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グロウステイル~王様と神様が花嫁になれと懐柔してくるので、その手に乗ってあげる前に大魔法使いになります~  作者: 天崎羽化
第2章 首輪付きの結婚

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千載一遇、でしかない



 ブレードチップの先を確認していると、親しみやすい笑顔を浮かべた金髪の男性が、こちらに近づいてくる。


「このグローブをお使いください」


そのバラの紋章の刻印されたグローブを見た途端、おもわず息をのんだ。


「どこでこれを?」


「生越ながら、ルルーシュ家の紋章の入ったものは我が軍で保管させていただいていました。陛下のご命令により、本日付で王家の所有物はすべてリリア様に所有権が移りましたので、ぜひお使いいただきたくお持ちいたしました」


 単純に、そうだったのか、とおもった。

でも、今に始まったことではない。

この先も、わたしが与り知らぬことばかり事後報告されるのだろうな。

そう考えると頭の中がすーっとして気が遠くなった。


「リリア様は、剣聖ルーデンス様から直々に剣を学んだ愛弟子だと伺っております」


 口調は穏やかなのに、ファウスト先生の名前と訝しむような含みを持たせた言葉につい躍起に反応してしまう。


「あなたは?」


「申し遅れました。わたくしの名前はミカエル・オクタヴィアン。ソレイユ軍の副幕僚長を勤めております」


 シュライスよりも微かに暗めな金髪は滑らかに肩にまでのびていて、細い体と長い脚は、貴族出身の気品を感じさせた。

一目見ただけでは軍人だと思えないほどの端正な顔。

誂えた様な薄黄色の双眼がわたしの目を捕らえるように動き、視線が交わったとたん、まるで子供のように無垢な笑顔を返した。


「いつかぼくのような者とも手合わせしてくださいね」


 なぜだろう。

きれいにお辞儀をしこの場を離れていく彼の背中を見ているだけなのに、わたしの胸の中はざわついていた。

予感めいたものを感じながらも、背後から感じる圧倒的なオーラに視線を移す。


「レイピアではないんだね」


 シュライスは剣の先を指でなでながら目を細めて言った。

まるで、己の魂の半身を労わる様に丁寧に礼儀を尽くす。

その姿を見ていると、彼の戦いへの矜持を垣間見た気がした。

彼が持つだけで、どんな剣もこの世で一番鋭利で強い武器に見える。

現に、彼が持っている剣はみんなと同じ練習用のものだ。

それなのに、佇まいが違って見える。

これが、戦勝国の王の皇威なのかと思うと背筋がぞくりとした。

彼の用意する姿を横目に、わたしも武器の先端のカバーを外す。


「なぜそうおもうの?」


「レイピアなら確実に殺せるチャンスが増えるだろ?」


「・・・・殺さないわ」


そう。殺すのはいまではない。簡単には殺したくない。


「そうか。やさしいな、リリアは」


 シュライスは笑顔のまま、剣を額の前にまっすぐに構えた。

彼に合わせて、わたしも剣を構える。


「お相手いたします」


「お願いします!」


 先に仕掛けたのはわたしだった。

速々にシュライスめがけて切っ先を立てる。

目指したのは彼の首。

力任せに突っ込んだおかげで、シュライスは寸前で優雅に躱してくれた。

その姿を横目で見届け、素早く彼の横腹めがけて剣を振りきる。

そして躱される。

ここまでは想定内だ。

城内がどよめき、見学していた大臣たちの足が一歩こちらに向けられるのが見えたが、わたしはお構いなしに挑む。

今までの恨み、小言一つ言わずにしおらしくしていた鬱憤諸々、すべてを剣に込めて彼の剣に一秒も淀むことなく、絶えず攻撃を入れていく。

これは父上の分。

これは母上の分。

これは死んでいった魔法使いたちの分。

これは死んでいった国民の分。

心の中でそう発しながら、剣を突き立てつづける。

果敢な挑戦の甲斐あってか、切っ先の擦れる音と共にシュライスの小さく力む声が聞こえた。


「っ・・・っ情熱的な太刀筋だねっ」


「戦勝国の王には及びませんっ・・・・陛下・・・っ!!」


 つぎの瞬間で、わたしは体を翻してできるだけ高く飛び上がった。

そのまま空中で態勢を整え剣を振り上げる。

引力が味方しスピードが増した剣はシュライス一直線に向かっている。

思わず口角があがった。


――――――このまま殺してやる


 そう思っただけで、わたしの中の邪悪で陰湿ななにかが体中を支配し、痺れるほど気持ちがよくなった。

その刹那。

シュライスが氷のような瞳でわたしを睨みつけながら剣を跳ね返す。

その剣圧が強すぎて、わたしは剣の柄から手を離してしまった。


「くっ・・・・」


あまりの勢いに受け身の態勢をとるタイミングを逃す。


「リリア!!!」


「リリア王女様!!」


ファウスト先生の叫び声。

フェレスの声。

ざわつく室内のどよめきが交差して聞こえた。

地面に打ち付けられると覚悟を決めたそのとき。

ふわりと体を包む温かさを感じた。

恐々と目を開くと、シュライスの顔が見える。


「お怪我はございませんか?姫」


そう言うシュライスの清々しい笑顔を見た瞬間。

わたしは完全敗北を確信した。


「・・・・お相手・・・・ありがとうございました」


呆然自失のままお辞儀をする。

シュライスがその頭をぽんぽんと撫でた。

結構本気を出したつもりだ。

だからこそ、居心地が悪い。悪すぎる。

彼の腕から早々に脱出し、ふらふらと自分の剣を拾う。

剣を跳ね返されるあの瞬間。

冷たい眼のシュライスはどこにもいなくて、穏やかな視線でこちらを眺めている。


「・・・・あなたという人は」


 ため息の主はファウスト先生だった。

目を細め、腕を組んで、眉間に皺を寄せてわたしを見据えている。

この状態の先生のことを、わたしは「ガミガミさん」と呼んでいた。

お説教が始まる合図だからだ。


「得物を振り上げるときに腕力は不要。あなたは背丈が小さいのですから、まず八相の構えののち、陽の構えを待つとあれほど教えてあったでしょう。シュライス陛下はグランクロワの称号を持つ名士なのですから、品位ある戦い方をするべきです。ルルーシュ王家の一人として、その重要性がわかっているのですか?」


今日はなんだか注文が長い気がして、わたしは手持無沙汰になった指で遊びながら応える。


「・・・・・はぁい」


「不貞腐れない!」


ファウスト先生はわたしの頬を両手でふにーッと伸ばす。

顔は綺麗に整っているのに、紫の瞳の奥には不満が滲んでいる。


「先生痛いです(しぇんしぇいいたい)」


「一国の王に対しての高潔な戦い方でない上、勝てないなんて!」


「すいません(しゅいまふぇん)」


「リリアは高潔でしたよ。それに十分強い」


シュライスの穏やかに肯定する声が広がると、騎士たちが一斉に跪く。

その整然とする様子に思わず背筋が伸びた。

ファウスト先生も怖い顔を正しその光景をただ眺めている。


「きみたちの日ごろの鍛錬しかと見受けさせてもらった。先戦においての各々の働きには、王妃即位式後、特別称号を設け授与することで労いを約束しよう。リーガル国のため今後もその身を尽くしてほしい」


王からの言葉は室内に熱を熾した。

騎士たちの目に光が宿りキラキラしている。

その様子に胸が高鳴った。


「御意!」


 最敬礼し、シュライスへの忠誠を誓う。

鼓舞された騎士たちの嬉々とした顔に胸が熱くなるのに、わたしの心は靄かかったようにぼんやりしていて、なぜか無性に悲しかった。

横にいるファウスト先生は、もう怒っていないはずなのに、綺麗な顔を歪ませていた。

そのことに、堪らなく泣き出したくなった。

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