ローズリー王室貴族の作戦会議
「明日は妃の就任式なのでしょう?ぼくたちと優雅に朝食パーティーなんてしていていいんですか?」
片手にシャンパン。もう片手にカナッペを持ち優美な笑みを浮かべるルチアに、わたしはワインを二杯飲んだほろ酔いの勢いのまま口火を切る。
「リーガル国王に復讐します」
その言葉に二人の動きが止まった。
同時に、人の気配を背後に感じる。
振り返ると、昼下がりの光を蓄えてキラキラ光るシルバーグレーの髪に、淡青の瞳を瞠目させている美少女が、山盛りのポテトフライが入った皿を両手に持ってこちらを見ていた。
白い肌に細い腕と足、大きな瞳の下の小さな口に黙々とポテトを運んでいる。
そのちぐはぐな様に少し気が抜ける。
「居るなら言ってください。リシュア様」
「・・・・・そんなことどうでもいい。続けて」
彼女はわたしに促しながら順調に両頬にポテトを詰め込んでいる。
両頬がまるでハムスターの頬袋のようだ。
わたしは、その膨らむ頬を見ながら、彼女の無事に安堵していた。
この少女はの名前は、リシュア・ハリエット。
国内唯一の神子の称号をもつ大魔法使いだ。
幼い体つきに幼い声なので子供に間違われるが、中身は五百歳を超えている。
ローズリー建国の時代からいる土地神さまのような人で、国全体を守護し庇護をかけてくれている。
大魔法使いは戦に加担しない。
そして国から影響を受けない。
彼女には、人間や魔法使いよりも先にこの地にいる精霊や自然力を護る役目があるからだ。
しかし、今回の戦争中、昼夜問わず神殿で祈りを捧げ続けてくれていた。
◇◇◇ ◇◇◇
指令室から出て、戦場に向かう途中。
胸騒ぎがして、神殿に向かった。
そこで見た彼女は、周囲にいる使徒に支えられ、立っているのもやっとの状態になっていた。
聞くと、戦争が始まってからはまともに食事をとっておらず、使徒が口元にもっていっても、何も口にいれてくれないという。
このままでは死んでしまう。
リシュアの薄紫になった唇に、備蓄用にもっていたパンをひとかけら持っていく。
薄く開かれた淡青な瞳がわたしを見つけると、唇がうごいて、口元に置かれたパンをはむはむと吸い込み、口に入れてくれた。
◇◇◇ ◇◇◇
いまは血色もあり、肉感も戻っていたので、ほっとした。
食欲旺盛に黙々と食べるリシュアを横目にうれしくなりつつも、わたしはつづけた。
「リーガルとローズリーの矜持は相反している。陛下が手に入れたかったものは、わたしたちハーネストクラスの魔法使いと、大魔法使いが使うことができる召喚魔法のはず。これらが手に入った今、ローズリー国民の安全への担保がなくなりました。その証拠に国民は家に帰されることなく、母上が使っていた城へ移されています。国中には黒煙が絶え間なく昇り続け、成型するように野焼きが行われている。この状況を見過ごすことはできません」
「明日、妃になろうと決断した人が物騒なことを提案するんだね」
二杯目のシャンパンをグラスに注ぎながら、ルチアは目を細め迂闊な発言は警告だよといわんばかりに訝しんでいる。
リシュアは、空になった皿を置くとわたしの手に触れた。
彼女の折れそうなほど細く冷たい指先が、決意で熱くなったわたしの手の熱で温もりを帯びていく。
「彼はあなたの許嫁ではないの?」
「約束をしたことはありません」
「でも、愛しているんでしょ?あなたの心がそう言ってる」
リシュアに突き付けられた言葉に返す言葉が見つからない。
でも、この決断ができるのは、わたししかいないことも事実だ。
「だから、殺したいんです」
絞り出した言葉を聞いた彼女の瞳が揺れる。
「それはとっても、ややこしい呪いね」
リシュアは泣きそうな声でそう言った。
「三万と二十四人だ」
シドニーの声が響くと、二人の顔が曇る。
「三万と二十四人のローズリーの民が死んだ。彼らの魂の浄化が先だ」
眉根を寄せるシドニーの顔を見ながら城下の情景を思い出すと涙が溢れる。
「そう・・・・ですよね」
「機を待て。この国の名前がリーガルになろうがローズリーになろうが、リシュアが護ってきた秩序の理がある以上、これ以上は手を出せないはずだ。それに、無暗に行動を熾せば、この国に魔力クラスが存在する限り、リリアの真の願いの力がシュライスよりも弱ければ確実に敗北するぞ」
シドニーの言うことは尤もだった。
ルチアは賛同も否定もせずに、だけど厳しい目でわたしを見ている。
「リリアが妃になればリーガルの王室魔法使いたちも動き出すだろう。ぼくたちが彼らの相手をして様子を窺ってくるよ。それに、シュライス陛下には優秀な参謀がついているようだ。彼にはフォースタスと対面させて出方を見ようと思っています」
「参謀?そんな人がいるなんて知りませんでした」
「おそらく、リーガルでもその存在を知る人間はごく僅かだろうね。秘密主義のシュライスらしい、隠し玉ってところかな」
「あの男はリリアに見せていない顔が多い。用心しろよ」
シドニーはワイングラスをスワリングさせながら、厳存する事実であるという口ぶりでわたしに投げかけた。
たしかに、彼には謎が多い。
王だというのに側近も置かない。
純血の親族としか食事もとらない。
「リーガル国には黒幕がいる。暴けない限り、わたしたちは彼に与するつもりはないわ」
リシュアはそう言うと、スコーンにクリームを山盛りつけて口に入れた。
シドニーは、「そのとおりだ」といった様子でうんうんとうなずく。
「フォースタスには会いましたか?」
「これから会いに行きます」
「彼は意気消沈しています。リリアを捕虜にされ、王も王妃も殺されたのですから。彼の心が弱っているのを感じる。早く元気な姿を見せに行ってあげてください」
ルチアの苦しそうな顔に思わず胸が痛くなる。
「行ってあげて。私たちはもう少し食べたらお暇するから」
リシュアはわたしにそう促し、目の前にあるクランベリーケーキの乗ったお皿をわたしに薦める。
「これ、おいしい」
そう言うリシュアの言葉に思わず笑顔になる。
仲睦まじいとは言えないけど、穏やかな距離感を保った会話を続ける三人を眺めながら、安心感で泣き出しそうなきもちを押し殺し、わたしは部屋を後にした。




