敵国の王妃になりました
婚礼の儀は、満月の夜からローズリーを守護する「太陽の昇る瞬間」に執り行うのが仕来たりだ。
まだ統合間もない市民感情を慮り、シュライスはローズリー国の仕来りを優先してくれた。
満月と太陽の間。
霞み漂う不思議な霧が充満し、国中が幻想的な雰囲気に包まれる。
別名「神のベール」とも呼ばれていて、この霧を辿った先には神様がいるとも言われている。
月の力と太陽の力が強いとき、拮抗した空間には歪みが出る。
しかし、強力な浄化作用も生まれる。
そのため、この空間の中での婚礼は変化と再生を孕む儀式にも相応しいとされるほど、神聖なものなのだと聞いている。
荘厳な世界観をバックに、結婚式の参列者たちが立ち並ぶ中。
純白のドレスに繊細なレースを施したベール、金でできたバラのブートニア姿でわたしが現れた瞬間、歓声とともに拍手が巻き起こった。
わたしから目と鼻の先の神殿の前に佇むシュライスは、純白のモーニングコートに黒のフロックコート、グレーのパンツ姿に金のユリのブートニアを刺している。
視線が合った瞬間、シュライスが目を細めた。
「お手をどうぞ」
差し出された手をとり、彼と共に数段先に在る神殿の前へ向かう。
大臣の一人が、指輪を乗せたリングピローをもって近づいてきた。
「フェデ・リングの交換です」
静かな空気の中、透明に光る石をぐるりと手が二本、お互いの手を握り合うデザインの指輪が差し出された。
シュライスはリングピローから指輪を受け取ると、わたしの薬指に滑らせた。わたしも倣って彼の薬指にはめてくれた。
司教がにっこり微笑んでわたしたちを眺めたあと、清々しく宣言する。
「この婚礼の儀をもって、二人を夫婦とし、ローズリー国第三王女リリア・ルルーシュをリーガルの代五十代目王妃リリア・ハイムとする。この場にいる全ての者が証人となり、誓約とする。双方異論はないか?」
「はい」
「はい」
「誓いのキスを」
司祭に促されたシュライスがわたしに歩みを進める。
するとシュライスが強引に腰を引き寄せ、顎をつかんで深く口づける。
つぎの瞬間、頭上に下げられた大きな鐘が盛大に鳴り響き沸き立つような拍手が聞こえた。
彼の口づけに翻弄されている間にも、参列者から色とりどりのドラジェを投げ込まれている。
「おめでとうございます!」
「シュライス陛下!万歳!」
「リリア王妃!万歳!」
目の前で笑顔で祝福してくれる人たち。
そのすべてが見たことがない人ばかりなことに心細さを覚えながらも、胸が熱くなるのを感じた。
あたたかく、そして真剣に祝ってくれているのが分かったからだ。
「戴冠いたします」
美しい王冠をもった司祭の前にわたしが跪き首を垂れると、頭に王冠が置かれる。
つぎ瞬間、さらに大きな拍手と歓声が巻き起こり地鳴りが響き、その歓声に眩暈を起こしそうになったわたしをシュライスが後ろから支えた。
「群衆の目を見なくていい。持っていかれる」
こどもを窘める口調。慣れた笑顔で群衆に手を振り返す彼に倣って、わたしも手を振った。
頭上に乗った王冠は重い。
ふと正面を見ると、フォースタスが穏やかな笑顔で拍手をしながらわたしを見ていたことに、涙腺が緩む。
彼の周囲ににいるはずの人たちの姿が、熱気と涙で蜃気楼の様に見えた。




