表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グロウステイル~王様が懐柔してくるのでその手に乗ってあげる前に大魔法使いになります~  作者: 天崎羽化
第3章 王妃の下準備

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/118

「おかえり」「ただいま」





「全属性に対して効果を発揮し、最大出力は術者の(クオーレ)の強さに比例するという特殊バフつき。 回復魔法特化度であればフェニックス効果も発動できる。そこに在るものは、王室が定めた要望をすべて実現できた実用可能なものだ」


真横の椅子に座りながら書類をめくりあげつつシオンが解説する。



「まさか・・・本当に完成するなんて」


 大きな研究室の中央に、巨大な水晶が鎮座する姿は実に厳かだった。

妖精とは、この世の平和の象徴。

自然と世界が調和し、幸福な時にのみ姿を現し、人々に祝福を与える存在。

彼らは戦いには参加しない。

ゆえに、召喚することは不可能。

戦う事で平和は保たれ、平和が保たれることで戦いは生まれる。

「最大の武器は防御である」という信条の元に、妖精を統べる長の名前を冠して、王と王妃が長年作りたがっていた召喚妖精「オベロン」は、 回復、蘇生、(クオーレ)の強さに比例した最大出力防御を可能にする魔法として研究を重ねられていた。

人智を超えた研究に課せられた課題は、国一つ分ほどの規模であればオベロンの効果で大概のことが守られ、守護も施されるという伝家の宝刀のようなものだった。

正直、無謀だと思っていた。

神様でもいなければ創り出せるわけがない。


「・・・・これを開発したのは?」


「ここにいる全魔法使い(ソルシエ)たちだよ」


エミリオが柱に背を持たれながら、恣意深げに見上げて言った。


「王と王妃がご逝去され、リリアがいなくなってから、ぼくたちは矜持を失いかけていた。そこで決めたんだ。このまま朽ちるくらいならば、全員でこれを完成させ、最後の勤め果たそうって 」


エミリオの言葉に聞き入りながら、オベロンの入った水晶に触れると、とくとくと心音のような音が石越しに伝わってきた。


「いくら研究しても出来上がらなかったのに・・・・」


「リリアのためだよ」


水晶に触れるじぶんの手に合わせるようにエミリオが上から手を合わせる。


「命令じゃなく、愛や情で動くほうが気持ちがいいって教えてくれたのは、きみだ」


エミリオは品よく笑うと合わせた手をぎゅっと握る。


「この召喚獣をローズリーへの花向けとして、リーガル妃になるきみへの祝いとしたい。今日までよく頑張ったね。おかえり。我らが姫君」


振り返るとエミリオの後ろに最高指導者の面々が集まっていた。

その後ろには、働く手を止めた白衣の研究者たち。

みな、真剣な面持ちでこちらを見ている。

哀しみ、悲愴、すがりつくような目。

不安げに揺れながらも、わたしの目をしっかりと捉えている。

あぁ・・・・待たせてしまったんだ。

なぜ、すぐみんなに会いに来なかったんだろう。

じぶんのことを片付ける時間に費やしすぎた。

後悔の念が胸の中に渦巻き、申し訳なさに涙があふれる。



「リリアがこの研究室で尽力してきた姿をぼくたちはずっと見てきた。生まれたときから国のために生きることを決められ、全員が四の五の言えない制度の中で、どんなに苦しくてつらいときも、王族の身分であるきみがこの部屋にいてくれていたから、貴族も、国民も、魔法使い(ソルシエ)さえも、国のために生きてみようとおもえた。戦後もなおきみがこの国で生きると言うならば、ぼくたちはリリアの命令の元で生きたい。ぼくたちのわがままを許してくれるね?」


 双子は、さっきよりも大粒の涙を流している。

シオンは、唇を固く結んだまま斜めからこちらを見ていた。

ウイリアムは、静かに涙をこらえていた。

ルドラは、眼をつむりながら静観している。

リリシュアは、平淡だが揺れた瞳でわたしを見据えていた。

エミリオが背後からやさしくわたしの肩を持つ。


あたたかい空間。

目の前がかすみ、声を出そうとしてもかすれてしまうけど、喉を絞り、どうしても伝えたかった。


「ただいま。みんな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ