもわず見惚れて、口を開けたままぼーっと見呆ける。

目に見えた服の所々に紋章が刻印されているところを見ると、どこかの国の王子様だろうか。

朧げに観察しつつ、わたしから口火を切る。


「大きくて美しいけど不思議な月ですね」


「 恐くはないの?」


月が怖いとはどういうことだろうか。

確かに、蒼白で冬空の引き締まった空気の中では幽玄にみえる。

けれど、恐さまでは感じられない。

何の疑問もなくわたしは答えた。


「いいえ、ぜんぜん?」


 その返答に、吸い込まれるように綺麗な金色の大きな瞳を見開く。

わたしを瞠目し、やがて僅かに微笑みを浮かべ話をつづけた。


「コールドムーンの日は、自然も人間も落ち着かない。この日を知っている者は、厄難が憑くとして月光に当たるのも嫌がる。ただでさえ、自らの魂の居場所を求めて、生者も死者も彷徨いやすい季節だからね。普段と違う行動をとったりもする。だからかな。ぼくも、こんなところまで来てしまった」


 魔法使いは、属性の自然力に感化されやすい。

具体的には、頭が痛くなるものから魔力が弱くなるものまでさまざまな症状が出るが、その中でもとくに(モーント)太陽(ゾンネ)属性は左右されやすく、熱さと寒さそれぞれが極まるとき、とても不安定になる。

彼はきっと、(モーント)の属性なんだろうと思った。


「きみも、寄宿舎から抜け出してきたの?」


  突然人懐っこくなった。

仲間でも見つけたかのように、無邪気な笑顔でわたしに近づく。

やがて目の前の来た彼が、まるで絵画のように整った綺麗な顔と、幼なさと精悍さを混在させた、所謂「眉目秀麗」な人なのだとわかったとたん、背筋に緊張が走る。

目が合うと、嬉しそうに上がる口角のほくろの妖艶さを見たら、勝手に頬が熱くなる。


この世界で出会った、貴族や王族のような、由緒正しい出の人特有のオーラには種類があって、威圧感がある人と、神聖な空気を纏う人がいた。

彼は完全に後者だ。


返答を待ってくれる彼の佇まいは、だれが見ても王子様。

二人の間に吹いた茹った頬を撫でる冷たい風に、自分の置かれている現実に引き戻され、青白い月を見上げる。


「・・・・ここにいると、闇に慣れてしまいそうになる。だから逃げるの」


  はっとして、口を手で覆う。

どんな身分かもわからないのにため口を聞くなんて。

びっくりするくらい直截に答えた言葉を受けた彼の顔をおずおずと伺う。

月の光が差し込んで薄く反射した黄金色の瞳が、戸惑うように揺れているのが見えた。


 「(失礼だったかな・・・・・)」


思案しつつ、謝罪の言葉を考える。

彼ははにかんだ笑顔を見せながら、わたしの手を羽を掬い取るように取る。


「リーガル国の第一王子シュライス・ハイムです」


「・・・・ハイム?あの・・・・リーガル国の第一王子様ですか?」


「我が国をご存じなんですね。光栄です」


「リーガル国と言えば、隆盛著しい戦勝国として世界中の憧憬の的ですから」


「過分な称讃、恐れ入ります」


恭しく挨拶カーテシーし、未来の王へ首を垂れる。


「ローズリー国の第三王女、リリア・ルルーシュです」


「ルルーシュ・・・・。類稀なローズリ一国の王族の方にお会いできるとは。光栄の至りです」


シュライスと名乗った彼は、すらりと伸びた足を折りわたしの前に跪きわたしの顔を真っすぐ見つめてくる。

そのひどく高潔な表情に、姉のお菓子を取ったとか、夕飯の前につまみ食いをしただとか、そんな微細な罪迄暴かれるような気がして、わたしは思わず視線を逸らす。


「・・・・ぼくに見覚えはない?」


「えっ・・・・?どこかでお会いしたことが?」


「ぼくたち同じクラスなんだよ!魔法の授業できみの隣に並んだこともあるんだ」


「そう・・・・なんだ」


 こんなに綺麗な同級生を見逃していたなんて。

心底疲れていたのか。本当に目に入らなかったのか。

勿体ないことをした、と心の中で悔やむ。


「リリアって呼んでいい?僕のことは、シュライスって呼んでほしい」


 屈託のない笑顔と明るい声で接してくる彼の姿勢に、警戒心はすっかり溶けた。

相変わらずわたしの応えが聞けるまで待ってくれる彼を待たせないようにと、わたしはすぐに首肯した。


すると、柔らかく近づき、小鳥がついばむようなキスを彼がわたしの頬に落とした。

一瞬の事だった。


「月に願い事をしたことはある?」


 瞠目するわたしに、目を細め微笑みかける。

澄んだ目線から紡がれる一直の真摯さが、彼にとって先ほどのキスの意の目的が厭らしさではなく、敬愛からであると訴えている。


「(それは、わかっているんだけど・・・・)」


ふつふつと沸き上がる顔の熱を鎮めながら「したことない」とだけ小声で返す。


「ぼくはさっき、月に願い事をした。だけど、いま叶ってしまったんだ」


 月の光が差し込んだ黄金色の瞳は、まるで宝石を万華鏡に閉じ込めてくるくると回している様にキラキラと光っていまにも吸い込まれそうな心地だ。

終始真摯でまっすぐなシュライスが纏う空気に当てられたのか。

体中が熱い。

彼はわたしに飛び切りの笑顔を向けてこう言った。


「はじめまして。ぼくの姫君」


コールドムーンに導かれ、わたしたちは出会った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ