どちらが先に殺すかを賭けたら、自分を賭けると言ってきました
挑戦的に金色の瞳が目の奥で揺れている。
「実力という意味で?魔法や技量で勝てないと言うこと?」
矢継ぎ早に質問するわたしから視線を外し、冷笑した。
「さぁ。なんだとおもう?お姫様」
心を遊弋するような表情を浮かべ、シュライスがわたしの首にかかったネックレスに指先をかけると、撫で弄りながら言葉を零す。
「きみを塔に幽居し、王の統御という手管を使い、精魂尽き果てるまで魔法や武器を精製させられていたことを、ぼくが知った時点で攻め入っていればよかった」
シュライスは唇を小さくかんでいた。
まるで懺悔するような苦悶の表情の彼を見ていると、ちくりと胸が痛いことを自覚する。
「きみが創り出していた魔法や魔道具、武器の類が、戦争に使われていたのは知っているだろ?」
シュライスがため息交じりに発した言葉に耳を疑う。
「・・・・何を言っているの?父上と母上は、わたしの武器や魔法を戦争には使っていないわ。だって、約束したもの」
あらずの塔で修業をしつつ、魔法や武器を精製するのは本当に大変だった。
気は無限に沸いて出るものではない。
枯渇すれば英気を養い、養うためにも時間が必要になる。
フォースタスとファウスト先生も手伝ってくれていたが、王である父上からの命令には、「リリア一人で創り出した魔法や武器であること」という制約がついていた。
そのため、周囲には最低限しかお願いできなかった。
正直、死ぬかと思ったが、ある程度魔法や武器を創り出し生産が安定した時点で、わたしは王に提言書をだした。
「今次創り出すものは、国内での使用のみ許可し諸外国への侵攻および戦争での使用は禁止してほしい。その条件が守られるならば寄与する」と。
その約束は国家条約として結ばれたと聞いている。
「・・・・勅令を聞いていないのか?」
「勅令?」
「第百三十五条。第三王女リリア・ルルーシュが創り出す魔法、および武器防具は、王と宰相の許諾を経たもののみ、戦時での使用を許可するものとする」
聞いたことがなかった。むしろ、今初めて知った。
「きみとフォースタス、そして魔法研究室のシオンを筆頭とした貴族魔法使いたちの手によって創られた魔法は質が高く、模範ができないようすべての要素に防偽印が施され、ローズリー国の者でしか扱えない製法になっていた。ここまで徹底している魔法や武器の類は稀有。しかし代償は高く、きみの未熟な心への負担は相当なものだったと聞いている。その証拠に、リリアは一度心を深く病んでいるだろ?」
並べ立てられたことはすべて真実だった。
真意を突かれてびっくりしたわたしの肩がびくりと震えたのを見たシュライスが、小さくため息をつく。
その反応にぼそりと反論した。
「・・・・少し疲れがでただけよ」
「三か月も神殿で眠り続けなくてはならなかったのに?」
確かにその通りだ。
あの日々の事を思い出そうとすると、頭が割れるように痛む。
修行と合わせて急ピッチで新しい魔法や武器を王にせがまれたのは事実だ。
なるべく強力で、広範囲に攻撃ができる召喚魔法や攻撃魔法がほしい。
その命令の元に、全ての魔法使いたちがフル稼働で生成し、貴族魔法使いたちは限界まで魔力を使ってわたしを支えてくれていた。
わたしの役割は、現場で彼らの指針となり、彼ら以上に働き務めること。
それこそが王族の勤めだと信じてやっていた。
往時をおもい返しながら彼への反論を考えていると、シュライスがわたしの顎をつかむ。
吐息がかかるほどの近さに迫った彼の顔に胸が跳ねた。
眼前にある琥珀色に透き通った瞳の奥が、ひどく揺れている。
「王と王妃のことは忘れるんだ。彼らに想いが寄っている以上、リリアがぼくを殺すことは絶対にできない」
「なにを・・・・」
「ぼくに愛されることを望んで。ぼくに庇護されることを選ぶんだ」
「・・・・意味が分からない。離して」
「離さないよ」
声色だけは穏やかだけど、シュライスの目は笑っていない。
冷たく平淡な金色の瞳を横目に、彼の胸を押して近すぎた顔を離す。
わたしは子供のように押し黙る作戦を決め込んだ。
降参したのか。わたしを見ながら細く息を吐くと、グラスに僅かに残った酒を煽り、そっぽを向いた。
「あなたが何を知っているか知らないけれど、父上と母上の敵は必ず取る」
毅然として言い放ったのに、シュライスは薄笑いを浮かべた。
その様子にぴきっと、腹が立った。
「ぼくは、仇を取らせてあげるから協力してあげるよって言っているだけなんだけど?」
「恩情は要りません。正攻法で、正々堂々ととりたいの」
「・・・・・ふーん」
言い合いながら、これ以上は不毛なやり取りになるのはお互いわかっていた。
シュライスから漂う空気の不穏さが薄らいだところでわたしから話題を変える。
「電報を書きたいの。許可を頂けるかしら」
「・・・・・誰に書くの?恋人?」
「伯父様よ」
「国外に追放した魔法使いの?」
「追放したんじゃない。勝手に出て行って、放浪してるの!伝書蝶に紡げば届きます。御認可いただけますか?陛下」
シュライスは軽く首肯し、機嫌よく笑みを浮かべた。
「仰せのままに。お姫様」
そう、わたしには伯父がいる。
放浪癖のある魔法使いで、数年に一度しかローズリー国には帰ってこない。
最近はめっきり目撃情報も聞かないし、姿も見かけない。
気だけは途絶えず、弱弱しくはあるが生きていることだけは追えている。
残念なことに、姉たちをのぞくと、もはや自分の肉親と呼べる人は彼くらいしか思い浮かばない。
戦争が起きても帰ってこなかった伯父だけど、祖国がどうなったのかくらいは伝えてあげたかった。
「伝書」
魔法を唱えると、月の方角から溶け出す様に一匹の蝶がひらりと現れた。
金色の羽に緑の触覚がついた蝶は、差し出したわたしの掌に止まる。
指で蝶に向けて魔法陣を描くと蝶の羽が光りだし鱗粉のようなものを振りまきながら羽を瞬かせ、月光に溶けるように消えていく。
シュライスはその光景を感慨深く、また物珍しそうに眺めている。
「蝶だと風情があっていいね。リーガルの伝書は流れ星だから」
「流れ星の方がロマンチックじゃない」
「リリアはそうおもうの?かわいいな」
顔を横から覗き込みながら嬉しそうにする反応を見て、彼を喜ばせている言葉選びは考えないといけないなと自重しながら押し黙る。
「夜風が冷たくなってきた。中に入ろう」
シュライスが室内に促すように窓辺に立つ。
その姿を見ながら、彼の言った言葉を思い出し、向き直る。
「わたしは、今もこれからも、あなたに籠絡される気は無い」
「ぼくも、そんなつもりできみを王妃に迎える気は無いよ」
「なら、勝負しましょう」
「勝負?」
「どちらが先に相手を殺せるかって勝負」
「いいね。賞品は賭けるの?」
「わたしをあげる」
「えっ!!」
シュライスが身を崩して嬉しそうにするのを見ておもわず後ずさった。
「それは花丸優勝賞品だね!ぜひ戴きたいな!」
「あなたは何を賭けるの?」
水を差すような言葉にも、彼は嬉々として即答する。
「国、地位、名誉、財産、ぼくの体、魂、全てきみにささげることを賭けるよ」
鈴の鳴るような声で言うので、わたしは思わず彼の顔を見た。
相変わらず、愛でるような甘い視線がブレずに注がれている。
彼の目を睨むようにまっすぐ見ても、黒目すら微動だにしないのを見たとたん、心が縮むような心地がした。




