第63話 悪役アビロス、久しぶりに耐える
ステラの聖属性閃光弾が―――
ウルネラの巨大な火球が―――
マリーナの激烈な炎の突きが―――
ブレイルの光の斬撃が―――
そして、俺の超重力を付与した黒い斬撃がデゴン3兄弟に放たれる。
―――やつらに動きがまったくない!?
その場で俺たちを見下すかのようにニヤニヤとする三兄弟。
なに余裕ぶってやがる! これで終わっちまうぞ―――
―――!?
なんだ! 俺の剣が……軽い!!
この感覚、魔法付与が解除されているのか!
横を追走するブレイルの剣も、光が失われている。
俺とブレイルの斬撃はデゴン長男に達する時には、ただの斬撃に変わっていた。
「シャハハハ~~よっと!」
デゴン長男は自身の爪を伸ばして、軽く俺とブレイルの斬撃を弾く。
「……っ! 魔法が……」
「うっそ……なにこれ? 意味わかんないんだけど……」
ステラとウルネラの魔法は、デゴン三男に到達する前に消えてしまった。
「―――うらぁああああ!!」
マリーナもその膨大な炎の衣を失い、ただの突きになっている。
「ヒャハハハ―――軽いなぁ!!」
構えた盾を振り払い、マリーナはスピアごと後方へ弾き飛ばされた。
なんだこれ?
特殊な魔法防壁か結界でもはっているのか?
いや……違う。
俺の中に感じるいつもの感覚がない。
――――――魔力だ。
デゴン次男がニヤリと口角を上げた。
「ヒャハハハ―――【魔力使用禁止】ぃいいい!!
てめぇらは一切魔力が使えなくなったんだよぉおおお~~ヒャハハハ!!」
固有能力か―――
上位の魔族や魔物が持つ独自能力。
にしても【魔力使用禁止】ってなんだよ。無茶苦茶だ。原作にもそんな能力は出てこなかった。
「アビロス君、回復魔法も使えないよ……このままじゃエリスさまが」
エリスを抱きかかえたナリサが悲痛な声をあげる。
「シャハハハ~~じゃあそろそろ死んどくかぁ~~ゴミども!
―――悪魔雷球魔法!」
三兄弟から同時に放たれる雷の弾丸。
チッ、通常の斬撃で防ぐしかないか―――
そこへ俺の横を赤い人影が飛び出して行く。
「魔力が使用できないからなんだ!
であれば―――この鍛え上げた力で押すのみだ! うぉおおおお!!」
マリーナは正面の雷弾をスピアで突き破り、そのままデゴン次男の腹部に槍を突き立てる。
「グヒャハ!! こいつ……人間のくせにバカ力じゃねぇか! 弟よぉおお!!」
「フャハハハ―――ちょ、【超回復】ぅううう!!」
三男の声とともに、デゴン次男の傷が一瞬にして塞がっていく。
こいつも、固有能力もちか―――
「ヒャハハハ~~それ~~」
再び雷弾を放つデゴン次男
マリーナは雷弾を交わすためにいったん後方へ跳ぶ。
ステラは、ウルネラ、ナリサ、エリスの前に立って、近づく雷弾を聖杖で叩き落としている。
魔法の連撃速度が速い! これじゃ防戦一方になるぞ。
この状況を打破するには……
「ブレイル! おまえの【栄光の斬撃】が必要だ!」
「ええ! アビロス君……ぼくそれは上手くできないよ……」
【栄光の斬撃】、相手のいかなる特殊攻撃も無効化する。覚醒後の主人公チート斬撃。特殊攻撃自体は魔力を消費するわけではないので、理論上は使用可能なはずだ。
訓練では1回だけ発動したが、その後は一度も発動に成功していない。
その1回は母親をけなされた時―――つまりブレイルにとって大事なものを傷つけられた時だ。
おそらくブレイルの闘争心が一定以上に上がると、発動可能状態になるのだろう。
「ブレイル! おまえならやれる! 自分の中の闘志を前面にだしてみろ! ―――グッ!」
言いながらも、デゴン兄弟の放つ雷弾を必死に叩き落とす。
クソッ、やっぱ魔力が使用できないのはキツイな。
「――――――ゴハッ!!」
そこへ再度突撃したマリーナが飛ばされて来た。回転しつつなんとか受け身を取る赤毛の少女。
「マリーナ! 大丈夫か?」
「大丈夫もクソもない! わたしはあいつらを必ず討ち果たす!」
「そのとおりだ。だが少し落ち着け」
「ふぅ……そうだなアビ。正直なところ魔力なしはキツイ。しかし攻撃の手を緩めるわけにはいかないぞ」
少し一呼吸入れたマリーナ。すでに体はボロボロだ。
彼女のバカ力は凄まじいが、デゴンは上位魔族である。魔力・身体能力ともに一般レベルを大きく上回る。
今はマリーナの猛攻がデゴンたちの気を引いているが、長くは続かない。
「―――ブレイル! まだか!!」
「あ、アビロス君ちょっと待って……」
「なんでもいい! 怒れ!」
「む~~~ん。む~~~ん」
やはりいきなりは無理か。
この世界でのブレイルは、闘争心を燃やすようなキャラとして成長してこなかった。
なにか感情が爆発するきっかけがあればいいのだろうが、敵は待ってはくれない。
「シャハハハ~~どうした! もう来ないのか~~ならそろそろ終わりにしてやる!」
三兄弟がそろって魔力を練り込み始める。
―――デカい魔法がくる!! こいつは通常斬撃では防ぎきれん。
しょうがない……久々だがやるしかない。
「「「シャハハハ~~まとめて死にやがれ!
―――三兄弟悪魔雷球魔法!!!」」」
予想通りの巨大な雷球だ……だが―――
「――――――不屈の肉壁ぇええええ!!!」
悪役の耐久力―――舐めんなよぉおお!