第64話 悪役アビロスとブレイル(主人公)
巨大な雷の塊が俺に直撃する。
ぐぬぅううう! やっぱ痛てぇええええ!!
意識飛びそうだぜぇ……だがな。
避けるわけにはいかねぇんだよ。
俺の肉壁が突破されたら―――
ステラに当たるだろうがぁああ!!
「ぐっっ……このやろう……クソデカい雷ぶつけやがって……」
なんとか耐えきったが、俺の両足は体を支える力が残っておらず、膝からガクンと地に落ちる。
「あ、アビロス―――!」
ステラが駆け寄り、俺の身体を支えてくれた。
プスプスと焼けこげた音がして、全身の感覚がない。魔力も使用できずにガチの耐久力だけで防いだんだから当然か。
聖女の腕の中でぐったりする俺。
なんかこんなシーンが以前にもあったような気がする。
しかし、これで俺は使い物にならなくなった。
次に同じ攻撃が来たら、もはや防ぎようがない。
ステラの腕から顔をあげて、一人の男に叫んだ。
「ブレイル――――――次はおまえの番だぞ!!」
「あ、アビロス君……そんな黒焦げになってまで……」
「グダグダ言ってんじゃねぇ! さっさとぶちかましやがれ!!」
「うん、わかったよ。なんだかやれそうな気がしてきた!」
ブレイルから力が湧きだしてくるのを感じる。以前の地下室の時と同じ。
そう、覚醒した時の力だ。
ふぅ……やっと気合入りやがったか。
「悪役きっかけで感情爆発させてんじゃねぇよ……主人公。」
デゴン次男に向かって全力疾走する主人公の背中を見て、俺は呟いた。
「うぉおおおおおおお!
――――――栄光の斬撃!!」
少し不格好ながらも、力強い踏み込みからの跳躍。その勢いのまま剣を振りおろす。
そうだ、例え魔力が付与されて無くても―――思いっきり振りぬけ! ブレイル!
「ヒャグハッ!! このクソガキがぁあああ!!」
ブレイルの光の斬撃が、デゴン次男に直撃した。
三男の【超回復】で即座に傷口をふさぐ次男。
こいつらは、三男の【超回復】があるので、防御に関してはそこそこ無頓着だ。
だからブレイルの斬撃も簡単にくらう。
「でもよぉ―――軽いんだよぉおお!! ヒャハアア!」
「うあ……ぐっ」
デゴン次男の強烈なパンチがブレイルの腹を強打し、苦痛の声をあげるブレイル。
その勢いのまま体が宙を舞い、俺たちの眼前まで吹っ飛ばされてきた。
「ヒャハァアア!! 歯ごたえねぇなあ~~」
俺の眼前でぐったりするブレイル。
「ブレイル……良くやった。これで勝機はみえたぞ」
俺の言葉を聞いたブレイルは、ぶっ倒れたまま右手のみをグッとあげる。サムズアップしてやがる。
ハハッ、根性みせたな主人公。良くやった。
「シャハハハ~~勝機だぁ? てめぇもボロボロのくせにいきがるんじゃねぇよ!」
「少し黙りなさい、魔族。あなたたちの時間は終りです!
聖女の名において命ずる、聖なる息吹をこの者に与えよ
――――――聖上級回復魔法!!」
純白の光が俺の身体を包み込む。ステラの優しい匂いがする。
体の全ての傷がふさがり、新鮮な血液が俺の体中を駆け巡り始めた。
俺は、スッと立ち上がりデゴン三兄弟をギロリと見据える。
「おい、クソ魔族――――――誰がボロボロだって?」
「シャ~~か、回復魔法だとぉ……おい次男! どうなっている!」
「ヒャ~~あ、兄貴ぃいいい! 俺の【魔力使用禁止】が発動してねぇええ!!」
たしかに光属性が込められていないブレイルの栄光の斬撃は、たいした攻撃力はない。
だが、斬撃をくらった対象の特殊効果を全て無効にする。
この能力のみは発動しているんだよ。
そして俺たちに魔力が戻ったってことはよ―――
「うぉおおおお!!
――――――王家の赤い炎槍!!」
赤毛の王女がとんでもない速度で、デゴン次男に突っ込んでいく。
ハハッ、こういうことだよ!
「ステラ! デゴン三男をやれるか!」
「アビロス! だれに言ってるんですか? 聖女に不可能はありません!」
「よし……頼んだぞ。【魔力使用禁止】が封じられたといっても手強いことに変わりはない。油断するなよ」
「わかりました。アビロスも……あまり無茶をしないように! これはおまじないです」
ステラはそう言うと、走り際に俺の頬に唇を押し付けて行った。
―――ハハッ、これは気合が入るぜ。
「あ、アビロス君……僕……役にたったよね?」
「ああ、大活躍だブレイル! 本当に良くやった!」
ブレイルはステラの回復魔法で傷や体力は回復したはずだが、ぐったりとしている。
無理に覚醒した力を引き出したので、精神負荷が強すぎたのだろう。
「あとは、俺たちに任せておけ」
「あ、アビロス君……」
「なんだ? ブレイル?」
「ぼ、ぼくも聖女さまみたいに、おまじないしてあげる」
おい、なぜ唇を突き出す?
「それはまたの機会にな」
まあ頑張ったので、ここで全否定するのは可哀そうな気がした。
「ええ! またの機会! 楽しみだな~~またっていつ? 明日、明後日? それとも1時間後かなぁ~~」
クソっ。いらん事を言ってしまった……こいつマジで覚えてそうで怖い。
が、今はそれどころじゃない。
「ナリサ、ウルネラ! エリスとブレイルを頼んだぞ!」
「「まかせてアブロス君!」アビロっち!」
ゲーム原作ではブレイル(主人公)がデゴンを倒すことになっている。
が―――悪役がデゴンを倒す世界。
そんな世界が、ひとつぐらいあってもいいだろう。
俺たちはそれぞれの最終決戦にむけて、進み始めた。