第65話 聖女ステラ視点、聖女の打撃を舐めないでください
「うへへ。お、おまえオデの好み。細くてムチムチ~~フャハハハ~」
「なんですか……気持ちの悪い」
デゴン三男、中肉中背の魔族。私の体をいやらしい目つきで舐めるようにジロジロと見てきました。
サッサと終わらせてしまいましょう!
私は聖属性の攻撃魔法を数発放つと同時に、いっきにデゴン三男まで距離を詰める。
「フャハ~~!?」
なにを驚いているんです。
小娘だと思って舐めてたんですか?
私、けっこう走れる聖女なんですから!
―――?
なんです? 不気味で大きな目をギョロギョロさせてるだけで、さして防御も取ろうとしません。
この魔族たちは自身の能力にかまけて油断しすぎですね。
「フャハハハ~~す、スゴぉおお~~ふくらみタユンタユンさせでる~~」
「……なっ! なにを!」
この魔族……私の胸を見ていたんですかっ!!
「この変態魔族!
――――――えいっ!」
【純白の聖女神杖】に聖魔力をのせて、思いっきりぶん殴りました。
「手応えありです! 変態はサッサと滅しなさい!」
「いでぇええええ!! でもキモチぃぃどぉおお!!」
「………」
「ちょ、【超回復】ぅうう! もっど~~もっど叩いてくで~~フャハハハ~~」
「――――――キモっ!!!」
なんですかこの魔族!
本当に気持ち悪いんですけど!
ですが、私の一撃を耐えた上にあの回復能力……腐っても上位魔族ですね。
くやしいけど、今の私の最高打撃で倒せないとなると。
「聖なる心よ、その命に終焉を
――――――聖なる慈愛!」
この魔法は相手の生命力を徐々に削り取っていきます。本来、不治の病で苦しむ人を解放する魔法。
私が使うことはないと思っていました。
ですが、この魔族を滅しなければなりません。
基礎体力を削ったうえで―――再度一撃を与えて終わらせます!
「フャハハハ~~オデの力を削るのかぁああ~~なら、オデも~~」
―――悪魔生命力減退魔法!」
クッ……!? 体の力が……
「まさか……」
私の魔法と同じ効果!?
「フャハハハ~~削り合いどぉおおお!!」
しまった、想定外です。まさか同系統の魔法を使えるなんて。
しかも想像以上に体力が削られる……
「クッ……だったら! 二重詠唱!!
―――聖上級回復魔法!!」
回復するまでです!
「オデも~~【超回復】ぅうううう!!」
こうして相手の体力を削りつつ、自分を回復させる。
根競べのような戦いがはじまった。
そして数分後。両者に違いが出始める。
体力を削る魔法の威力はほぼ同格です。
ですが、回復力は―――デゴン三男の方が上……
つまり私の体力が尽きるのが先ってこと。このままだとジリ貧です。
「フャハハハ~~おまえもうそろそろ~ダメだなぁ~~」
「クッ……黙りなさい魔族! あなたの思い通りになどなりません! ……っ!」
「フャハハハ~~おまえ本当にいいなぁ~オデの嫁にするど~~」
嫁ですって? ふざげないでこの変態!
私がだれのお嫁さんになるかなんて―――もう決めていますよ!
私には先約がありますからっ!
本当に気持ち悪い魔族です!
しょうがないですね……
魔力を大きく消費しますが、あれを使用する時がきたようです。
ぶっつけ本番なので、これに頼るのはリスクが大きい。
でも、そうも言ってられません。
「【純白の聖女神杖】! 今こそ私に力を―――
―――――――――召喚!!」
ラビア先生に頂いたこの聖杖。
調べてみると、とんでもない力を秘めていることがわかりました。
聖杖を中心に純白の光が眩く拡散していく。
純白の天衣をまとった見目麗しい女性がそのお姿を現します。
―――やりました! 成功です!
〖聖女ステラ、何事ですか?〗
そう、女神さまを呼べちゃうのです。この杖。
実体化した女神さまが、その神々しい口をお開きになる。
〖―――あ、もしかして焼肉ですかっ!〗
「……違います」
肩をがっくしと落とす女神さま。食べたかったんだ……
しょうがないですね。少しやる気を出してもらわないと。
「今日頑張れば、次は焼肉です」
〖聖女ステラ! それは本当ですか! 聖女の名においてウソ偽りはないですかっ!〗
食い気味に顔を寄せてくる女神さま。
そんなに焼肉が気に入ったんですか……
「コホン……女神さま、今日はあの魔族を討ち果たさななければなりません」
〖つまり、あの魔族をやれば、焼肉なのですねっ! ねっっ!!〗
……ちょっと不安になってきました。
〖ところでステラは随分辛そうですね?〗
やっと気づいてくれました。
さっきからずっと、死闘の最中なんですよ。
私は現状をかいつまんで女神さまに伝える。
〖―――わかりました! そういうことなら任せなさい、聖女ステラ!
魔族! この女神が出てきた以上、あなたの好きにはさせませんよ!〗
再びあのギョロ目を揺らしながら、鼻息を荒くするデゴン三男。
「うへへ~~また細くてムチムチ出てきた~~フャハハハ~」
〖ムチムチ……って! なんですかこの魔族は! 女神にむかって不敬ですよ! 最近は少し食べるの控えているのですからっ!〗
「こ、これででっかい膨らみ4つ~~全部オデのもの~~!」
〖はあぁ? 何を言ってるのですか? この魔族〗
「こ、こいつもオデの嫁にする~フャハハハ!」
〖――――――キモっ!〗
「はい、女神様。私も同感です」
〖聖女ステラ! こんな変態魔族、やってしまいましょう!〗
―――女神の加護! 聖女ステラよ受け取りなさい!!」
私の魔力が、聖属性魔力が高まっていくのを感じます。
さあ、魔族。覚悟なさい!
「―――聖なる女神の慈愛!」
「フャハっ? ぐひゃああああ~~ちょ、【超回復】!!」
先程より威力を増した私の魔法。デゴン三男の体力をより多く削り取っていく。
それが証拠に、【超回復】の効きが落ちています。
「フャハハハ~~で、でもムチ聖女はオデの【超回復】には勝てないど~~だから早く嫁にしてやる~~」
お馬鹿さんですね。
女神さまの力を得た私が―――魔族の回復力より劣るですって?
私は【純白の聖女神杖】に魔力をギュッと詰めて口を開く。
「聖女神の名の元に命ずる。すべての力をもどしたまえ!
――――――聖女神完全回復魔法!!」
純白の光と共に、私の体中に生命の息吹が駆け巡る。
永遠の輪廻のごとく。
どれだけ体力を削られようが、回復の勢いは止まらない。
「魔族! もうあなたのドレイン魔法は効きません! 聖女の癒しを舐めないください!!」
デゴン三男は、私の魔法で徐々に体力が削られていきます。
さあ! これで形勢逆転です!
「お。オデの【超回復】を上回る……う、ウソだぁあああ!」
私に向かってその中肉のお腹を揺らしながら突っ込んでくる、デゴン三男。
まあ、判断としては悪くないです。動かなければ、あなたに待っているのは完全敗北ですから。
ですが―――
【純白の聖女神杖】に残りの聖属性魔力を全て詰め込んで。
〖聖女ステラ、やっちゃいなさい!〗
「言われるまでもないです、女神さま!
―――――――――えいっ!!」
聖属性魔力を思い切り込めた、渾身の一撃が、突進してきたデゴン三男の脳天を直撃する。
「―――フャギャぁあああああああ!!」
眩い純白の一撃をうけたデゴン三男は、その体がボロボロに朽ちていく。
そのまま絶叫しながら、消失していった。
「覚えておきなさい魔族。私の一撃をそこらの少女と一緒にしないことです」
ふぅ……魔力をほとんど使い切ってしまいました。
でも、アビロスがいるのだから。なんの問題もありません。
あとは任せましたよ。アビロス。