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グロウステイル~王様が懐柔してくるのでその手に乗ってあげる前に大魔法使いになります~  作者: 天崎羽化
第10章 神と乱戦

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王子の騎士(2)(ロメオサイド)





 雲間から差し込む月光に照らされ、暴かれるように姿を見せる。


「おまえら‥‥」


 以前、アルド様から「要注意人物」だといわれて見せられた顔写真の中でもひときわ綺麗な顔があった。目が覚める様な青の瞳と髪の色は嫌でも覚えてしまう。その写真にそっくりな男二人を眼の前に、腰に隠していた得物に手をかけつつ最終確認する。


「・・・・これはこれは。お初にお目にかかります。サニタリア国王陛下、並びに殿下」


 肯定だ。口角を上げ笑みを深めた。サニタリア国王ソワンルクロア、またの名を狂気の天才科学者、裏の顔が真正のマッドサイエンティストであるという噂は世界中に流布しているものの、彼の研究のおかげで助かった命は数知れず、助けを乞う者が絶えることはない。彼が研究を行えばどんな難病や疫病でも完治する。医士メディフィルであり、世界でも類を見ないレベルの高い医師を集めた大国を築いた国王。だがその実、彼の本性に対し、裏社会ではその名を禁句とされるほど非人道的な実験や研究を数代に渡って続けていることは噂で聞いていた。


「(人造魔物(ホムンクルス)の父、またの名を創造主様?だっけか)」


 そのカリスマ性から教祖と化し信者となった研究者や医師などから盲目的に信頼されている。ゆえに、彼の鶴の一言で動く人間は多い。その男の血を受け継いだ王子エヴィン・ルクロア。


「(こいつだけは情報不足だ)」


 この親子に魔力はない。国自体が魔法を嫌っていると聞いたことがある。王族が魔法使いではないことが影響しているのだろう。精霊と共に生きると言われるミュゲ国になぜこいつらがいるのか。


「シュライス陛下の命令かね?」

「‥‥さぁ、どうでしょ~?」

「この場をやり過ごしてもらえるならば、きみの雇い主の10倍の報酬を与えよう」

「生憎と、今の主は腐れ縁なもんでね。裏切ると後がこえーんだわ」

「そうか」


 食えない男だ。すっと色を無くした瞳が平淡におれを見定める。魔法が使えないのは俺も同じだが、頭の賢さでは勝てる気がしない。自信に満ちた笑みに背中に嫌な汗が流れる。


「その王子にはここで死んでもらわなくてはならない」

「おやおや。人の命を助ける国の王ともあろう方が、君主を落とす前に王子を奇襲するとは。よほど焦っておられるようだ」

「彼は()()()()に必要ない。代りに、わが息子がミュゲ国を継ぐ」


 促され、お辞儀して見せる。まだ幼さの残る小さな手で得物を構えることは意志なのだろうか。王の傀儡となり果てた末の姿だろうか。どちらにしても手遅れだろう。情なのか哀れみなのか。


「(どちらにせよ、今の俺にも彼らにも不要な()()だ)」


 振り切り、頭を切り替える。


「王子に死んでもらいたい理由があるってことか」

「ミュゲの王も承諾済みだ。父親に見捨てられた哀れな王子を救済するため、そして、ミュゲ国がこの先何百年と安寧の時を過ごしていくために必要な犠牲なのだよ」


 この間にも背後で魔法を使い続けている。元から白いだろう肌は青白くなり、玉のような汗がしたたり落ちている。がくがくと震えている足と腕から見て、体力は限界を迎えているのだろう。この魔法を解けば死ぬかもしれない。この姿を見ても尚、笑顔を絶やさないまま殺すと言い放ったのを聞いて、おれの腹は決まった。 王子の前に佇むと、彼を守るように手を広げた。


「今この瞬間から、おれはこの王子の騎士だ!」

「‥‥なに‥‥言って‥‥」

「お前がここで死んだら王子を支えられるやつがいなくなる。邪魔だから黙って見てろ」


 魚のように口をパクパクしている執事服の男を諭すと重心を低くし、得物を構えて戦闘態勢に入った。

銃ごときでこいつらは仕留められないだろう。異様な空気を纏う得体のしれないサイコパスに効くのは正攻法だ。まっすぐであることよりも他人の裏をかいて生きる連中の目を醒ますには体当たりしかない。そんな俺を見ながら、王はクツクツと喉奥で嘲った。


「忠僕風情がわたしたちを殺す‥‥ねぇ。命令でもないのに動いて大丈夫なのかね?」

「生憎と、おれの雇い主はお人好しなんでね。この状況なら許してくれるさ。それに、おれは温室育ちよりも汗水たらして生きてるやつのほうが好きなんでね」

「‥‥きみたちのような世界のクズでも必要悪だと言い聞かせてきたが、早々に根絶やしにした方がよさそうだ」


 身構えるおれに向け王が指を指すと、放たれた矢のように走り出すエヴィン王子が、切っ先を向けながら一直線におれに向かってくる。小柄な彼の身を見送るように刃を躱すと、ひらりと天井に飛び上がって見せた。空中から、驚きでオレを見上げる王子の顔を見て確信する。


「(戦闘に慣れていない。むしろ、ド素人だ)」


 異様さをまとう空気に惑わされていたが、注意深く感じ取ればとる程、彼らから剣気が感じられない。剣の心得はあるようだが場数を踏んでいない分、相手の出方や戦法に予想がつかず次の一手を出せずにいるのが証拠だ。


「(それでも自信満々なのは変わらないってか)」


 すたりと床に着くと同時に王子に向かう。盗賊団時代に培った駿足で走り込んでやると、青ざめた顔でオレを見た。


「(スキだらけっ‥‥と!)」


 手首に得物の柄を落としてやると王子の手から剣が零れ落ちた。足で遠くに吹き飛ばし、すぐさま喉に向かって刃を突きつける。


「さぁ、どうします?ルクロア閣下」


 得意げに言ってやるが、自分の息子が捕られても王の顔色は変わらない。狂っているのか。それとも、隠し玉を持っているのか。逡巡するおれに向かって、否、その後ろに向かって言い放つ。


「覚醒しなさい!わたしの可愛い遺伝子よ!」


 そう叫んだだけのはずだった。だが、喉に突き付けられた刃を握りつぶそうとする小さな手は、おれの得物を簡単に砕いてしまう。カラカラと乾いた金属音が響き、音を立てて崩れていった。王子の目から怯えが消え、青い瞳は赤黒く澱み、獣のような形相でおれを見ている。


「‥‥人間では、ない?」


 呟きと同時に王子の手がオレを振り払う。先ほどとは比べ物にならないほどの怪力で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「‥・・・ぐっ‥‥かはぁっ‥‥!!!」


 内臓をやられたか。口から吐き出された血が床を染めている。フーフーと吐く息の音はさながら腹をすかせた狼と大差ない。四つん這いになりながら後ろ足を蹴りオレを見定めている。 その異様さに、思わず王に問いかける。


「自分の息子まで手にかけたのか?」

「違う。遺伝子を育成したんだ。わたしたちは魔力を持たない。ゆえに、人間が扱える武器はそう多くない。だからこそわたしは医士(メディフィル)のみで形成された医療の国を作り上げた。人間の可能性の叡智と言う魔法を施し強化する。未知の病や未知の生物を淘汰し、生み出した技術でさらなる進化を促す。果てに在るのは、魔法を超えた存在。人類の悲願を果たす為に、わたしの息子は国の遺志を継いだのだよ」

「‥‥だから‥‥それが人体改造だろって聞いてんの‥‥っ」


 ぐらりとする体で何とか立ってみる。よろめく体で四つん這いのまま戦闘態勢に入る王子にむかって銃を構えた。


「(魔法なら銃弾で止まるはず。ダメでも弾圧で少しは…)」


 そう踏んだおれは引き金を引いた―――はずだった。


 血と埃の匂いしか充満していない部屋に突然、花の香りが鼻を掠めた。


「(‥‥ユリの花?)」


 清潔な服に匂いと人間の息づかいが聞こえた。引き金に掛けられたおれの指に絡まる細い指に肩が震える。煙のように現れたその主に息を飲んだ。


抑制(リストレイント)

「‥‥っぐあぁぁぁぁっ!!」


 魔法がかけられ、うめく様な声で痙攣し床に伏せる王子を平淡に眺める。女のように繊細な肌だが、首から下の筋肉はよく鍛えられていて男であるとわかった。高貴な者だけが纏える空気と、見ただけでわかるほど上質な素材の軍服、そして騎士団ピュレテーレ軍の徽章。それも、元帥の証である金色の徽章を持つ者はこの世界に1人しかいない。


「‥‥ロイド殿下?」


 彫刻のような横顔に銀髪がはらりとかかり、淡灰色の瞳がオレを一瞥する。鼻で深くため息を吐くと、銃をしまうようにと視線で促した。王室の人間に会う事はない。だが、ロイド殿下はアルド様との交流が深い人物だということは、常日頃から聞かされていた。エンツォ様と酒を酌み交わす度に聞いた彼の武勇伝の数々は国の立役者だと言っても過言ではない。


 剣戟の間に立つ典雅の相と映ゆる威容に剣豪すらも慄くという。覇気を纏った戦場の貴公子が目の前に現れたことに、おれの心臓が早鐘を打つ。


「アルドの配下の者か?」


 低く静謐な声で問いかけられこくこくと頷く。眺め見ながら鼻で嗤い、貴公子はおれの背中を手でさすった。


治癒(ヒール)


 浸透するように声が体に響いてくる。背中から内臓にかけて徐々に温かくなって心地よさにまどろんでいると、体中の痛みが消え去っていた。


「もう心配ない」

「魔法‥‥すか?」

「あぁ。国境に医療班を呼んである。念のためあとで診てもらえ」

「魔法って‥‥すごいんすね‥‥」


 素直なきもちでこぼした俺の言葉にロイド殿下が穏やかに笑う。おれと年端は変わらないだろう若く美しい王子は、目の前で蠢く同じ王子を憐れむでもなくただ見つめていた。


「リリア王妃とシュライス陛下を見ていないか?」

「はい。ここに来るまで、動いてる人間はこの部屋にいるやつらだけでした」

「‥‥また厄介なことをしてくれたものだな。姉上も、こいつも」


 吐き捨てるように言った矛先では、ついに膝をついてしまったミュゲの王子がいる。言葉はないものの視線だけで罵詈雑言の念を帯びせるように機嫌悪そうな顔で彼を見つめ尽くした後、相変わらず不気味に嗤っているルクロア王を見据えた。


「おまえたちの裏は取った。兄上も、天空国(シエルロワヨーム)、サニタリア国、ミュゲ国の三国連衝の目論見は承知だ。お前たちが策動していた「神殺し」とやらを精査するため、ミ宗主国元帥の権限を行使しここにいる全員を拘束する」



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