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グロウステイル~王様が懐柔してくるのでその手に乗ってあげる前に大魔法使いになります~  作者: 天崎羽化
第10章 神と乱戦

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王子の騎士(1)(ロメオサイド)




 赤黒い空に嫌味なほど美しく輝く月を眺めながら、俺とは別次元で事を勧める彼らの動向を見守ること。それが今日のおれに科せられた任務だ。


「時間が止まってるのか」


 城の窓から中を窺うと、慌ただしく動き回っていた人間たちが、走り出したままの姿で一時停止していた。中には、食事の載ったお盆をひっくり返した中身が漏れたまま停止している者までいる。ここまでの異常事態は人ではなく魔法によるもの。


「この魔法は‥‥ミュゲの奴らにしか効かないのか?」


 おれがこの国に着いたのはついさっきで、異変はなかった。だが、城に入ると空気は一変し、この有様。


 報酬はいつものように【高くてうまい酒】に加え、【高額な報酬】普段は金の話すら出さないアルド様が出した好条件に飛びついたオレへの命令は、【ミュゲ国でのリリア・ハイムの看視と、シュライス陛下の警護】だ。


「まぁ、二人とも見つけられてないんだけどね」


 頭を掻きつつため息をつく。盗賊の頭領だった過去は消えない。それはアルド様にとって、俺を使う材料に他ならなかった。


「盗賊団なんて作るんじゃなかったなー」


 向いてないのは分かっていた。慕う人間すべてが自分に付き従い、チェスの駒のようにオレ優位に動いてくれないことも織り込み済みで始めたはずだ。だが、残念ながら人間と言う生き物は、理屈ではなく感情で動く者が大多数で、感情の琴線に触れてやり、共感し、使役するまでをコントロールしなければならない。でなければ、勤めを忘れた愚者の群れと成り下がる。


「類は友を呼ぶ‥‥か?」


 おれが創り上げた盗賊団のモットーは金持ちしか狙わない、だ。

殺しもできるだけせず、虎視眈々と高額なものだけを狙い続け必ず盗み出す。その仕事の鮮やかさと、街中で飲み歩くおれの羽振りの良さを見た一般人が弟子にしてほしいと頼み込まれるようになった。ほとんどが生活苦、もしくは生まれが貧しい子供ばかりで、国からはぐれ、祖国を持たないおれは乞われるまま彼らを受け入れた。部下が増えた俺は盗賊団「黒焔(こくえん)」という盗賊団を創った。


 窃盗のイロハを教え込み、それをマニュアル化することでおれの「駒」を増やし続けると、自ら動かなくても金が入るようになり、立派な組織へと成長した。

 だが、彼らは魔法使い(ソルシエ)ではなく人間だ。部下たちは寿命の短さを案じ、女を作り、家族を作った。盗賊であるという非日常の中にいながら、あいつらは普通の幸せを望んだ。そして、男として家族を食わせることを目的に窃盗を繰り返す部下を見ていたら、俺の中の熱が冷めていった。


 おれは、アンダーヴィレッジか開国したと同時に束ねていた盗賊団を捨てた。数百人、数千人と膨れ上がった部下やその下っ端たちは血眼になってオレを探していたとアルド様から聞いたが、戻る気はなかった。幸い、暴虐の国と言われるアンダーヴィレッジにまで探しに来る気概はなかったようで、その後はぷつりとオレを追う人間はいなくなり、独りになることができた。


 妙な縁で雇い主となったアルド・アルトゥールに仕えてからというもの、王室の覇権争いの仲裁や既成事実の作成、隣国からの陰謀を阻止するなど政治にまつわる仕事ばかり回され、国の政など一切興味なく生きてきたおれにとっては、起きる全てが真新しく、驚愕の連続だった。


「まぁ、大体が汚れ仕事だったけどな」


 人は人を使う。そして恨み陥れる。己の幸せのため、そして愛する者を守るために命を賭けて人を呪う。時には障害を抹殺して道をこじ開け、その先に在る確かな未来を血濡れた手でつかみ取ろうとする。

貴族だろうが、平民だろうが、騎士だろうが、王だろうが、人に欲望がある以上、この連鎖は止まらない。


「悪役って、疲れるんだよねぇ」


 アルド様の命令で動くそのすべての手柄は、手を下している俺には与えられない。闇に暗躍し、この世の誰にも覚られることなく【キレイ】にする。その結果、政や人間関係、国交問題はスムーズに事が運ばれ、国の頂点である王や当主に利益が生まれるまでがおれの仕事だ。そこに感情は存在できず、現実と真実しかないリアルな世界の中で、あるまじき事象や存在を消せという神の手の指示に従うのみ。


「すべてはお上の言う通り~ってね」


 疑問はない。国という組織はそう動いているというだけのことで、そこに疑問を持ち込む感情を持つ方が間違っている。情け容赦ないほど真っ白でシンプルな彼らの考え方は、人疲れしていたオレにとって、妙に心地よく感じられた。そんな日々を送る中、アルド様に変化が起きた。


「まさか女に与するとはね」


 女嫌いだとは思わない。それなりに遊んできたのは知っている。だが、感情に左右されることを何よりも嫌い、自ら制定した紳士協定に則って生きている彼が女一人のためにオレを動かしたのは初めてで、その命令も新鮮だった。


「パトロンの命も守りたいが、同胞になった彼女の命も守りたいってか?」


 神器(シーク)の魔守り人を兼任しているのは知っていた。その勤めがあるからこそ、リーガルから多額の融資を貰える権利があることも。そして、その使命を他者と共有することは断じてないという意地があることもわかっている。だが、リリア・ハイムという女が現れてからというもの、彼女の力に成れとか、看視しろとか、まるで自分の代わりにお守りをしろと言うがごとく、頻繁に命令を下す。挙句の果て

に、シンジケートのボスどもを前に、お前(リリア王妃)こいつ(ロメオ)を使っていいと宣言までした。これはもはや、事件だ。


「おれは姫の騎士じゃないってーの」


 異変があれば対処しろ。無理はするな。そう端的に言い残して去っていく姿に違和感が残っている。


「この国がこの状態になること、わかっててオレを寄越したんだろうな」


 嫌な役回りばかりなのは毎度のことだが、彼の千里眼には毎回恐れおののかされる。


「触らぬ神に祟りなしってね」


ざっと見渡しても人の気配がない。こんな状態では二人の居場所を聞き出すこともできないし、地の利がないおれが下手に動き回っても意味がない。


「とりあえず、入りますか」


 豪奢な窓の格子に手をかける。この手の窓は見掛け倒しなことが多く、トリガーになるポイントを砕くと簡単に外れる。お手製の七つ道具を駆使して鍵穴を弄ってやれば、カチャリと音がした。


「お邪魔しまーすっと」


 中に入ると増した異様な光景に息を飲んだ。老若男女が入り乱れ、涙で濡れた顔で逃げまどっていた様子を絵に収めたように固まる人間たちからは、生気を感じられない。近くに居た人間の手を触ってみても、温度がないことが証拠だ。


「まさか‥‥こいつら全員、仮死状態なのか?」


 不気味な光景に身震いしていると、上の階から妙な魔力を感じた。彼らを縫い潜り階段を上がって部屋を見渡す。幾つも連なる扉を眺めていると、行き止まりの扉の隙間から光が漏れ出していた。あの中にいるのは確実にヤバいやつだ。盗賊団で培った勘がそう言っている。


 何かあれば使っていいとアルド様に持たされた銃は、魔法攻撃を受け止められるという代物で、弾丸には魔法使い(ソルシエ)の魔力を一時的に弱体化させることができる魔法が込められているらしい。弾圧も強いため、普通の人間に命中しても威力を発揮し昏睡状態に落とせる。


「まぁ、牽制にはなるっしょ」


 固く閉ざされた扉に手をかけるが、触っただけでわかる。尋常ではない量の魔力。それらを指先から感じながら周囲を見渡した。


「‥‥お客さん、かな?」


 扉に手をかけた瞬間から感じた刺すような視線。その出所は魔法で隠されているのか定められない。背後からも感じるし、天井からも感じる。そのすべてが迎合ではなく警告であると、ひりひりとした感覚で体が訴えてくる。


「まぁ、これも仕事なんで‥‥ねっっ!!!!」


 諭すように呟いた次の瞬間、おれは鍵穴に向かって銃口を向け2発撃ち込んだ。金具が外れどさり鈍い音がしたのを合図に扉に体当たりして突破する。室内にいたのは、魔法陣の中央で苦し気に魔法を放つ白銀の青年と、心配そうに見守る執事服を着た男だった。


「‥‥だれだ!」


 執事服の男が叫んだと同時に体を起こす。目の前で繰り広げられる()()()()な光景に目を見開きながらも、おれの足は白銀の青年へと向いていた。


「王子に近づくな!何者だ!?」

「あ‥‥あぁ。すまない。おれは、ロメオ・バルタザールと言う」

「どこの国の者だ!!」

「‥‥それは言えない。だが、お前らに敵意はない」


 言い淀むおれに向かって、執事服の男が身構え手をかざした。ふわりと浮かび上がる紋章からわずかな魔力を感じる。


「立ち去らないのならば、この場で殺す」

「おまえら、城内が今どういう状態なのかわかってんのか?」

「承知している」

「全員、石みたいに固まってるんだぞ?こんなところでやり合ってる場合じゃ‥‥」

「‥‥おい」

「はい?」

「背後の輩は、お前の仲間か?」


 背筋が凍った。おれとしたことが、目の前に気を取られ背後にいる気配さえも感じ取れていなかったことに嫌気がさしつつ振り返る。

 佇んでいたのは、薄いブルーの瞳と同色の髪色の青年と、彼の風貌を宿した貫禄ある男だった。二人の目がおれを捉えると、嘲笑うようにクツクツと喉奥で笑い始め、そのまま胸元から短剣を取り出すと、おれに向かって一直線に刃を向け攻撃してきた。


「‥‥くっ!!!」


 銃身で切っ先を受けるが、ひ弱な青年の風貌からは考えられない刃圧に自分の腕がへし折れたかと思うほどの痛みが走る。


「おまえは護衛か?それとも、王子の騎士か?」

「っだから!!おれは!!騎士じゃないってぇの!!!」


 全身の力を込め青年を押し返す。その背後に佇む男は、おれの顔をみるなり気味の悪い笑みを深くする。とんでもないことに巻き込まれたと後悔しても遅い。観念し、おれは見覚えのある人相の男を睨みつけた。


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