戦法を褒められました
白馬に乗る彼の姿はさながら王子様そのもので、どんな令嬢でも頬を赤くして喜びそうなシチュエーションなのだろう。
しかし、これからこの手を取るたびに呼び起こされるであろう復讐心と羞恥心に、自分が耐えられるのか。
その未来を考えるだけで胸がざわめいた。
シュライスに抱きかかえられるような形で馬に乗り込むと、彼は馬を走らせた。
視界が上下に揺れ、激しい馬蹄のこすれる音とともに徐々に速度は上がっていく。
馬の鬣が風になびいて気持ちよさそうだ。
「馬に乗るのはひさしぶり?」
シュライスは馬の指揮を執りながらも、わたしの耳に頬を寄せて囁く。
むかしより低く甘くなった声がくすぐったい。
「そうね。リーガルからの宣戦布告があってから、わたしは陣頭指揮にこもりきりだったし、心を使いすぎて休みは休養に当てていたから、馬になんて乗る時間はなかった」
「・・・・きみが指揮をとっていたの?」
「先陣だけよ。後はお父様と軍隊長が考えていた」
「あの先鋒は見事だった。リーガルの先手をよく読んでいたし、なにより、扇のように広がる兵士たちが美しかった。あの手を出されてから、ローズリーとは長期戦になると踏んで、戦法を変えたくらいだ。そうか。リリアだったんだね」
シュライスはなぜか胸が弾んだような声で、まるで少年が宝物を見つけたかのようにわたしの戦法を評価した。
国営図書館や貴族図書館の蔵書には、歴代の戦法や指示書などが残っている。
それらを調べ、暗記し、わたしなりに造りこんだものだったし、フォースタスや父上に太鼓判をもらい、銘打った初陣でもある。
馬に乗りながら、キラキラした砂糖菓子の様に甘い彼の声を聞いていると、彼に殺され死んでいった者たちの死に顔とともに戦時の時間が蘇る。
リーガルとローズリーの違いは、「鋭利」であるかどうかの違いのみ。
正直、それ以外は互角の実力だとおもった。
リーガル国の戦法は、無慈悲にとことん殺しに切りかかり、手段を択ばない手法を駆使して攻め込むこと。
ローズリー国の戦法は、できるならば協働の道を選び、最小の死者で戦を終わらせるというスタンスを最後まで崩さなかった。
戦が終わった今になって、この矜持の違いが、戦勝国と敗戦国を分けた決め手なのかもしれないと、ぼんやりと考えていた。
「所詮は負け戦法よ」
拗ねるようにそう言ったわたしの髪を、シュライスが労うような手つきでなでる。
「美しい陣頭指揮は、強い軍師ほど感銘を受けるという。きみの先陣は、いつかどこかの国で戦争の参考になるレベルのものだと思っているけど。ぼくはきみを買いかぶりすぎているのかな?」
シュライスが小さく微笑む声を漏らすと、馬の横腹を軽く蹴りスピードを上げる。
風を感じながら、目の前に広がる「まだ」ローズリー国のものである木々たちの香りを吸い込むと、不思議なくらい心が落ち着いた。




