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グロウステイル~王様が懐柔してくるのでその手に乗ってあげる前に大魔法使いになります~  作者: 天崎羽化
第3章 王妃の下準備

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ローズリー史



「ローズリーの軍事史は実に興味深いね」


シュライスが興味深げに文字を目で追いながら投げかけてきた。


「近隣諸国からは「奇怪な国」として有名。とか、書いてるんじゃない?」


 得体のしれない召喚魔法やローズリー国で生まれ育った者しか扱えない秘匿魔法が気味悪がられているのは知っている。

 わたしは、転生してきてから一度だけ城を抜け出したことがある。

書物や史書の内容は本当なのか真意を突き止めるためでもあったし、単純にこの世界がどうなっているのか知りたかったからだ。

町の人たちの言葉は奇をてらうことがない。

酒場や店先、公園や道端で聞いた「奇怪な国」という言葉は、言いえて妙だとずっと思っていた。

シュライスは、わたしの言葉を肯定も否定もせず話を続ける。


「一説読んであげよう」


シュライスはわたしの隣に座り、本のページを二人で見られるように大きく広げた。


「それまでの定説は、鉱物と魔法を融合させることで武器や防具を創り出す錬成魔法、魔法学校で学ぶ技術魔法などが在るが、ローズリー国で生まれた人間は、生まれながらにして持つ万有引力の様な能力によって太古の時代から存在する精霊、自然力などを引き寄せ、人間の願いや祈りと融合し、魔法や武器などを創り出せるという特殊な魔力を備えている。魔法使いとしての基礎的な訓練は必要だが、魔力に加えて、鍛錬した(クオーレ)や、思念の強い者が偉大な魔法使い(ソルシエ)となる。最下層にロアリスタ(新米魔法使い)、中層にミドリディア(中堅魔法使い)、上級にハーネスト(自然を味方につけた最高峰の魔法使い)とその実力ごとに呼び名が変わり階級として分かれている。・・・・リリアはどの階級なの?」


 わくわくした子供のような顔で聞いてきた。

「ハーネストよ」と生返事で応える。

ローズリー国では、(クオーレ)の強い者の望みを創り出すことができる世界。

だが、それには等価交換がある。

比例して精神を消費するし、体も疲弊するということだ。

そして回復するまで時間もかかる。

前世で知っていれば死なずに生きる方法もとれたのかな。

そんなことをぼんやりと考えたこともあった。

心とは重く儚いのに、人間にとっては重要すぎる産物だ。


「ローズリー国から生まれる魔法や武器は、全世界の魔法の八割を占めているといわれ、新たな基礎魔法、攻撃魔法、防御魔法、治癒魔法の最先端の技術を日々輩出し続けている。そして、国を一代割拠とできた最大の理由は、それら技術の門外不出性にある」


一説ではない量の史実をシュライスが読み上げた後、わたしが続ける。


「ある程度魔法や武器を創り出せるようになると、魔法を創り出す施設である「神殿」の中核に携わり、研究者や神子(ミューズ)使徒(アポリア)神官(プリースト)となって、国への強固な忠誠心の元、ローズリー国のために一生涯身を捧げ、一代も漏れることなく末代まで続いて国に従事し続ける。その中でも核となる力の強い者を最高指導者と定め、後代の人財育成も担わせ、途切れることなく発展をつづけている。神子(ミューズ)は一人、使徒(アポリア)は二人、神官(プリースト)は四人と最高指導者の数は指定される。また、ハーネストクラスは四人と定め、以下クラスは研究者となる。彼らは召喚魔法を作り出すことができ、この稀有な組織構造、貿易力、国民からの忠義心、(クオーレ)は、ローズリー国の確かな人財となっている」


 詠唱する姿を見たシュライスは眼を丸くしている。

転生した日に書物庫に行って勉強した賜物だ。


「一語一句おなじだ・・・・」


「王女ですから」


「リリアはがんばり屋さんなんだね」


シュライスの瞳の奥が蜂蜜のように甘くなり、長い指がわたしの頬を撫でながら滑っていく。

温まった頬を掠める冷たい指先が心地よい。


「ぼくの知っている王女様たちは、お勉強よりもお肌の手入れの勉強をしていた。爵位のある男性に見初めてもらう一瞬の為だけに、綺麗な服を着て、お茶を飲んで、良い香りを纏って、綺麗で柔らかい表情を崩さず、はいとイエスの時だけ答える。王や王子の方から触れられたら、しずかに目を閉じその身を男に委ねる。みんなそう教えられているはずだ」


たしかにそうだった。

花嫁授業の時、王や王子、そして爵位のある男性からの好意を無下にするのはご法度と教えられる。

だけど、それは第一・第二王女の話。


「わたしは、第三王女だから・・・・その・・・・そういう所作の授業にはでていないの」


「誰かを好きになったことはないの?」


・・・・・あなたが初恋ですとも今更言っていいものなのか?

わたしが押し黙っていると、シュライスがしげしげと見つめながら顔を寄せる。

きれいな顔が目の前に迫り思わず息をのんだ。


「誰かに抱かれたことは?」


直球だ。ド直球だ。

なぜこんな詰問をされているのかわからない。


「・・・・・ありません」


「ほんとうに?第三王女でも求婚はされるだろ?きみは魔法が使えるし、かわいいしきれいだしやさしいから」


褒められたのも相まって自分の顔がどんどん顔が熱くなるのがわかる。


「たしかに縁談の話はあったけど、マリーとエリーが破談を連発していて、その代わりにあてがわれる為に回ってきただけよ。わたしのことを好きともかわいいとも言っていなかったし、求婚ではないとおもう」


「・・・・無礼な男だな。どこの国の王子?その国を次の領地にする」


平淡な声でシュライスがそう言うので、わたしは慌てて話をつづけた。


「シュライスはなぜ王に即位してすぐに妃を娶らなかったの?政治的に立場を有利にしたいなら妃は必要でしょ」


「そうだね。強国の第一王女の身分で、美しくて、聡明でぼくのいう事をなんでも飲み込む王女はたくさんいたし、彼女たちもぼくを欲していたのは知っている。でもぼくはきみが欲しかった。どうしても、リリアじゃなきゃいやだったんだ」


 そう言うシュライスの嬉しそうにはにかむ顔に心臓が跳ねる。

これが正式な結婚であればどれほど幸せだろうか、と何度思っただろうか。

もう終わった過去を思い出しながら泣きたくなる衝動を抑えた。


「ほんとうにドレスを仕立てなくてよかったの?」


頬杖を突きながら質問するシュライスの顔を見ながら、わたしは軽く首肯する。

戦争がおわり、国内は以前として混沌としている。

その渦中の結婚式など祝福されるはずはない。

そうおもって、ドレスは母上の部屋に保管されていたドレスを着ることに決めたけれど、シュライスは最後までドレスの仕立て屋を城内に控えさせていた。


「えぇ。いまある物で充分よ」


シュライスは目を細めながらわたしを抱き寄せる。


「そろそろ、彼ら(王と王妃)(ヒア)をリリアから剝がしてもいい?‥‥いい加減、目障りなんだよね」


苛立った様子のシュライスが部屋を見渡す。

そう。まだ二人は「ここ」にいる。

 母上と父上の体はないけれど、前世で言う四十九日のようなものはこの世界にも存在していて、あの世とこの世の境界線を渡る重要な時期とされる「虹渡りの日」にあたるこの時期は、魂がこの世をさまよっている。

微弱ではあるが二人の(ヒア)を何度も近くに感じることはあった。

けれど、血縁関係のないものにはわからないとされている。


「なぜわかるの?」


「ぼくが君を護っているからだよ。不満なんだろう。自分たちの手から大事な娘が連れていかれる様で。だが、違う」


シュライスは、目に見えない何かを目で追うように視線を泳がせている。

その目は、まるで獲物を追う鷹のように鋭く咎める様だった。


「教会で咲く花のように、大空を羽ばたく鳥のように、好きな高さで好きな速度で飛ぶ蝶のように、ぼくがリリアを自由にする。そう決めたんだ」


「まるでわたしが捕らえられ続けているみたいな言い方じゃない」


「そうだよ。きみはずっと彼らに捕らえられているんだ。この国の礎となるべく、供物のように神に捧げられつづけている」


脈略もなく話し出したその会話におもわずシュライスから距離を取る。


「なにを・・・・・?」


「いつかわかるよ。さぁ、もう寝よう。明日は早いよ」


わたしの頭をくしゃりと撫で、シュライスはベッドに入る。

聞きたいことはたくさんあるけれど、明日の朝が早いのは確かだった。

わたしはすべてを飲み下し、もう空になったカップを眺め、彼の寝息が聞こえはじめてから、床に入った。


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